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「さぁヘブラスカ、体内にイノセンスを入れるんだ!」


ヘブラスカの前にリナリー・リーを突き出し、そう叫ぶルベリエ。その顔には焦燥感が浮かんでいた。嫌な予感しかしない。娘は、ハナコは無事なのか。きっとあの子のことだから、無茶をしているに違いない。いつも何を言っても、きかん坊なところがあった。頑固で一途で、愛おしい我が子。レベル4とすでに接触したという報告をリンク監査官から聞いた時には、自分の心臓が止まるかと思った。その後彼女がどうなったのかの報告は入ってこない。あぁ、心配だ。


―だが、目の前の状況に集中しなければ


リナリー・リーには酷なことを強いていると、自分でも思う。これまでもそうだったが。だがしかし黒の教団のために、世界の平和のためにはこうするしかない。すぐ目と鼻の先にはレベル4がいて、神田ユウとブックマンJr.が室長を守るために戦っているのだ。己の感情を理性でねじ伏せ、どこかぼんやりとその光景を眺める。不意に、ヘブラスカの体が大きく揺れた。後ろからレベル4に攻撃されたのだ。


「ヘブラスカッ、ヘブラスカ!!」


放り出されたリナリー・リーも心配だったが、直接攻撃を受けたヘブラスカの容態を確認するためにもフェンスから身を乗り出して叫ぶ。レベル4がこちらを見ている。


「まだひとがいた。そこでなにをやっているんですか」


頭を強く打ち付けたリナリーが、イノセンスに手を伸ばしている。その頭を、レベル4が踏みつけた。


「こら、ぼくをみなさい」
「…っ!!」
「こら」


その様子をただ眺めることしかできず、歯を食いしばる。その時だった。


「レディのあつかいがなっちゃいないんですよ」


不意に聞こえた呂律の回らない声にはっとした。目の前にいたレベル4が何かによって吹き飛ばされる。風の球体がぶわりと離散すると、中から現れたのは正しく私の愛娘で。


「ハナコ…ッ!?」


あまりにも満身創痍で、その顔にはほとんど血の気なんかない。肩から腕にかけて広がる幾何学模様。綺麗な長髪はところどころ焼けたのか、バサリと短くなっていた。うつろな目はただただじっとレベル4を睨めつけている。


「ハナコッ!!」
「お、とう…さま」


私を振り返った彼女は、口元を震わしながらにこりと微笑んだ。


「だいじょうぶ。ハナコが、おまもりします」
「ハナコ…、」


幾何学模様のあざが広がっている。イノセンスの力に体が追いついていない。無理をするな、お前は後方に下がれ。そう言いたいが、私は長官でここは戦場。そんな私情を挟むことは許されない。―そうしたのは、私だ。ギリリと歯を食いしばり、彼女を見つめる。ハナコはにこりと笑ったあと、再びレベル4に視線を戻した。


「なんだ、いきてたんですか。しぶといですね」


その言葉にゆらりと彼女の体が動いた瞬間、他の何かがさらにレベル4を襲う。よく見ればそれはアレン・ウォーカーだった。彼はイノセンスを発動し、レベル4に立ち向かう。ハナコがそれに続こうと足を踏み出したので、慌てて口を開いた。


「待ちなさい。お前が今行っても足手まといだ。ここでリナリー・リーとこれからくるコムイ室長の護衛に専念しなさい」
「……わかりました、ちょうかん」


ぎりぎりと音がしそうな、軋む体を動かしてリナリーとレベル4の間に立つようにしてイノセンスを構えるハナコ。ゴソゴソとポケットを漁ったかと思えば、取り出したのは札。あれは衛羽か。さっと呪文を唱えてその札でリナリーとさらに私を覆う。


「…ヒュー…ヒュー…」


彼女の浅い呼吸音が、私の中でやけに大きく響き渡った


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