5章
「ボクのこと避けるのやめてほしいな……」
いつものように自信ありげな声ではなく、か細くギリギリ私の耳に届いた声はとても切実だった。顔を合わせることすら避けていた私は、ようやくダイゴの顔を、目をみて自分が彼に酷いことをしてしまったことを理解した。
「やっとボクと目を合わせてくれたね」
「……ごめんなさい」
「いいや、いいんだ。また君とこうやって話せるようになったんだから」
初めて見るダイゴの傷心した表情にどうしていいかわからない。その表情をさせてしまったのは紛れもなく私。
ミクリにダイゴと少し距離を取って、心を落ち着かせる時間を……とアドバイスをもらい、ダイゴとは会わないように少しの間忙しいと伝えて連絡が来ないようにした。それも、今日で終わり。ついさっきまでミクリと2人で会っていたらしい。もしかしてミクリが話してしまったのではないか!?と思ったが……。
「もしかしてミクリから全部聞いてるんじゃないかって思ってる?今回の原因について少し話しただけで彼はボクに話してないよ」
その言葉にほっとした。それにしても……あまりにも早い訪問であった。もう少しのダイゴと距離をとって落ち着ける時間があると思ったのに、まだ落ち着いてない。
――なんで彼はそこまでして私に構うの?
――どうして放っておいてくれないの?
……私が貴方に対する想いを知ってしまったことも意味しており、どうすればいいのかわからない。今まで通りにどうやって接すればいい?いや、今日はこの関係に終止符を打ちにきたのだろう。これで最後。次会う時は他人だ。だから、ちゃんと彼に向き合わなくては。
「どうしてここに来たの?」
「ナマエを振り回したことへの謝罪と気持ちを伝えるためだよ」
「それならもう答えはわかりきっている。帰って。聞きたくない……」
「ううん。ちゃんと聞いて欲しい」
そうだ、私が聞きたくないと言っても彼は私にしっかりと伝えてくる。逃げてちゃダメだ。彼の口から聞いて終わらせなくてはいけない。私の両肩にはダイゴの手が優しく添えてある。怖いけど、受け止めないと。ゆっくりと俯いていた顔を持ち上げ、彼の顔を見ると目があった。綺麗な瞳が私をまっすぐに貫く。
「好きだよ」
「ついさっき自覚したボクの気持ち」
「ミクリに言われて気づくなんて、ね……」
目があった私にゆっくりと口を開き、言葉をひとつずつ溢していく。どうやらミクリが一枚噛んでいるらしいが、今はそんなことどうでもいい。驚いて目を見開く。今、ダイゴなんて……?え?好きって言ったの?言った張本人の顔を見上げていると耳が赤く染まり、少しだけ視線が横に移動する。もしかして照れている?
「う、そ……?好きって言った……?聞き間違いじゃない??」
「本当。今までごめん。許して、なんて言わないよ」
「どっきりじゃない……?私夢見てる?」
「現実だって」
体を引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。ダイゴの心臓近くにちょうど私の耳が当たる。そこで彼の鼓動がとても早いことを知って私だけじゃないんだと思う。
「私もずーっと好きだった。でも、ダイゴの立場を考えると一般家庭に生まれて……、起業しているわけでもないし……とか隣に立つのはふさわしくないなって思っていた」
「ボクがそんなのに縛られると思ってたの?この歳になっても、わりと自由にしているんだから……ね?」
「そう言われてしまうとそうなんだけど……」
「ナマエは深く考えすぎ。そしてボクは何も知ろうとしてなかった。ただそれだけだよ」
ダイゴの言葉を聞いて私は深く考えすぎていたがわかる。それをミクリは言っていたんだ……ってことにようやく気づく。私は難しく考えずに一度ダイゴに想いを伝えることをして見ればよかったんだね……。いや、でもそれで振られたら元も子もない。
「自覚してから今までのことを振り返ってみたんだよ」
「うん」
「他の地方に行ったらお土産買って来るようにしているけど、その時考えるのは君のこと。どういうのが好きかなーとか、こういうの似合いそうとかね」
「えっ…」
不意打ちで言われて動揺してしまう。今ダイゴはなんて言った?聞き間違えでなければ、各地方でお土産を選ぶときに私のことを考えていたって言った?自分のことを考えていてお土産を選んでくれたっていうことへの嬉しさと好きな人が私のことを考えていてくれたってことへの恥ずかしさで、どうにかなってしまいそう。
「無意識だったけど常に君のことを考えてた。喜ばせたくて、笑ってほしくて」
「幼馴染だから買ってきてくれている……ではなかったんだね」
「遅くなってしまってごめん。今からでも遅くはないかな……?」
「全然遅くない!」
「好きなんだ。ボクの恋人になってくれる?」
「もちろん!」
私たちの焦れったい恋を見守っていたミクリには感謝しかない。押せ押せで行かないと的なことを彼は言っていたが、ダイゴが自分の気持ちを自覚する必要があったので無茶なこと言っていたな……とは思う。
後日、ダイゴと一緒にミクリのもとを訪ねた。いや、突撃したという表現があっているのかもしれない。アポもなしにルネジムに行ったら正に挑戦者とバトルしているところだったから。折角だからとふたりでこっそりとバトル見ていたんだけど、激しいのにも関わらずとても綺麗なバトルだった。
「突然来てしまって申し訳ないね」
「本当にそう思っているのかい?」
呆れた顔しているけど、ふたりで会いに来た点でもうわかっているだろう。
「一番に報告したくてね。無事和解できて、彼女と恋人になったんだ」
「はー……、君たちようやく収まるべき形に収まったね。途中ヒヤヒヤしけどよかった」
「大変お世話になりました……」
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。彼に甘えて頻繁に訪れて愚痴や相談をしていたんだから。
「そんな顔をして言わないでおくれ。元はと言えば、この石オタクがいけないのさ」
「反論ができない……」
「まあいいさ、何かが欲しくてやったわけじゃない。ナマエが幸せになるお手伝いをしたまでだよ」
「これから彼のパートナーとして色々大変なことあるかも知れない。私のところにいつでもおいで。今まで通りにブレイクタイムを楽しもうじゃないか」
「いいの?」
おずおずと聞くとミクリがOKしてくれる。隣にいるダイゴは不服そうな顔をしているけど、これは許して欲しい。だって、ダイゴのことを他に相談できる人がいないんだもん。それに私達を一番理解しているのはミクリだと思う。
「もちろんさ!それにまだまだ肌のお手入れお手伝いさせて欲しいからね」
「やったー!ミクリ好き……」
「早速、堂々と浮気かな?」
「え?お兄ちゃん……いや、お姉ちゃんじゃない?」
悩みながらお姉ちゃんと答えて一瞬だけ複雑な顔をする彼。だけどすぐにいつも通りになったので気のせいかな?って思っていると、余裕を取り戻したダイゴがミクリを煽る。
「だってよ、お姉さん」
「ダイゴ……」
「そんなに睨まないでよ」
「君はね……!」
いつものやりとりをし始めたふたりが微笑ましくて、ふふっと笑ってしまう。そして私の笑う声に気づいたのか、彼らが私の方へ顔を向ける。「また一緒に笑えてよかった」って心の中で思ってたことが溢れると、「そうだね」って。