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イノセンスである手裏剣は、未だ炎に包まれたレベル4のもとからハナコのもとへと帰ってきた。それを受け止めて構えなおす。その時、ぐらりと彼女の体は傾いた。レベル4は黒檀の炎から抜け出し、怒り狂ったような目で笑いながらハナコを見やる。


「あはっ!あはははっ!なんだ。えらそうにしておきながら、もうしにそうじゃないですか」
「うっ…だまれ、ぶさいく」
「くちぎたないえくそしすとが!しねぇ!」


レベル4はチャンスとばかりにハナコに襲いかかった。ハナコは手にしていたイノセンスで応戦するが中々体が追いつかず、気付けば彼女は押されていて。体中を走る激痛とも戦いながら、必死で意識を保とうとする。しかしその瞬間は思っていたよりも早く訪れた。

彼女の体に幾何学模様のようなあざが広がりはじめていたのだ。


「ふふっ。どうやらじかんのもんだいのようですね」
「…うるさい」
「うるさいのはどっちでしょうねぇ!」


そう言ってレベル4はハナコの首を鷲掴み、宙吊り状態になるように持ち上げた。ハナコは苦しそうに表情を歪める。その表情を見てレベル4はニヤリと笑った。


「もうかるくちはたたけないでしょう?ぼくにかなうわけないんだから、おとなしくしんでればよかったのに」
「ゲホッ、えほっ…」


掠れる視界、遠ざかる音、薄れる意識。気がついたら痣はもうほとんど全身を覆っていた。誰かが自分の名前を叫んでいるのをなんとか聞き取ったが、もう体が動かない。

ヒュウヒュウとなる呼吸音が少しして、止んだ。





「ハナコォーッ!!!」



アレンを守っていたハワード・リンク監査官は必死で彼女の名前を叫んでいた。今すぐにでも彼女のもとへ駆けつけ、護ってやりたい。しかし今自分の足元で蹲っている白髪の少年を見捨てることは任務に反する。それがなんだ、彼女の方が圧倒的に優先順位は上だろう。それでも足が動かなかったのは、今にも駆け出そうとしていたリンクに向かってハナコが微笑んだからだった。その口元は小さく何かを綴っている。


"ふ、せ、て"


読唇術を心得ている彼がその三文字をひとつも見逃すことなく、リンクは彼女の言っていることを把握した。彼女が震える手で懐に手を入れているのを見て、リンクからさっと血の気が引く。ハナコは困ったように微笑んでいて。懐から出てきた彼女の手には、とても見覚えのある黒くて丸い物体。それはまさしく彼女が発明したと嬉々として言っていた例の爆弾である。


「やめなさいっ!ハナコ…!!」


リンクはそう叫ぶが、ハナコはにこりと笑ったままその爆弾を油断しているアクマの顔に放り投げる。瞬間、とんでもない爆音とともにびゅうと電気をまとった旋風が起こった。咄嗟に全身を使ってアレンを電流の走る風から守るリンク。

ようやくして煙は晴れた。


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