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ハナコは今、バクやリーバーなどの生きている科学班の皆の護衛にまわっていた。衛羽で彼らを護り、向かってくるアクマの足止めに縛羽を使う。イノセンスが修理中の間は護符を沢山所持するようにしていたのが役に立った。少しすると戦況が傾いてきた。ブックマンがアクマの能力に当てられたのだ。それを見たハナコは手持ちの札を確かめると、衛羽をバクたちのために発動させたまま彼の元へと向った。
「おい、ハナコ!?どこに行く気だ!」
「ブックマンがあぶない」
「お前何を…」
「バク、手をとめるな」
イノセンスが無いためアクマやノアに対してほぼ丸腰の状態であるのにも関わらず、ブックマンのために駆け出したハナコを複雑な思いで見送るバク。ずっと、エクソシストの為に命を張る仕事をしていたハナコ。今彼女は、おそらくエクソシストとしてではなく鴉として動いている。バクは、それでは意味がないと心の中で叫んだ。
「さて。さよならだジイさん。エクソシストがたった2匹で勝てると思ったのかい?」
「ただしくいえば、2人と1羽です」
「ア?」
ハナコはブックマンにとどめをさそうとしているアクマの頭を蹴った。もちろんそれはレベル3に対して大きなダメージになるはずもなく。
「ハエが1匹いたって、なんにもならないよ」
「あなたにはこれがハエの羽にみえるの?」
「?」
「炎羽」
「!!」
ハナコは足に貼り付けていた護符を、蹴った瞬間にアクマの顔にうつしていたのだ。その札はハナコが呪文を唱えた瞬間爆発した。その拍子にアクマが後ろによろめく。しかしアクマも一体ではないため、他のアクマがハナコに攻撃を仕掛けてくる。ハナコはブックマンに衛羽を投げ、その後新たに札を出した。そして向かってくるアクマの攻撃を避け、ブーツに仕掛けていた炎羽つきの暗器を飛ばす。それがアクマの顔面に直撃したのと同時に呪文を唱え、爆発させるハナコ。その様子を見ていた他のアクマが口を開いた。
「お前、術師か?」
「…ただのカラスだよ」
それからハナコは、バクたちがタリズマンを完成させるまでの時間稼ぎのために、多数のアクマに対して戦闘態勢に入った。完治していないのにも関わらず、顔は無表情だ。
「羽をむしればただの肉だろ!」
「むしれるならね」
「死ねェエ!!」
ハナコは札と暗器を使いながらアクマに応戦。少しするとタリズマンができたのか、ブックマンのもとへはリーバーが駆けつけた。小癪と呟き、タリズマンを破壊しようとするアクマに縛羽を投げるハナコ。
「かれらには近づけない」
「ならまずはお前からだ」
その時、アクマがニィと笑う。ハナコはそれに何か嫌なものを感じ、さっと身を翻せば彼女の後ろにはいつの間にか2体のアクマがいて。とっさに衛羽を使おうとしたが、ここで自分に使っては意味がないと判断してしまう。彼女は殴りかかってきているアクマのその拳に足を当て、振り抜くその勢いでブックマンたちの方へと吹っ飛んだ。
「ハ、ハナコ嬢…」
「だいじょうぶです受け身はとりましたこちらは問題ありません。ブックマン、つらいでしょうがいましばらくの辛抱です」
ハナコがそう言うと同時に、アクマの卵があった場所が光った。すると先程まで消えかかっていた卵が元に戻ってくる。そしてその卵降り立ったのは元帥たちで。ハナコがほっとしたのも束の間。アクマはハナコへの攻撃を再開したのだ。
「おかしいね。エクソシストじゃないんだからぷちっと潰せると思ったんだけど」
「しぶといハエだね」
「潰すんじゃなくて、ねじろう」
不穏なアクマのやりとりを聞きながら、ハナコは黙って戦う。もう少ししたら、元帥たちが応戦してくれる。そうしたら自分は、護りに徹すればいいと考えていた。しかしここで彼女の体が傾く。前回の戦いで出来た傷口が開いたのだ。
「ふっ…ハ、」
「おっ、痛そうだね。なら今だ!!」
「おーおー。随分と弱ってんじゃねェか、子ガラスよ」
顔を上げたハナコの視界に映ったのは、赤。
「…クロス元帥、」
「お前は護りに徹しろ。その羽はその為にあるんだろ?」
ニヤリと笑ったクロスに、ハナコは無表情ではいと答える。そして言われた通りに衛羽の呪文を唱えた。ハナコは、目の前の光景をただ無心に見つめた。アレンやブックマンがどんなに頑張っても倒しきれなかったアクマを、こんないとも簡単に破壊していくことに強い関心と、少しの劣等感を感じたのだ。
しばらくすると、アクマはすべて元帥たちの手により破壊されていた。マリが司令部にその旨を伝えている。ハナコはブックマンを支えながらアレンたちのところへ向かい、合流。
「ハナコ!!怪我はありませんか!?」
「はい、問題ありません。ウォーカーこそだいじょうぶですか?」
ハナコは淡々と話ながら自分の服を裂いていく。彼女のその行動に、アレンは顔を真っ赤にしながら口を開いた。
「ななっ、なっ、何をしてるんですかハナコッ!?」
「なに、と言われましても。研究員さんたちがアクマのガスを吸いこんではたいへんですから。なにか布を…」
言いながらハナコは、自分の服の一部であった布をリーバー達研究員に配っていく。渋い顔をして受け取る人がほとんどであったが、吸ってはいけないという現実から取り敢えず素直にもらっていた。アレンはその布を当てたまま上の階へ退避するようにと研究員たちに言うが、リーバーだけは首を横に振る。改造され連れて行かれた部下たちを止めようとしているのだ。その様子を見ていたハナコが不意に顔を上げた。じっとアレンの顔を見たあと、さっと身を翻す。
「なにが腑におちていない、ウォーカー」
「えっ?」
「なにに戸惑っているのですか」
ハナコは顔だけを振り向かせ、アレンを見る。どうやら彼女は空気は読めないが、表情から人の気持ちを汲み取ることに長けているようだ。アレンはハナコに近づき、小声で耳打ちする。
「僕の左目が微かですか反応してるんです。もしかしたらどこかにまだ息のあるアクマが…でも、あまりにも弱くてどこにいるのか分からないんです…」
「わかった。ウォーカーはあっちへ。わたしはリーバーさんに付きそいながら探す」
「はっ、はい!」
ハナコはそう言って、リーバーに歩み寄る。少し距離を取ろうとした彼に容赦なく最後の一歩で近づき、彼の背中に腕を回した。
「やっかむのはあとでいいです。改造された部下たちをすくいにいくのでしょう。せんえつながらわたしがお供させていただきます」
「……助かる」
「いえ」
ハナコは短く返事をし、リーバーに合わせて歩き出した。