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マルコム=C=ルベリエ長官は会議室の大きなテーブルに両肘を付き、クロス・マリアンをねめつけていた。当のマリアン元帥はといえば、テーブルの上に足を投げ出しなんとも挑戦的な態度をとっている。まったくまったく、仮にもエクソシストであり神父であるはずの人間がとる態度ではないだろう!監査官たる私、ハワード・リンクは長官の座るイスの横にビシリと背筋を伸ばして立ちながらマリアン元帥のこれまでの動向について説明をしている。
「―そしてそのまま独断で方舟を使用し、日本から4年ぶりに本部へ帰還。以上です」
説明を終え、きっちりとお辞儀をしてイスに着く。
「このイスに座るのも4年ぶり。いやぁ、ご苦労様でしたマリアン元帥」
顔に若干の微笑みをたたえながらマリアン元帥にそう言うルベリエ長官。
「ですが?正直こちらはヒヤヒヤでしたよ。あなたが突然姿を消されてしまって?身内を疑いたくはないですから。ね」
「敵の腹の中に潜り込まねばならない危険な任務でしたので。どこに潜んでるか分からない伯爵の手先を警戒しての行動です。元帥狙いでハート狩りをはじめられたのにはヒヤッとしましたがね」
責められているのにも関わらず飄々と答えるマリアン元帥。その器は驚嘆に値するが、しかし何より場に応じた態度というものがあるだろう。長官はマリアン元帥に微笑みかける。そして次の瞬間その表情はぎらりと鋭いものに変わった。その威厳たるや!
「任務が成功したから通る言い分ですな。本来なら厳重処罰ものだ」
「だから監視代わりに教団へ自分の娘をやった、とか?」
「…今何と仰いましたかね?」
マリアン元帥が変わらぬ口調でそう切り出す。途端、長官の声が低くなった。なんと!いくら元帥と言えど口にして良い事と悪いことがある!
「お言葉ですが元帥、」
「リンク監査官、大丈夫です」
「…すみません」
長官は立ち上がろうとする私を制し、ふむとひとつ息を零した。
「マリアン元帥、本気でそう思われておいでかね?」
「さて、どうでしょうね。しかしタイミングが良いといえばあまりにも良い。まさかまたあの実験をしたわけではないでしょうね」
「面白い事を言いますな。それは室長に聞いていただければすぐに分かることでしょう?あなたも知っての通り、適合者以外の人間にイノセンスを埋めるためにはヘブラスカに頼まねばできない。まぁ、それでも尚疑っているというのなら好きに調べてください」
「そんな事しませんよ。分かりきっていたことですしね。アイスブレイクにならないかと思って話してみただけです」
ひょいと肩をすかしてみせるマリアン元帥。何がアイスブレイクですか。むしろ凍りついてしまっているというのに!
「構いませんよ。話を戻しましょう」
「そうですね」
「そう、本来なら厳重処罰ものなんですよ。マリアン元帥、あなたが行ったことは」
ようやく話が戻り、場の空気も気まずいものからピリピリとしたものに変わる。
「ですが今回の江戸戦は我々にとって戦況を大きく変えるものとなりました。プラントを奪取し、アクマの供給を一時的でも阻止できた。これにより…―」
それからも長官の話は続き、方舟をエクソシストに使用させるという提案がなされた。支部長たちから非難の声が上がったが、長官は断固として譲らない。それから更にアレン・ウォーカーを異端審問にかけるという提案も上げられる。これには室長も声を上げたが、結果としてマリアン元帥が許可したため遂行される事が決定した。そしてその監視役には自分がつけられた。
さて、重役を任されたからには立派に遂行しなければならない。まずはあらゆる質問を書面にまとめ、それから一日のスケジュールを考えなければ。あぁ、お近づきのしるしとしてパンプキンパイでも焼きますか。そういえばハナコは私の作るパンプキンパイを好んで食べていましたね。彼女の分とふたつ作りましょう。
会議を終え、私は早速準備へと取り掛かった。