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煙が晴れてリンクは真っ先にハナコの姿を見渡すが、どこにも見当たらない。代わりに目に入ったのは、顔から腹にかけて真っ黒に焦げさせたレベル4だけ。


「くそっ、くそっ!あのおんな!ぼくになにをした!?」


少しパニックになっているレベル4だったが、ハナコの姿が見えないことを確認すると笑い出した。


「あははははっ!じぶんがしんでいるのではいみがないですね!ぼくはすこししかダメージをうけてないというのに!いぬじにとは、なんともおろかな!」
「レベル4…っ!」


リンクは怒りで狂いそうになるのを必死でこらえ、ぎりりと歯を軋ませる。リンクの下で蹲るアレンも怒りを露わにするが、動かない体では何もできない。不意にティムキャンピーがアレンの襟をぐいぐいと引っ張る。


「なに、ティム…」


ティムキャンピーは必死で一点を指していて、リンクとふたりでそっちをよく見る。彼らの目に映ったのは、壁の隅のほうで倒れて動かないハナコだった。すぐにでも飛び出そうとしたリンクだったが、幸いなことにレベル4はハナコがそこにいることに気付いていない。


「(くそっ…ここで下手に動いてレベル4に見つかったら、それこそ厄介だ…!)」


そう判断したリンクは、ハナコとは反対方向に行こうとするレベル4を見送ってから動き出した。アクマの叫び声のせいでまだ頭がグラグラするものの、彼の足取りは確かなもので。さほどの時間を取らずにハナコのもとへ着いたリンクは、ボロボロになっている彼女を抱きしめた。いつもなら抱きしめた時に当たる、手触りのいい長い髪は焼け焦げて所々バッサリと短くなっている。腕から肩にかけてには幾何学模様のあざが広がっていた。


「ハナコ…っ!すみません、私に力がないばかりに…っ。あぁ、どうして貴女ばかりがこのような目に遭わなければならないというのでしょうか…!!」


くてりと力のない彼女の体を今一度強く抱きしめなおす。ふと、微かではあるが彼女の心臓が鼓動しているのを感じた。次の瞬間、自分の髪の毛がゆるりと引っ張られる。リンクはハッとしてハナコの顔を見た。


「ハナコッ!?」
「…ぃ、を…」


彼女の焦点の合わない目が宙を彷徨っている。浅い息をしながら必死で何かを言おうとしているようだ。


「なに、を…してる、の…」
「何って、」
「うぉ、かぁを…まもらなくていいの…?」
「それどころではないでしょう!貴女はもっと自分の心配をしてください!」


ハナコがこんなにも傷ついてボロボロになっているのにも関わらず、彼女の口から他人を守れという言葉が出たことにリンクはどうしようもない気持ちに駆られた。彼女は自分の事よりも他人のことをずっと優先してきたから。そうしなければならなかったから。でもまさかこんな状況下でさえ他人のことを気遣うなんて。


「…ありがとう、でも…」


いまはせんそうちゅうだよ、ハワード。そう言ってハナコは手探りでリンクの頬を撫でる。リンクの目からは涙が溢れていた。


「だい、だいじょぶ…すこしやすんだら、もとどおり、よ」
「ハナコ…お願いですからどうか無理をしないで下さいまし。貴女にいなくなられたら私は…私もあの喧しい鴉どもも生きてはいけません」
「…ふ。なきごとをたれる、な…。はわーど、おねがい。わたしのかわりに…かれらを、」


ハナコはリンクにもたれ掛かるようにして耳打ちする。まもって。その一言を言い終えると、今度こそ事切れたように動かなくなったハナコ。一瞬慌てたリンクだったが、まだ生きていることを確認した後すぐに彼女を安全であろう場所へと移動させた。


「これが終わったら、日当たりの良い場所で私の作ったケーキを一緒に食べましょう。約束ですよ」


彼女のもとを離れ際、そう言って彼女の額にキスを落としたリンク。それからさっと踵を返してアレンの元へと戻る。彼の元へ着くと、真っ先にハナコの安否について問い詰められた。


「ハナコはっ!?生きてるんですか!?」
「喧しいですよ。生きているに決まっているでしょう」
「ほ、ホントですか…!」
「あなたを守るように言い遣わされてきました」


リンクがそう言えば、アレンは悔しそうに顔を歪める。彼女に守られてばかりの自分を、甘受できないでいるのだ。そんなアレンを見て、リンクは無表情に口を開いた。


「…そんな顔をするぐらいなら、回復に専念するんですね」


リンクはそれだけ言うと、レベル4がいなくなったラボを見渡す。なんて酷い有様だ。ボソリそう呟き、ぐっと眉を歪めた。レベル4が出現した今、エクソシストは今まで以上に過酷な戦いを強いられる。自分にとってとても大切な彼女も、ここで戦っていくのだ。おそらく中央庁の鴉も、自分も、ルベリエ長官も、シスコンで有名なコムイ室長のことなど笑えない。これほどまでに彼女をこの戦いから離したいと思っているのに。自分には何もできないのか。何かできることはないのか。


「……お前なら何をする?トクサ」
「…え?」


アレンはリンクの呟きを聞き取ることが出来ず、リンクを見上げる。彼の顔は口惜しいように唇を噛み締めていた。


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