05
騒がしい朝食の後、ハナコは着替える為に自室へと戻っていた。唇、首、胸元。おそらく火傷してしまったのであろうその痛みを堪え、いつも通りの無表情で廊下を歩くハナコ。
「おい」
不意に後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには、ハナコと同じ黒髪の青年が立っていた。
「はい」
「お前が新入りだな」
「はい。ハナコといいます。よろしくおねがいします」
母親に習ったとおり、ピシッと腰を折ってお辞儀するハナコ。
「…神田だ」
「神田さんですね」
「あぁ。…さっそくだが仕事だ。5分で準備して司令室まで来い」
「分かりました」
神田と名乗った青年はそれだけ言うとさっさとその場を後にしてしまう。ハナコはぽつんとそこに佇んでいたが、少しして自室へと向かって駆け出した。自室に入ると、服を上下とも脱ぐ。下着にもスープがかかっていたらしく、てきぱきと服を脱いでいく。ついにはショーツ一枚になった。その時だった。
ガチャ、
「はぁ…疲れた…。立て続けに二つも任務があるだなんて聞いてない…。とりあえず寝なきゃ…」
「………」
当たり前のように部屋に入ってきた、肩越しに見える白髪の少年。そしてはたと交わる視線。
「…な、な、な……っ!!?」
「まずはむこうを向いてください。すぐにきがえますので」
「はっ、はいっ!!」
ハナコは言ったとおり、すぐに着替え終えた。そして白髪の少年に声を掛ける。
「お見苦しいものをおみせしてしまい申し訳ありません」
「い、いえ、こちらこそすみませんでした!!ちゃんと部屋を確認せずに入ってしまい…あろうことか婦女のは、はだ、裸を…!」
「お気になさらず。それよりも、わたしは任務が入っていていそいでますので挨拶はまたのちほど。失礼します」
「あ、待って……って、もういない…」
ハナコはひゅんと駆け出し、司令室へと向かっていた。神田が言った5分というタイムリミットを律儀に守る気なのだ。
「お待たせしました」
「…あぁ」
きっちり5分。ハナコは神田の前に姿を現した。そこには神田だけでなく、コムイ室長、リーバー班長、そして黒髪の女がいた。その女はハナコを見て、ひゅっと息を呑んだ。
「はじめまして。わたしはハナコといいます。よろしくおねがいします」
目の前の女に、神田にしたようにピシッと腰を折って挨拶をしたハナコ。しかし一向に返事が返ってくることはなく、ハナコはゆっくりと顔を上げる。そこには、顔色の優れない女。
「お体のぐあいが良くないようにみえます。だいじょうぶですか?」
「あ、あ…あなた…」
「はい」
「中央庁から、来たの…?」
「はい」
ハナコは察した。目の前の女こそがコムイ・リーの妹であるリナリー・リーだと。コムイと同じ黒髪、アジア系の顔立ち、そして"中央庁"へのこの怖がり様。まったく、すごい嫌われようだ。ハナコは心の中で小さく嘆息。
「あのルベリエの娘だって…」
「はい。その通りです」
「…っ、」
自分で自分を抱くようにして振るえる目の前の女に、ハナコは歩み寄る。そして近づいた分、離れる女。ハナコは足を止めた。
「…ひどく、きらわれているようです」
「あははハナコくん、そんな事ないよー!リナリーはまだ、昔の傷が癒えてないだけだよ」
咄嗟にフォローに入ったコムイを見上げるハナコ。コムイにハナコのその目は、やはり無感情に見えた。
「そうですか。仲よくなろうとおもっていましたが、しかたありません」
そして彼女はふむと大きく頷いた。リーバーはさり気なくリナリーを庇うようにして立った。仲間想いの教団のこの姿勢は、感嘆に値すると思ったハナコ。
「あいさつだけでもできて良かったです。しかし噂どおりのお可愛らしい妹さんですね」
「いやぁー!それほどでもあるんだよねぇ!」
「室長!何ノロけてんスか!」
「コムイ!邪魔すんなら仕事しろ!」
「おっといけない。任務だったね」
神田が今にも噛み付きそうだったので、コムイが慌てて背筋を伸ばした。
「キミ達には今からドイツのミュンヘンに向かってもらう」
それから任務の話に入った。メンバーはハナコと神田。元々はリナリーも入る予定だったらしいのだが、如何せんこの調子なので急遽取りやめることになったようだ。
「ごめんねぇ。2人で大丈夫かな?」
「かまわねぇよ」
「かまいません」
「なら良かった!じゃあ早速向かってもらえるかい?」
「はい」
ハナコは返事をして立ち上がり、その後なぜかリナリーに向き合った。
「「「!?」」」
コムイ、リーバー、リナリーはビクッと肩を揺らし、それからリーバーがまたもやリナリーの前に立った。ハナコはゆっくりと口を開く。しかしリナリーはその逆に目をぎゅうとかたく閉じた。
「……」
結局ハナコは何も言わず、開きかけた口を再び閉じて何も言わずに司令室を後にした。