6章
彼が私に対する想いを自覚したのはつい最近だったのだが……、自覚したあとの展開がとても早かった。
まず、同棲を始めた。場所はトクサネシティ。もともとダイゴはここに住んでいたのだけど、その家にはダイゴの趣味である石たちが沢山飾られている。他にも石を研磨したりする場所とかも整えられていて引っ越しする……、となると一苦労。それに2人で住むには少しばかり狭い。2人とも大きなポケモンたちがいるから尚更だ。だから、この家の近くに2人で住めるように家を借りた。彼曰く、「後々は広い家を建ててそこに住もう」とのことだ。
そして彼と一緒に暮らすようになって、今まで知らなかった一面を沢山知ることができた。「朝はコーヒーでお願い。あまり朝が得意じゃないんだ……」と、しょんぼりして私に言ってきた時は発狂しそうになった。ダイゴは朝弱いんだ……!あんなに爽やかでキリキリしてるから、短所なんてないと思っていた。幼馴染なのに知らなかった……衝撃である。
「幼いときにダイゴの家にお泊りしたときあったじゃん……?一緒に寝たことあるけど、そんな感じしなかった……ような??」
「あれはナマエが起きる少し前に起きてたからだよ。朝苦手なのを知られたくはないだろ……?」
ちょっと恥ずかしそうに言うダイゴを見てしまい、心の中の私が心臓抑えて倒れた。きゅうしょにあたった。こうかはばつぐんだ。必死に我慢して眉間に皺を寄せてると、「なんで顔をしてるの?ほら、可愛い顔が台無しだ」なんて言って私の頬を両手で包み込む。いやいや、「原因はあなたですよ」なんて言えるはずがなく、「ダイゴがそういうこと思っていたなんて知らなかったからびっくりしちゃって」と絞り出した。
「ふふふ。本当は何を思っているのかな?教えてくれたっていいのに、ね?」
わかってて困った表情をしてくる彼は確信犯だ。ジュンサーさん、ここです!この人は悪い人です!
***
お互いが好きとわかってから変わったことがまだある。彼ーーダイゴが想いを自覚していない頃と接し方が1番変わったと言える。例えば……、「ミクリの所でお茶するからいつもあっちに持って行ってたけど……これからはボクらの家でも」って。そう言った翌日には私の好きな茶葉たちが茶棚に並んだ。行動が驚くほど早い。さらにはアフタヌーンティーとか憧れるよね……っていつかは忘れたがボヤいたのを忘れていなかったらしいダイゴが、私が好きなメーカーのパンフレットをもらってきて「どんなのがいい?」って聞いてきた。そこまでやらなくてもいいんだけど……と思って伝えてみたが、「ボクがナマエとアフタヌーンティーを楽しみたいんだ。それじゃあ駄目かな?」なんて返ってきてしまうと、流石に「No」とは言えない。あまりにも豪華なものは使いづらいので小さくて使いやすいのがいいな……と伝えて、あとは彼に任せた。数日後、要望通りのものが届いて「これだから良いところのお坊ちゃんは……」と頭を抱えたのはつい最近のことだ。センスが良すぎる。そのセンス私にも分けてくれませんかね?
引っ越しをする前にも飾っていたダイゴが旅に出た際に私に贈ってくれた鉱石を新しい家でも飾りたいけど、本人に見つかるのはちょっと恥ずかしいなと思いどこに飾るか悩んでいた。ひとまず私の小物を置いてあるところに飾ったら、石センサーでも搭載しているのか!?と思うくらいびっくりするほど早くに見つかってしまった。
「この色、ボクみたいな色だと思わないかい?旅に出てしまうと今までみたいに会えないな……と思ったから、忘れてほしくなくてこれを手紙と一緒に送ったんだよ」
「ずっとダイゴっぽい色だとは思っていたよ」
「思い返すと、このときから君のこと好きだったんだね、ボクは」
「ば、爆弾発言しないでくださいっ!」
「顔が真っ赤だよ?」
少し冷たいダイゴの手が私の火照った頬を撫でる。そのまま、耳の方へ手が移動し、髪の毛をかけてピアスに触れてくる。もしかして、このピアスもそうなのかな……って思うと、ダイゴと目が合い微笑まれた。
「ピアスもそうなのかな?って思ったでしょ。その通りだよ」
自覚なしの独占欲があったことに驚き。これムクゲさんも知っていたのかな?もしかして息子の行動を見守っていたとか……あり得そうだ。
***
ダイゴのお父さんであるムクゲさんに同棲すると挨拶に行ったときのこと。「ようやく……くっついたのか!そうか、よかった……」と涙ぐんでいた。それを見たダイゴはギョッとし慌てて「親父、泣くなよ!」なんて言っているけど、「お前が自覚してくれて本当に良かった……」って言われた瞬間の顔がすごかった。ミクリにも見せてあげたかった。これでもかと目を見開いて、耳を真っ赤に染めていた。
「も、もしかして……!」
「お前がナマエちゃんのこと好きなのみんな知ってたぞ?いつ自覚するのかと見守っていたんだ……!あー、よかった……」
「……ちょっとしばらく洞窟に籠もりたい気分だ」
「そんな事言うなよー!それよりも彼女の両親には挨拶行ったのか!?」
「明日行くよ」
「そうか……!!粗相の無いようにな……!」
「わかってるって!」
ムクゲさんと話すダイゴは普段とはぜんぜん違い、ペースを乱されてちょっと可愛い。親子だな〜なんて微笑ましく眺めていたら、名前を呼ばれた。
「愚息を頼んだよ。何かあったらすぐに連絡して構わないからね」
「あっ、はい。わかりました」
「わからなくていいから。頼むから、親父やめてくれよ……」
振り回されるダイゴは驚くほど新鮮で、あまり知る人がいないからちょっとした愉悦感に浸る。私が知らないダイゴも教えてもらえたりするかな?って思っていると、いつの間にか隣に来ていたムクゲさんに「色々教えてあげるよ」って言われた。エスパーか。
翌日、昨日とは違い今度は私の実家へ2人で行った。会って早々にダイゴと同棲すると伝えに行ったら母親がハイテンションで困った。本当に困った。喋らなくていいことまで本人の前でぺらぺらと……!!
「よかったね〜!本当によかった……初恋が実って」
「お、お母さん……お願いだからダイゴの前ではやめて。何も言わないで。あとダイゴ、そわそわしないで」
「初恋って本当だったの……?」
「だから黙って……!」
「本当よ〜!」
頼むから、お母さん口を開かないで。これ以上彼に何もバラさないで……!そう願ってもこの状態のお母さんを止められるはずがなく……腹をくくるしかない。昨日の彼もこれを味わったはずだ。
「……あとで自分で話すから」
「そう〜?」
「とりあえず本題に戻させて」
眉間にシワを寄せている私の顔を見て、肩をすくめて「わかった」と言ってくれたのでようやく話をすることができそうだ。眉間のシワはお母さん、貴女のせいですからね!!
「近々、引っ越してダイゴと一緒に暮らそうと思うんだけど……」
「どこで一緒に暮らすの?貴女の家はそこまで荷物ないし大丈夫だろうけど……、ダイゴくんの家あるのトクサネでしょ?趣味を考えると、きっと荷物は多いんだよね……?遠くに引っ越すのは得策じゃないし、近くに借りるのかな?」
思ってたよりもグイグイ来るな……。ちょっと面倒くなってしまって、なんて返そうか悩んでいるとダイゴが返答してくれた。
「そのつもりです。後々はちゃんとした家を……とは思っています」
「そっか。それなら娘をよろしくね」
「そんなあっさりでいいのですか……?」
私の母の返しが想定とは違い、私も彼も驚いた。一応貴女の一人娘なんだけど……と思いつつも、まあそこは相手が相手だもんね。
「大丈夫よー!実は昨日ムクゲさんから連絡あって少し話したの。それにうちのお父さんも了承しているわ。今日は仕事でいないからごめんね」
「いえ、急だったので申し訳ないです」
「気にしないで。私達は嬉しいもの。何かあったらすぐに連絡してね」
無事お互いの親に報告して、同棲できることになったのだがもう二度とこんな思いしたくない……と2人で思った。お互いが相手に知られたくなかったところを知られてしまったのだから。でも、それもそれでいい思い出なんだよね。