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「ハナコっ!合席してもよろしいですか?」
「どうぞ」
「おっはようさーハナコ!」
「おはようございますラビ」
「おはようハナコ嬢」
「おはようございますブックマン」
僕はラビ、ブックマン、そしてリンクとともに食堂へ来た。道中リンクに食のバランスについて文句垂れられながら食堂に着き、真っ先に彼女の姿を探した。そしたらやはりいつもの席にひとりポツンと座っていて。昨日のこともあったからご機嫌ナナメかと思いましたが、いつも通りで良かったです。僕が彼女の隣に座ろうとすると、その間に影が差した。
「おはようございます、ハナコ。昨夜はきちんと眠れましたか?」
「おはようハワード。こどもあつかいしないで。ちゃんと寝れた」
「えちょっ、リンク!?」
「なんですか、ウォーカー。朝っぱらから騒がしい。どうか耳元で騒がないで下さい」
「監査官ってばハナコにご執心なんさー?いっがーい!」
「うるさいですよブックマンJr.」
いやいやいやいや!どうしてそんな普通なんですか!そこは今まさに僕が座ろうとしていたところだったのに!それならばと思い、反対側に回って彼女の右隣に腰を下した。リンク、今あなたが不満そうに鼻を鳴らしたの分かりましたからね。あなたどれだけ僕をハナコから遠のけたいんですか!ちなみにラビは彼女の前の席に座った。ブックマンはその隣。チッ。ラビの位置も中々美味しそうですね。
「そういえばハナコ。昨日、僕に見せたいものがあるとか言ってませんでした?」
「えっ、なんさそれ!オレも気になるー!」
その話題を持ち出すと、ハナコの表情がぱっと輝いた。ような気がする。
「はい。まえに方舟のなかでつくりかけていたばくだんが完成したのです」
「えぇっ!?ハナコあなた、アレをずっと作ってたんですか!?」
「ずっとではありませんが」
「方舟?ハナコなんか作ったんか?」
「壊れたゴーレムをバクさんから奪って爆弾作ろうとしてました」
「でぇぇっ!?ど、どういう状況さそれ!」
「ハァ…。そんなところだろうとは思っていましたよ」
ラビは驚きながらハナコを見遣り、リンクがこめかみを押さえながら低い声でそう言う。しかしこればかりは僕もどうしたらいいのか分かりません。ハナコには悪いですけど、そんな物騒なものを作るのは科学班だけにしてほしいです。そんな僕らの思いとは裏腹に、ハナコはベラベラと説明を始めた。
「ゴーレムをもとに作っているからサイズは小型。爆薬はすくなめですが電気かいろのショート時に生じる電力のおおはばアップに成功。さらにショートした際の電気が爆薬に引火、その後電気がゴーレム全体をおおい爆発はその電気のなかでおこる。それからじょじょに…」
「おぉぉ…いつも舌っ足らずのハナコがえらく饒舌になってるさー…」
「なるほど。ハナコ嬢は中々頭脳明晰のようじゃな」
「すみません、僕にも分かるように説明していただいてよろしいですか…?」
「つまり彼女は、電気と火の融合による破壊力の増大を狙っているんですよ」
「あぁ、ハワード!それはわたしのセリフだったのに!」
「前にも言いました通り、それは没収です。まったくまったく、あなたはどうしてそうしょうもないものを作りたがるんですか。以前そのせいで中央庁を半壊に追い込んだのをもうお忘れですか!」
「えええ!?そんなに威力すごいんですか!?」
「あっ、あれは…!爆薬のりょうをはかり間違えただけで…!」
「おっ、なんだか慌ててるハナコとかレアさー!」
珍しくオロオロとし始めるハナコ。め、珍しい…!余程その時怒られたのが効いてるのでしょうか。つーかラビ黙りやがれコノヤロウ。
「あの時の情報隠蔽に一体どれほどの労力とお金を費やしたか覚えてますか?」
「…(プイッ)」
「ハナコ…」
「そ、そんなにかかったんさね…」
「はぁ…しょうがないですね、まったく」
リンクはあからさまに溜め息を吐くと、ハナコの頭をガシッと力強く掴み顔を自分に向けさせた。あ、あなた何をするつもりですか!!
「いい子ですから、ハナコ。今のうちにその爆弾を寄越しなさい。今なら折檻は無しですよ」
「…う、う、う…」
「監査官そこら辺にするさ!」
「ちょっ、リンク!?程々にしないとハナコが泣いてしまうじゃないです…、!!!」
か。あと一文字だったのにそれを遮ったのは僕の左目がアクマに反応したから。真っ先に食堂を飛び出すように駆け出した。
「アレン!?」
「アクマだ!!」
「なんと」
その場にいたラビ、ブックマン、ハナコ、リンクも後ろから着いてくる。
「さっきリーバーさんがいたラボからすごい数の反応がある!!」
アレンがそう言うと同時にラボの入口に着いた5人。そして目の前の景色を見て足を止める。ラボの入口が黒いカベによって塞がれていたのだ。
「ラボの入口が…塞がってる…!」
「なんだこの黒いカベは」
「この!」
ラビがカベに向かって攻撃を仕掛けるが、それはビクともしなかった。リンクはカベに耳を当て音を拾おうとしているがそれも叶わない。アレンは科学班の皆を心配するあまり、いつも通りに思考が回らなかった。
「くそっ、こじ開けてやる」
「まて、ウォーカー!こっちに!」
「!?」
「ここではない。方舟のゲートをつかえばなかにはいれる」
リンクとハナコがそう言うと、アレンははっとしたようにそちらに駆け出す。その後ろをハナコたちが着いていく。
「ラビ、リンク。あなたたちはここにのこりなさい」
「は!?何言ってるんさハナコ!」
「あなたのイノセンスはまだ修理中でしょう?」
「あ…でもなら、ハナコも一緒じゃねぇか!」
「だいじょうぶです。アクマをたおせなくても、生きのこっている研究員さんたちをまもるちからならある。それに、いくつか暗器ももっています。死にはしない」
「…分かりました。ハナコはウォーカーと共に行きなさい」
「ちょっとリンク!何を言ってるんです!ハナコを行かせて本当に大丈夫なんですか!?」
「ハナコなら大丈夫です。…どうか死なないよう」
「ありがとう」
「…絶対ェ生きのびるんさ、ハナコ!」
「もちろんです」
そして彼らは散り散りになった。アレン、ブックマン、ハナコは無言で冷たい廊下を走った。
一方、ラボでは。多くの研究員たちがアクマによって瀕死状態まで追い込まれ、身動きのできない彼らは床に並べられていた。リーバーやバク、その他のなんとかそれを免れた研究員たちは、彼らを思いながらも自分たちに出来る最善を尽くしているところだった。リーバーたちは今、この時間の内に即席のタリズマンを作っているところで。その時、アクマたちの動向を見張っていた北米支部長であるレニー・エプスタインがあるものを見た。
「バク!奴らの方舟から何か出てくるわ」
「!」
そう、まさに方舟から何かが出てきているところだったのだ。それは骸骨のような頭をもった、ずんぐりと大きな体を持ったもので。そいつらは並べられた研究員たちの頭に手を翳す動作をし始めた。そしてバツを付けられた人はアクマによってとどめを刺されていく。それを見て今にも飛び出しそうになっているリーバーを、バクが説得にかかる。
「我々が奴らに向かっていっても状況は何も変わらん!装置を造る手を止めるな!今は少しでも生き残る為の最善を尽くせ!!」
「……っ」
「希望を持て!外に連絡がとれなくてもウォーカーの左眼があるだろう」
彼ならきっと気づいてくれる。耐えるのだ。バクはリーバーに言い聞かせるように、また自身も意識を保つためにそう言う。その時、ジョニーが声を上げた。
「タップ…」
「!?」
バクは急に立ち上がろうとしたジョニーの方を向く。ジョニーの視線の先には、横たわったタップの頭に手を翳しているあのスカルの姿があった。少しするとそのスカルはタップの頭の上で片手で印を組み、何かを唱える。次の瞬間、タップの姿はたちまち真っ黒になってしまった。そしてさらにスカルが何か唱えると、先程まで横たわっていたタップであったそれは上半身をむくりと起こす。その頭はスカルと同じそれで。それを見てリーバーはついに堪えきれなくなり、銃を持ってその場に躍り出た。一発目で見事にスカルのこめかみに当てる。
「あイタ★」
「何てことしやがる…っ」
彼は銃を構えたままスカルに歩み寄る。
「科学班班長のリーバー・ウェンハムだ。デキのいい脳ミソが欲しいんならオレをやれよ」
「班長…!」
「班長ぉ…」
横たわっている研究員たちが泣きながらリーバーを呼ぶ。リーバーは変わり果てた同僚のタップを、涙を流しながら見つめた。
「タップ…こんな姿に…」
ぎりっと歯を食いしばってから彼はスカルを睨みつける。
「オレの部下をテメェらにやるなんざ冗談じゃねェ!」
「"班長"!大歓迎だねェ。じゃあお前2体目だ」
スカルが見た目には想像できない速さでリーバーの前に来て、彼の額に指を翳した。リーバーは強く目を瞑る。ぐっと彼がくぐもった声をこぼした時だった。不意にブッと耳障りな音が彼の鼓膜を揺らした。はっと目を開けると、目の前には真っ二つになったスカルがいて。さらにそいつに突き立っている白い剣の上には、見慣れた白髪が揺れていた。
「ア、アレン…」
「許さないぞ、お前達」
アレンは静かにそう言い放った。