杏子はあの時の声を忘れられなかった。
「なぁに・・・・・あんたの遊び相手になってやろうと思ってね・・・あんたに度胸があるなら、オレとゲームをやらないか?」
暗闇の中、耳を打ったのは低く自信に満ちた男の子の声。その声はどこか自分のよく知る男の子に似ていたが、けれどありえないと杏子はその考えに首を振った。
突然現れた、救世主。隣に座っているらしい凶悪犯に殺されるかもしれないという恐怖も忘れてしまう程、彼女の心にじんわりと染み渡る声。
あなたは、誰なの?
目隠しで状況が分からない今、それを確認することは杏子にはできなかった。
こちらに向かっていたはずの遊戯はどうなったのか。男に発砲された人物は無事なのか。少しでも情報を得ようと耳を澄ます。聞こえてくる会話は、まるでこの緊迫した場に似合わないゲーム概要。けれど命の駆け引きの言葉が聞こえた瞬間、その場の空気がピン・・・と張り詰めた。
いけない。助かりたいけれど、見ず知らずの人の命を失ってまで、自分は助かりたくない。お願い、逃げて・・・・・!
「杏子、行こうぜ。」
その声にはっと気づけば、杏子は誰かに腕を引かれていた。遠くからは自分の隣に居たはずの男の叫び声が聞こえる。何が起きているのだろう。自分は、助かったのだろうか?
腕を掴む手は暖かくて心地いい。視界が奪われている今、杏子の触覚は敏感になっていて脳を痺れさせた。トクントクン、と心臓が脈を打つ。ほんのり頬が熱くなるのを杏子は感じた。おぼつかない足取りの自分を気遣って、ゆっくり歩む彼。姿見えないその人に、
恋をした。
* * *
貸出期限が近い本を図書室に返して教室に戻る帰り道のこと。楽しげに会話する生徒で溢れる廊下はいつもと変わりないのだが、一部妙に人が集まる場所があった。また誰かが喧嘩でもしているのかとハルカは考えたが、集まっているのが女子ばかりだと気づいて首を傾げた。特徴あるピンク色の制服に身を包んだ女子生徒が、列をなして廊下の壁沿いに並んでいる。文化祭の時くらいしかこのような光景は見られないため珍しい。どの子もなにやらワクワクした様子で話し込んでいて、その目は何かに期待してきらきらと輝いている。列は傍の教室内に続いていた。反対の出入り口から出てくる女生徒は色めきたちながらその場を去っていく。ふむ・・・・とその光景を見ながらハルカはその列の隣を通り過ぎた。ちらりと見た内窓からは、教室内にも人がたくさん居て完全に様子を見ることができない。結局何があるのか分からないまま、ハルカは自分の教室に戻っていった。
「なにぃ〜〜〜!?超能力少年だぁ〜〜〜っっ!?!?」
「・・・・・!」
大きな叫び声に出迎えられたハルカは、聞き覚えのあるその声の発生元を見た。そこには遊戯の席に集まったいつものメンバーが。ポカンと口を開けた遊戯と城之内(昨日不良と喧嘩したらしく、頬に貼られた絆創膏が痛々しい)の対面している杏子は、出入口に立つハルカに気づいて手を振った。
「あ、ハルカちゃん、おかえり〜。」
「・・・・二人、とも、どうし、たの?」
来い来いと杏子に手招きされたハルカは席の間を縫って3人に近寄った。
「最近流行りの超能力少年の話!ハルカちゃんも聞いたことあるでしょ?」
「・・・・・?」
と言われたもののハルカの頭にはない情報だったため目を瞬かせて首を傾げた。
「あー、ハルカ、そういう類の話とか疎そうだもんなぁ。」
城之内に妙に得心顔でそう言われ、ハルカは肩を竦めて見せた。
「A組に居る狐蔵乃くんって子がそうらしいの。なんでも未来の事が見透せて、それがけっこー当たるんだってー。」
杏子の言葉にハルカはほうと頷いた。未来を見透す・・・・未来予知、ということだろうか。非科学的なことである。普通に考えればそんな芸当を人間にできるはずがない。結構当たるというのも、ハルカにはただの売り文句としか聞こえなかった。
「ほら、休み時間になると女子がいなくなるでしょー!占ってもらいにいってるのよ。ま、私はそーゆーの興味ないけどー。」
「・・・・・・」
ああ、だから、とハルカは先ほど廊下で見かけた光景を思い出した。行列ができていたあの教室は確かA組だった。あの女子生徒の行列は、その狐蔵乃と言う少年に占ってもらうための行列だったのだ。占いなどといった未来を予想する類のものは女性には年齢問わず人気なものである。休み時間にニュースの占いコーナーの話をする生徒も少なくはない。
「ハルカさんは、そういうの興味あるの?」
ぼおっと考えていると、遊戯がハルカに尋ねた。しかしハルカはそれに首を横に振った。
「・・・・とくに。」
「ふーん・・・・」
これまた先の城之内と似たような、なんだか納得したような顔をする遊戯。自分はそんなにわかりやすいキャラなのだろうか、とハルカは自分の頬に手を当てた。
「オレ、占ってもらう!」
「!?」
突然の大声に驚いてそちらを見れば、城之内が目を爛々と輝かせて拳を握りしめていた。どうやらこういった話を信じる人らしい。その笑顔は廊下にたくさん居た女子たちを彷彿とさせた。
(意外と乙女なのだろうか?)
「行くぜー遊戯!!杏子っ!!ハルカっ!!」
「え!ぼ、ボクは・・・・・!」
「ちょっと〜!」
「・・・・・・」
善は急げとでも言うようにガッシリと遊戯の腕を掴んだ城之内は遊戯の慌てた声を無視して走り出す。更に遊戯に助けを求められて手を掴まれた杏子も引きずられ教室から出て行ってしまった。「おっしゃぁぁぁ!」と廊下から聞こえてきた城之内の何故か気合の入った声と二人の止める声に、ハルカはクスリと笑って静かにその後を追った。
「わぁっ!すごい人だね!」
「占いとかってみんな好きよね〜。」
先ほどハルカが見たときより幾分か減っているが、まだ教室内は女子生徒で溢れていた。ちらりと教室内の並んでいない生徒たちを見てみると迷惑そうにその行列を睨んでいる。確かにこんなにも人が集まってしまうと教室にも居づらい上休息すら取りにくいだろう。ハルカは苦笑いしてそっと杏子の傍に立った。
「・・・・・・」
(あれ?)
一番に並ぶと思っていた城之内が気まずそうに顔を歪めてその列を見ている事にハルカは気づいた。心なしかその頬は紅い。不思議に思い城之内の視線の先の行列に再び目をやる。見えるピンク、ピンク、ピンクの列。響く話し声は、やや興奮気味の女子の声ばかり。そこでああ、と漸く合点がいったハルカは密かに笑った。
いくら城之内でも流石にこの女の列に混じって占いをしてもらうのが恥ずかしくなったらしい。見た限り、この列に遊戯と城之内以外に男子の姿はない。占いとはやはり女性に絶大に人気なのだ。
女子の列を凝視して逡巡していた城之内の様子を見る限り、これは引き返すかなと踏んだハルカは教室を出ようと踵を返した。しかし。
「まいったなー、杏子の占い好きに付き合わされちゃなぁ〜っ!!」
「なに言ってんのよ!あんたが真っ先に来たがったんじゃない!!」
城之内の言葉に思わず溜息。杏子を使ってごまかそうとしたようだが、相手を間違えたようだ。あっという間に嘘がばれた。
「そこーっ!うるさいよっ!!」
突然大きな声でそう注意されて、ハルカの肩がびくりと跳ねた。そちらを見れば額にヘキサグラムのマークをつけたロングヘアの女生徒が、険しい顔つきでこちらに指を指していた。そのおかげで並んでいた女生徒たちの視線が一斉にハルカたちに集まる。その表情は迷惑そうである。
「ス、スイマセン・・・・」
遊戯が慌てて頭を下げて謝罪する。ハルカもそれに習って頭を下げた。ここは自分たちに非がある。素直に謝るが得策だろう。
「狐蔵乃様は全神経を集中して御力を高めていらっしゃるの!あなたたちのような者の持つ負のエネルギーが御力の妨げになるのよ!騒ぐなら出て行ってもらいます!」
まるでその“狐蔵乃様”と言う人が神かなにかのように語る彼女は、どうやら側近のつもりらしい。彼女の隣には同じくヘキサグラムを額に飾る眼鏡の女生徒がじっとこちらを見ていた。危ない信仰者のようにも見える。遊戯はもう一度「ごめんなさい」と小さく呟いて苦笑いした。
「わかりましたね!これからあなたは死ぬ事のない限り生きていく・・・・これが重要なことですよ!」
「ハイ!わかりました狐蔵乃サマーっ!感激ぃーっ!!」
そうこうしている間にも占いは続いているらしく、奥の方から女の子の黄色い声と男の子の声が聞こえてきた(言っていることがめちゃくちゃである)。順調に行列は消費されてゆき、次第にその声の人物が見えてきた。
「・・・・・・・」
黒布で囲まれた一角に黒布を敷いた机を前に腰掛ける黒服に身を包んだ人物。ハルカはそれを見て顔を顰めた。胡散臭すぎる。
「では次の人・・・・」
椅子に腰掛けこちらをゆらりと見たその人は小柄な少年だった。怪しい雰囲気を演出したいのか、彼もヘキサグラムのマークを額に飾り、黒く長いマントを羽織って首にそれっぽい首飾りをし、金色の輪っかのピアスを煌めかせてにやりと怪しく笑っていた。彼を囲む黒布を支える掃除道具箱の破れかけた「整理整頓」の張り紙が、せっかくの演出を滑稽なものにしているのを気づいていない。
「・・・・・・」
思わずその見るからに胡散臭そうな容姿を凝視する4人。心なしか、城之内の顔も引きつっていた。
「杏子、先に占ってもらえよ!」
「なんでーっ!」
孤蔵乃の姿に噂が本当か定かでないと思った城之内が杏子に順番を譲る。その様子に溜息をつきかけた時だった。
「・・・・・!」
「・・・あれ?」
くらりとハルカの視界が揺れた。貧血かと思ったが、しかしその揺れは次第に大きくなる。ガタガタと教室内の物が音をたて始めて漸く気づいた。
「地震だ!」
瞬間教室内に響く生徒たちの騒ぐ声。しゃがんだり机の下に隠れたりする人たちで騒然となる。以外にも大きな地震だった。グラグラ短い感覚で左右に揺れる床にバランスが崩れそうになり、ハルカは慌てて傍にあった何かを掴んだ。
「・・・・っ」
伏せた頭の上から息を呑むような声が聞こえた。ハルカはあれと思い、自分が掴んでいるものを見るとそれは誰かの腕で。そしてハルカの手に誰かの手が重なった。
「だ、大丈夫・・・?ハルカさん。」
「・・・・・!」
顔を上げてみれば遊戯の心配そうな顔がそこにはあった。ハルカが掴んだのは遊戯の腕だったらしい。
「・・・・ごめん。大丈、夫。」
地震は次第にその力を弱めてゆき、ガタガタと騒々しい物音が収まってゆく。そうして揺れはピタリと止んだ。
「止んだみたいだ!」
「けっこー揺れたな・・・・」
ホッとしたような声が次々に上がる。大きな被害はないようだった。ハルカはふうと大きく息をついて顔にかかる横髪を耳にかけた。まだ揺れているような錯覚を感じるが、直に収まるだろう。
「・・・・って、おめーら何手ぇ握り合ってんだよ。」
「ぇえっ!?」
「・・・・・・!」
城之内に言われてああそういえば、とハルカは呑気に手元を見た。
「・・・・武藤、くん、ごめんね。」
「ぅえっ!?あぁ、いや・・・・うん、大丈夫だよ!気にしないで!!」
遊戯の腕から手を離せば彼は何故か全力で手と首を横に振った。
「・・・ひゅぅ〜♪やるなぁ、遊戯。」
「そ、そんなんじゃ・・・・!」
城之内が遊戯の首に腕を回して厭らしい顔で遊戯に耳打ちしている。残念ながら小声のためその内容はハルカには聞こえないが、何をしてるのかと首を傾げて見つめていた。
「・・・・ちょっとそこの君・・・・さっき“占ってもらえ”、確かにそう言いましたね?」
「ん?」
すると突然狐蔵乃が目を細めて城之内を指さした。怪しげにゆらりと動く様はなりきっているつもりなのだろう。
「言っておくが私は“占い師”などではないのだ!たしかに“占い”には手相・易学・四柱推命・気学・風水・占星術などがあげられるが―――それらは過去の統計上のものにすぎない。過去のね!しかし私の力は未来のビジョンを見透す事のできる超能力予言なのだ!」
力説する狐蔵乃は最後ににやりと口角を上げて見せた。
つまり彼が言わんとしている事は、自分は計算された未来ではなく漫画や映画の世界のように直接未来を見ることができるのであってそれをただの“占い”に括られるのは心外である、ということだった。正直なところ、ハルカとしては過去の統計上で表された未来の方がまだ信じられた。今までこうあったから、未来はこうなる“かもしれない”と言う方が、まだ人間らしい。人間離れした技を見せつけてちやほやされたいのだろう、どうにも胡散臭くてハルカは孤蔵乃を見る目を細めた。
「ふーん。」
対して城之内は殆どを聞き流していたらしくどうでもいいとでも言うように適当に相槌を打っていた。隣の遊戯は孤蔵乃の勢いに驚いたのか唖然と口を開けている。
「口で言っても分からないようだね・・・・ならひとつ証拠を見せてあげよう。」
そう言いながら狐蔵乃は徐に羽織っているマントの中に手を忍ばせて何かを引っ張り出した。それは一枚のなんの変哲もない白い紙だった。
「これは今朝、私の力で見通した未来のビジョンを書き綴ったもの・・・・なんて書いてある?大きな声で読んでみたまえ。」
狐蔵乃に紙を差し出された城之内はそれを受け取り、素直に表を返した。
「・・・・!!今日、地震くる・・・・」
「狐蔵乃様に拍手ーーっ!!」
「すごーい!」
「すごいわ、狐蔵乃様ーーっ!!」
傍の長髪の側近が群がっていた女生徒たちを煽ると皆口々に狐蔵乃を褒め称えた。その場に拍手が巻き起こり、狐蔵乃は嬉しそうにその賛辞と拍手を受けている。
「おーっ!確かにすげーぜ!」
城之内もその予言の紙を見て信じてしまったのか素直に賛辞している。ある意味これが彼の良い処で悪い処なのかもしれない。
「・・・・・・」
拍手で満たされるこの空間で、しかしハルカは彼に拍手も賛辞も送ってはいなかった。何か引っかかるのだ。それが何かはまだ分からないが、まるで陳腐な証明を見せつけられているようですっきりとはしないのだ。今の孤蔵乃の予言には、違和感がある。
「やっぱ私・・・・見てもらおうっかなぁ。」
「・・・・!」
様子を見ていた杏子が突然前に出て照れくさそうに笑った。まさか杏子も今の余興で狐蔵乃の超能力を信じてしまったらしい。普段意志の強い杏子の心をこうも簡単に動かしてしまう辺り、もしかしたら手強い相手なのかもしれない。
「どうぞ・・・・」
狐蔵乃が杏子を自分の前に促す。手を出せという孤蔵乃の言葉に杏子は素直に左手を差し出した。
「ほぉ・・・素晴らしい手ですねぇ・・・・」
「まっ!」
杏子の手を両の手で掴んで撫で回しながら言う彼の言葉に、杏子は頬を染めた。どういう意味で褒めたのかそれでも彼女は嬉しかったらしい。
「・・・・・・・」
けれどハルカは見逃さなかった。彼が杏子の手を握りながら厭らしく笑ったことを。
「・・・・・・・?」
隣で遊戯が何故か拳を握りしめて狐蔵乃を睨みつけていることにハルカは気づいた。滅多に人に敵意を見せない彼にしては珍しく、ハルカは「はて」と小首を傾げた。
「・・・・・・」
遊戯の視線の先には執拗に杏子の手を撫で回す孤蔵乃の姿があった。未だ無言で行われるそれは妙に長くあった。遊戯はそれに唇を噛み締めている。そこでああ、とハルカは気づいた。
(なんだ、武藤くんは彼女に気があるのか。)
あからさまな孤蔵乃への嫉妬にハルカは小さく笑った。そうか、彼は杏子が好きだったのか、と。幼馴染は聞いていたので、そんな感情を持っていてもなんら不思議ではなかった。思いがけず遊戯の可愛らしい恋心を見つけてハルカは和やかに笑った。
「見えます・・・・見えますよぉ〜〜〜っっ!!」
孤蔵乃が杏子の手を離して身体を大げさに震わせ始める。その様子にクラス中の人間が固唾を飲んだ。ハルカもそんな周りの様子に再び狐蔵乃に視線を戻す。
「近く!あなたの前にそりゃもう素敵な男性(ひと)が現れるでしょう!そしてあなたは自然と身を任せるほどの恋に落ちるのだぁ!!」
ガッと勢いよく杏子の手を握ってそう予言する狐蔵乃。杏子の顔は驚きで満ち、しかし次第に嬉しそうに頬を染めていった。さっきの女生徒に対するいい加減な予言とは違い、やけにリアリティーを持った予言に、しかし誰も違和感を覚えないらしい。どよめきさえ聞こえたことにハルカはやはり顔を顰めた。
「では次の人・・・・」
「ハイハイ〜!」
呼ばれて今度は城之内が狐蔵乃の前に歩み出る。その表情は完全に周りの女生徒たちと同じく、予言に心躍らせる顔だった。
「う〜む、最近ツイてないでしょう。」
「えーっわかりますぅ?実はそーなんですよぉ!昨日もちょっとトラブルに巻き込まれちゃいましてね・・・」
城之内の顔をじっと見て言う狐蔵乃の言葉に城之内は大きく首を縦に振った。その様子は最早乙女を通り越しておばさんに近い。トラブルとは不良に絡まれて一発貰っただとか電気工事の傍を通って足元に大きな機械が降ってきたとか、そういった些細なものが多発しているらしい。城之内はそれを回避するために“占って”もらいに来た、のだが。
「次の人・・・」
「え〜〜っ!!もう終わり〜〜っっ!!?」
まさかのスルーに城之内が悲鳴を上げた。しかし狐蔵乃の目は既にハルカに向いていて、完全に城之内は視界の外らしい。一番ノリ気であった彼だけに、哀れである。
「次の人!」
しかし未だ歩み寄らないハルカに聞こえなかったのかと思った孤蔵乃が少し声を大きくして促すが、それでもハルカは動かなかった。
「・・・・私、いい。」
首を振って断ると、途端に狐蔵乃の纏う空気が少し変わった。
「ほう・・・・いいんですか、見なくても・・・・」
手を組み、じっとハルカを見つめる狐蔵乃。それにハルカは妙な寒気を感じた。
「・・・・・こういう、の、信じて、ない、から・・・・。」
瞬間場の空気が凍り付いた。はっと気づいて周りを見ると、予言してもらった女生徒たちの視線が一様にハルカに集まっている。そして自分の言葉にしまったと後悔した。予言を信じる彼女らの前で、この言葉は一瞬にして不快感もたせるものだった。自分の肯定を他人に否定されれば、誰だって気分が悪い。断る理由とは言え失言だった。
「あなた!狐蔵乃様の力が信じられないって言うの!?」
「・・・・・っ」
すぐに側近がヒステリックに切り返す。ピクリと肩が揺れるのが自分でも分かった。嫌な汗が背中を伝う。きゅっと唇を噛んで視線を逸らした時だった。
「・・・・・ボクも・・・・」
「・・・・・!」
ハルカの目の前に影ができる。はっと気づいて見上げれば。
「こ・・・・こんなこと言っちゃうと悪いかな・・・・確かに超能力ってあるのかもしれないけど・・・・ほとんど信用できないっていうか・・・・その・・・・・」
ハルカの前に立って少し震えた声で主張する遊戯。ハルカは驚いて彼の背中を見つめた。
「あなたまで・・・・・さっき地震の予言を見たでしょう!!」
怒りに震え遊戯に向けて大げさに指さし怒鳴る側近。教室内はしん・・・・と静まり返り、誰もがその様子を固唾を飲んで見守っていた。
「・・・・私の力が嘘とでもいうのかい?」
その静寂を破って静かに言ったのは狐蔵乃の声は僅か震えていた。口元は笑っているが、目は決して笑っていない。
「・・・・っていうか・・・・似たような手品、見たことあるし・・・・」
そう遊戯が言うと、狐蔵乃は肩を跳ねさせて小さく「ほぅ・・・」と呟いた。
「例えばですよ、例えば・・・!地震が来るとかいろんな予言したことを紙にかいて服の中に持ってたら、それ、予言じゃないですよね・・・・」
自分が知っているトリックを元に推察を語る遊戯の声が次第に小さくなり尻すぼみとなった。しかしそれでも周りから奇異の目で見られながらも主張した遊戯のその様子は珍しいものであり、僅かに杏子も城之内も驚いた顔をした。それはハルカも漏れず、庇うように立つ彼は本当に遊戯なのかと少し疑ってしまった。
もしかしたら先の狐蔵乃の杏子の手を撫でる行為で気持ちが高ぶり、いつもより強気にでることができたのかもしれない。
「うぅ〜〜〜〜〜っっ!!」
「狐蔵乃様・・・・っ!!」
すると孤蔵乃は勢いよく立ち上がり苦しみ唸り始めた。傍に居た側近は悲鳴を上げほかの生徒たちも何事かと騒然となる。ハルカも遊戯も驚いて孤蔵乃の異常な様子に目を見張った。
「見える・・・・見えるぞぉ〜〜!お前たちの未来がぁ〜〜〜〜っっ!!」
「!」
カッと目を見開いた孤蔵乃はバッと音がしそうな程勢いよくハルカを指さし、ハルカは自分の喉が「くっ」とおかしな声を漏らしたのを聞いた。
「黒き使いが現れ、お前を奈落の底へと誘うだろう〜〜〜っっ!!!」
「・・・・っ!」
「そしてお前っ!」
間を開けず狐蔵乃は今度は遊戯を指さす。遊戯も怯えるように息を飲んだ声を漏らした。
「天より無数の文字が降り注ぎ、お前に災いをもたらすのが見える〜〜〜〜〜っっ!!!」
「!!」
鼻息荒くそう予言され、遊戯は一歩後退った。狐蔵乃の目は、まるで二人を親の仇と見るように険しく釣り上げぎらぎらと光っていた。