「遊戯!ボクにマジック&ウィザーズの勝負を挑んでくるとは・・・・一体何を考えているのかな・・・・フフ・・・・」
場所を移動した遊戯と海馬は誰も使っていない教室でひとつの机を挟んで向かい合って座っていた。それぞれの傍にはカードの山が置いてある。すでに準備は整っている。
「これから行うマジック&ウィザーズのルールは少し今までのものとは違うハズだぜ!やってみれば分かるけどね。」
「へー、そいつは楽しみだね・・・・」
ニヤリと笑う相手からは怯えを感じない。寧ろあるのは自信。それもそのはず、海馬はこのゲームのエキスパート。自分にとっては馴染みのある土俵であり、優勢は自分にあると考えているのだろう。
しかし、これは遊戯が用意した“闇のゲーム”。普通の娯楽勝負ではなく、命を賭けた審判だ。キャリアなど関係ない。その時の運と精神と頭脳に左右されるゲーム。
「プレイヤーのライフポイントは2000点。0になったら負けだ!手持ちカードは40枚!―――ゲームスタート!」
勝負の幕が切って落とされる。
「それならボクからいくよ!」
海馬が自分の山に手を伸ばし、一枚目のカードを引く。引いたカードを裏返し描かれた絵柄を確認すると、海馬はニヤリと笑った。
「よし!5つ星レベル!!“ガーゴイル”のカードだ!」
選ばれたのは攻撃表示。攻撃力は1000。海馬がカードを机に置いた瞬間、闇の力が動き出した。
「ム!!」
カードから煙が吐出され、空気が振動する。そして霧散していた闇の力がカードの周りに集結し、幻影を作り出す。
「な・・・・なんだ!!カードの絵柄が実体化したぞ!!」
カードの表面に煙を纏いながら現れた“ガーゴイル”。獲物を引き裂こうと唸るモンスターの目はギラギラと光り、呼吸さえも本物のよう。その様に、海馬は目を丸くして凝視した。
「フフ・・・・だから言っただろ。今までのゲームとは違うって!」
遊戯は現れた“ガーゴイル”を一瞥すると自分の山からカードを1枚引いた。
「なら・・・“ガーゴイル”の攻撃を受けてたつのは・・・・このカード!“暗黒の竜王(ドラゴン)”!!」
攻撃力は1500。勿論表示は攻撃。海馬の“ガーゴイル”よりも力は500上だ。
「!!!」
カードの表面に再び闇の力が集結し、幻影を作る。そうして現れたのは、言わずもがな"暗黒の竜王"。対峙する2つのモンスターは、互いを威嚇せんと大きな唸り声を上げた。
「“暗黒の竜王”の攻撃は“ガーゴイル”にも勝る。“炎のブレス”!!」
遊戯の指示に大きく息を吸い込んだ"暗黒の竜王"は勢い良く口から真っ赤な炎を吐き出した。それは対峙する“ガーゴイル”に真っ直ぐ伸び、“ガーゴイル”は苦しげな叫び声をあげながら煙となって消滅した。
「くそ・・・・負けた・・・・!・・・・ム!」
モンスターの幻影が消滅した海馬のカードは、幻影と同じように煙となって消えていく。
「カードのイマジネーションが実体化し・・・・ゲームの敗者には運命の罰ゲームが待っている!それがマジック&ウィザーズ“闇のゲーム”のルールだ!!!」
消滅していくカードを見ながらにやりと笑む遊戯。それに呼応してか遊戯のモンスターは興奮冷めやらず雄叫びを上げた。
「今のバトルで君のライフポイントは2000点から1500点に減った!!お互いどちらかのライフポイントが0になった方が負けとなる!そして・・・・・」
山札以外なにもなくなってしまった自分の陣地を呆然と見つめる海馬を遊戯は睨み付ける。
「負けた者は罰ゲームとして“死”を体感することになるぜ!」
「!!」
その言葉にぴくりと肩を揺らした海馬は、ややもせずニヤリと不敵に笑った。
「フ・・・、フハハハ・・・・・おもしろい・・・・・・・・。」
目元は長い前髪の影に隠れていて見えないが、その口元が本当に面白そうに笑っている。これが脅しの言葉ではないと悟ったようだ。流石はゲームのエキスパート。今までの相手とはひと味違う。
「こ・・・これぞボクの求めていた究極のゲームじゃないかあああっ!!」
顔を上げて高らかに笑う海馬。遊戯はその様子を見つめながら、しかし口元をキュッと締めた。このゲームに勝って双六の心(カード)を取り戻すのが遊戯の使命。そして、遊戯とハルカの心の領域を犯した怒りの鉄槌を与えねば。
「さぁ次は君がカードを引く番だぜ!」
「OK!」
海馬は自分の山札に手を伸ばし、一番上のカードを引いた。カードを裏返し描かれたモンスターを確認すると、またもニヤリと笑む。
「よし!“ミノタウルス”のカードを引いた!!攻撃力1700ポイント、守備力1000ポイント、獣戦士系のカードの中でも最強を誇るレアカード!!」
攻撃表示に置かれたカードの絵柄上に闇の力が集まり、音を立てながら煙を吐き出す。
「実体化する!!」
「!!」
“ミノタウルス”は厳つい鎧を身にまとい、大振りの斧を手に目を光らせながら現れた。遊戯はそれを見て顔を強ばらせた。
「“ミノタウルス”のポイントは攻撃力・守備力ともに君のカードの“暗黒の竜王”よりも優っている!どうあがこうが“ミノタウルス”には敵わないということだ!いけぇぇぇぇ“ミノタウルス”よ!“暗黒の竜王”をその剣で八つ裂きにしろ!!」
海馬の命令に従い、“ミノタウルス”は太く逞しい脚で素早く“暗黒の竜王”に近づいてきた。対する“暗黒の竜王”は相手の強さを知ってか知らずか威嚇するように炎を吐き出す。しかし“ミノタウルス”は手にした斧を前につきだし、炎を全て受け止めてしまった。
「ハハハ!悪あがきはよすんだな!!“ミノタウルス”の剣は“炎のブレス”など跳ね返す!!痛くもかゆくもねぇんだよ!!」
その言葉の終わりと同時に“ミノタウルス”が“暗黒の竜王”の攻撃を斧で防ぎながら大きく一歩踏み出した。そして炎が途切れた隙をつき、豪快に斧を振りかぶって"暗黒の竜王"の大きな身体目掛けて振り下ろした。
「!!」
肉が切断される鈍い音に顔を顰める。“暗黒の竜王”の首が胴体から滑り落ち、未だ意識あるその首は断末魔を上げ、“暗黒の竜王”は煙を吐きだしながら消滅していった。
「く・・・!!」
「ハハハハハ!消えろ消えろー!今のバトルでボクの“ミノタウルス”の攻撃力が“暗黒の竜王”のポイントより200上回っていたわけだ!」
「・・・・・すなわちオレのライフは200ポイント削られる!」
持ち点の2000から200ポイント引かれ、今の遊戯のライフポイントは1800。対する海馬は1500。まだ勝負の行方は分からない。
「さぁ!次のカードを引けよ遊戯!まぁ“ミノタウルス”に勝るカードはそうそう出すのは難しいぜ!」
「・・・・・・・・」
海馬の言う通り、攻撃力1700ポイントを上回るモンスターカードは滅多にない。果たしてどうすれば“ミノタウルス”を倒せるのか。
遊戯は自分の山札から一番上のカードに手をかけて静かに引いた。
「オレの次のカードは・・・“ホーリーエルフ”のカード!」
カードを机の上に裏返すと、カードの絵柄が煙を上げる。そうして現れたのは神に祈りを捧げる女性姿のモンスター。その攻撃力は800、守備力は2000。“ホーリーエルフ”は守備力は高いが攻撃力では“ミノタウルス”には敵わない。守備でやり過ごすしかない。遊戯は“ホーリーエルフ”のカードを横向きに置き、守備表示とした。それを見た海馬は顎に手をかけて少し考える素振りを見せる。
「おっと・・・・・・“ホーリーエルフ”の守備力はボクのカードの攻撃ポイントより高いハズ・・・・・迂闊に手を出すとボクのライフポイントが削られてしまう・・・」
すると海馬は攻撃表示に置いていた“ミノタウルス”のカードに手を伸ばし、遊戯と同じく守備表示へと変更した。
「ここはボクの“ミノタウルス”も「守備」にする。」
机上のモンスター達は自身を守るように地に足をついて身を縮こませている。それは互いに攻撃をしないという意思表示。遊戯のライフポイントは守られたが、これでは勝負は進まない。
「フフ・・・お互いに膠着状態と言うわけか・・・・ならばターンごとにカードを引いて手持ちのカードを貯めていくしかなさそうだ。“ホーリーエルフ”を倒せるカードが出るまで・・・・」
攻撃力が高いモンスターが出ているからか、海馬の表情は余裕を帯びている。対する遊戯は“ミノタウルス”を倒す手段を思いつかず、守ることで精一杯だった。
「フフ・・・行き成りいいカードを引いた!」
山札から新たに引いたカードの絵を見て海馬はひっそりと笑んだ。
「こいつは次のターンが楽しみだ!」
海馬は引いたカードを表返さず手元に裏返しのまま置いてしまった。カードを伏せたということはつまり、それは「魔法カード」。「魔法カード」は使用するまで相手に見せる必要はない。一体何の「魔法カード」を引いたのか。“ミノタウルス”にこれ以上の力が加わってしまったら対抗する手立てがない。
「オレの次のカードは・・・・・」
希望をかけて遊戯は山札からカードを引く。カードを裏返し絵柄を見て、心の中で舌打ちした。
そのカードは“ワイト”。攻撃力300、守備力200。どちらの数値も“ミノタウルス”より低く、とても対抗できない。せめて獣戦士を倒せる種族ならば良かったのだが。
「ダメだ・・・・アンデット系カードではどうにも相手にならない!」
こうなれば少しでも壁を増やすため、攻撃されてもライフポイントは減らない守備表示で守っておくしか無い。
「では、いくぜ!」
遊戯が“ワイト”を守備表示に置いたのを確認するとすぐ海馬は嬉々とした表情で伏せカードに手を伸ばした。
「さっきの「魔法カード」で“ミノタウルス”の力を増幅させる!そのカードとは・・・・巨大化!!」
表に返ったカードから瞬時に魔法が発動する。
「その魔法力によって“ミノタウルス”の攻撃力・守備力は20%増幅される!!」
“ミノタウルス”が雄叫びを上げるとその身体は徐々に巨大化し先程のサイズよりも2倍近く大きくなった。同時に攻撃力、守備力の数値も上がる。
「ククク・・・・よって“ミノタウルス”の攻撃力は2040ポイントとなり、“ホーリーエルフ”の守備力を上回った!」
「!!」
僅かな数値でも上は上。このバトル、攻撃されれば“ホーリーエルフ”は消滅となる。
「よって“ホーリーエルフ”を攻撃!!血祭りにあげる!!」
“ミノタウルス”は巨大化した斧を振り上げ、またも急所である“ホーリーエルフ”の首を切断する。先の“暗黒の竜王”同様断末魔を上げる“ホーリーエルフ”。
女性特有の甲高いその叫び声は、耳を劈(つんざ)いた。
「そして次はその役たたずな“ワイト”も!!」
「!!」
白骨に漆黒のマントを纏った“ワイト”は“ミノタウルス”の大きな手に掴まれぐしゃりと握りつぶされる。骨の折れるボキボキという不快は音が机上から響き、そのグロテスクな惨状の連続に遊戯は目を細めた。
「どんなカードを引こうがこの“ミノタウルス”カード1枚で粉砕・玉砕だぁ!わはははははは!」
それから次のターンもその次のターンも、遊戯のモンスターは先の海馬の言葉の取り粉砕され続けた。そうして気づいた時には。
「くくく・・・あきらめろ遊戯!お前に勝ち目はない!」
「―――!!」
海馬のライフポイントは1500。遊戯のポイントは500。その立場は完全に逆転し、遊戯は追い詰められた。
もしも次に引くカードが"ミノタウルス"よりも攻撃ポイントが低い場合、遊戯の負けとなる。心臓の拍の音が大きく響く。冷や汗が米神から伝い落ちたのをはっきり感じた。負けるかもしれないという不安とそれでもなんとかなるかもしれないと捨てきれない希望を胸に、遊戯は山札に手を伸ばす。そうして引いたカードは。
「よし!」
スパンッと音を立てて机上に置かれたのはモンスターカード。それも只のモンスターカードではない。
「オレの手札の中の最強カード、“デーモンの召喚”!!」
攻撃力2500、守備力1200。それは「魔法カード」で巨大化し、力をつけた海馬の“ミノタウルス”の攻撃力を上回るモンスター。言わば切り札だ。
「“デーモンの召喚”だと!!悪魔系モンスターカードの中でもベスト5に名を連ねるレアカード!!そんなカードを持っていたのか!」
突然のレアカードの出現に海馬は驚愕し、動揺を隠せないのか大声を上げた。
「当然“ミノタウルス”を撃破する!!」
攻撃表示で出された“デーモンの召喚”は闇の力により実体化し、禍々しく輝く眼(まなこ)で目の前の敵を射抜く。人が想像する悪魔とも魔王ともとれるおぞましい姿の“デーモンの召喚”は、遊戯の言葉に反応しその手を“ミノタウルス”に突きつけ攻撃の体制をとる。そして。
「魔降雷!!」
“ミノタウルス”の頭上から雷が降り注ぎ、その巨体に膨大な電撃を食らわす。周りの闇が一瞬払われるかのように光り輝く稲妻に苦しみ悶える“ミノタウルス”。肉の焼ける匂いと叫び声が教室内に充満する。
そして“デーモンの召喚”の攻撃が止んだ時、“ミノタウルス”は煙となって消滅した。
「く・・・・・!!オレの“ミノタウルス”が!!」
苦虫を噛み潰したような顔で遊戯を睨む海馬に、遊戯は不敵な笑みで返した。
そしてここから遊戯の反撃となる。
“デーモンの召喚”の出現により海馬のカードは次々と蹴散らされ、先程までの威勢はどこへやら、海馬は黙ってバトルに挑み続けた。
「・・・・・・」
「さて・・・・」
倒されたばかりのモンスターの煙が遊戯と海馬の間でゆらめき消える。机上のモンスターたちは、この緊迫した空気を感じているのか静かに睨み合っていた。
「このゲーム、分からなくなってきたぜ!」
「く・・・・」
遊戯のライフポイントは500。海馬のライフポイントは800。
数値では海馬の方が上だが、“デーモンの召喚”が未だ場に出ている限り、この勝負の行方は分からない。もしもこのまま海馬が遊戯のモンスターの攻撃力を上回るようなモンスターを引くことができなければ、遊戯の勝利。しかし相手はマジック&ウィザーズのエキスパート。“デーモンの召喚”に勝るカードを持っている可能性はないとは言えない。もし出されてしまえば最後、遊戯の元に“青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)”が戻ってくる可能性は低くなる。
何か策を考えているのか、海馬は難しい顔をしながら遊戯と自分のモンスターを見比べている。まだ諦めていない証拠、やはりまだ何か手があるようだ。暫く沈黙が続くと、ふと海馬は顔を上げてクスリと笑んだ。
「遊戯くんなかなかやるね!ボクのライフをここまで削るとは正直驚いたよ!」
突然の“くん”呼びに思わず遊戯は身構える。先程までの余裕のない表情はどこへやら、その顔には勝利を確信したような不敵な笑みが広がる。まるで次に引くカードが自らの窮地を打破するものであると分かっているかの様に。
「だがここまでだ!ボクには最高の切り札がある!そのカードは・・・・」
焦らす様にゆっくりと引かれたカード。それを表に返した時、場の空気が一変した。
「これだ!!“青眼の白龍”!史上最高のレアカード!!」
「なに!!」
攻撃表示で置かれた“青眼の白龍”の絵柄から煙が吹き出る。それは他のモンスターたちとは違い、最強と謳われる力の強さを感じさせる程空気を震わせながら現れる。
「ふはははははは!!スゴイぞー!カッコいいぞー!!」
煙を纏い、大きく口を開けて無数に生えた鋭い牙を見せ威嚇する、煌めく白い龍。それは紛れも無く双六の大切なカード。双六の“心”。
「くくく・・・・・お前のじーさんのカードだと・・・!?違うねぇ〜!これは正真正銘!!ボクのものさ!たまたま偶然知人から譲り受けたものでねぇ〜!」
知人。
受け取りようによればそれは遊戯からとも取れる比喩。譲り受けるなどあるはずがない。遊戯を騙し奪い、取り返そうとしたハルカを傷つけ手に入れたカード。
遊戯はぎりりと奥歯を噛み締めた。
「お前の“デーモンの召喚”カードの攻撃力は2500ポイント!ボクの“青眼の白龍”カードの攻撃力は3000ポイント!!その差500ポイント!遊戯のライフポイントも残りピッタリ500ポイント・・・・つまり、次の攻撃でお前のライフポイントは0となり、オレの勝ちだ!」
「!!」
海馬の攻撃宣言により、このゲームの勝敗が決まる。遊戯が、負ける。
「いけぇぇぇ“青眼の白龍”!!遊戯の息の根を止めろおおおおおおお!!」
闇の力が渦を巻く。これで全てが終わる。
はずだった。
「だめえええええええっっ!!」