「どうした、ビビってんのか?勇気を出せよ!」
「・・・・・・」
扉の外で足止まる男に少年は、遊戯は不敵に笑んで見せた。その挑発に乗る、と言うわけではないが踏み出さねば追求はできないと男は漸く遊戯の部屋に足を踏み込む。そうしてすぐに感じたこの部屋の空気に再び足を止めた。
頬をひやりと撫でるその空気の冷たさと重さ、地下の部屋に踏み込んだような感覚に自然と息を詰める。心の部屋とは人それぞれ“模様”が違う。その心の持ち主の性格や記憶をそのまま表したような形をしており、どんな人間でも大抵は部屋中に何かが散乱していた。それは現実世界にあるような“家具”であったり、はたまた抽象的なオブジェだったり時には金倉のように怪物が住み着いていることもある。
「・・・・・・」
しかし“遊戯”の部屋は今まで見てきたあらゆる心の部屋の様子とは違っていた。石造りの床、壁、天井。明かりのないその部屋は開けられたままの扉の向こうにあるもう一つの部屋の暖かな光が漏れ入っているだけで部屋の全貌を見ることはできないが、暗闇に微かに浮かぶ壁の模様はまるで、男の出身地エジプト、古代の王の墓を彷彿とさせた。これも王家の谷で発見された千年パズルの影響なのであろうか。男の額にたらりと冷や汗が流れた。
「あんたがどんな“力”を使ってオレの“部屋”に来れたかは知らないが・・・・何の目的でここに来たかを聞かせて貰おうか。」
笑みを浮かべる少年は余裕を見せながらも警戒を怠ってはいないようだ。男はゆっくりとひとつ瞬きをした。
「ふふ・・・・君からすれば私は招かれざる客・・・・その質問に答えるのが、せめてもの礼儀か・・・・・・」
男の光の見えない瞳と遊戯の視線が漸く真正面から交わった。それは互いに互いを見定めるための視線。
「私は君の持つ“千年パズル”の“力”の秘密が知りたくてここを訪れたのだ。」
男の口から出た意外な単語に遊戯の目が僅かに見開かれる。
「千年パズルの存在を知っているとはな・・・・・」
「ああ、知っているとも。それが“闇の千年物(せんねんアイテム)”であることも・・・・・・」
千年物(せんねんアイテム)とは、古代エジプトの時代から3000年もの間“王家の谷”に伝えられた秘宝のこと。それらは古代の王(ファラオ)に使える魔術師たちによって“王墓を暴き財宝を盗み出す罪人”を裁くために作られたものであった。
「ここに来れたのもその“千年物”の力ってわけか・・・・・・」
遊戯の言葉に男は胸元に下げた十字架にそっと手を添えて見せた。
「“闇の千年錠”の力だ。これは人の“心の部屋”への扉を開けるための鍵・・・・“部屋”を見ることでその者の全てが分かる。性質、趣味、潜在能力、コンプレックス、トラウマ・・・・・・」
そしてもう一つは“闇の千年秤”と言う天秤。裁かれし者の罪の重さを量るアイテムである。心の部屋までは持ってくることはできないらしく、今は男の手元にはない。このふたつが男の所有している“千年アイテム”であった。
「だが、私は“千年パズル”の“力”は知らぬ・・・・それを完成させた者にいかなる“力”が宿るのかを知らぬのだ・・・・・・」
「その鍵を求めて、オレの心ン中に入り込んで来たってワケか・・・・・・」
遊戯の言葉に肯定するように男は目を細めた。
「その者の“部屋”を見れば、いかなる“力”が宿ったかが分かる・・・。私はそれを見極めたいのだ・・・。そしてその“力”が必要とあらば我が血族に取り込む。」
遊戯の目がわずかに見開かれる。男はこの“闇の力”を悪事に使われないためにあるべき使い方をしようというのだ。
「あんたの言う“千年パズル”の力は・・・確かにオレの部屋に眠っている・・・・だが、そう簡単に教えるワケにはいかないぜ!」
遊戯は小さく笑む。
「わかってるな・・・これはゲームだぜ!闇のゲームだ!!」
“千年アイテム”を、“闇の力”を持つもの同士、戦う術は心得ていた。男は顔色を変えることなく遊戯の次の言葉を待つ。
「ゲームのルールは簡単だ!この心の領域のどこかにオレの“本当の部屋”がある・・・あんたはそれを探し出し、“宝”を手に入れることができるか・・・・」
“宝”というのは勿論、“千年パズル”の真実を指す。ニタリと挑発する遊戯に対し、男も望むところだと笑って見せた。
「ちなみに私にはある能力が備わっていることを言い忘れていた・・・私は人の“心の部屋”に入り込み部屋の“模様替え”をすることでその者を自由に操ることができる・・・勿論人格を破壊することもな、フフ・・・」
ゲーム攻略のための特殊能力とも言えようか、力を持っているがために男は余裕を見せていた。例えこの部屋がどのように偽装されていたとしても、“千年錠”の力で正体を明かして見せるのは男にとって造作もないのだ。
「このゲーム、受けてたとう!そして、君の“本当の部屋”を見つけ出す!」
勝利宣言。
このゲームが自分にとっていかに簡単であるか遊戯に知らしめるように大声を張り上げる男。けれど遊戯はそんな男に動じる様子も見せず肩を竦めて見せた。
「フフフ・・・さぁて、そう簡単に行くかな・・・・・これはあんたが思った以上に危険なゲームだぜ!」
「!!」
途端薄暗かった周りがふわりと照らされ、漸く部屋の全貌が見えてくる。
そして男は驚愕した。何故ならそこは男の思っていたワンルームの偽装された部屋などではなく、“迷宮”だったのだ。この部屋に住む“遊戯”の部屋はまさしく“心の迷宮”。心臓がドクリと血液を大量に流す。
「ゲームスタート!!」
遊戯のゲーム開始宣言が高く冷たい天井に反響する。いや、天井と言うべきなのだろうか、そこには逆さまの扉とそれに面する床がある。石造りの階段と床は上にも下にも向いていてまるでだまし絵の世界。男は茫然と部屋を見渡した。
「さぁどうした。最初の一歩を踏み出さなければ始まらないぜ!ゲームがな・・・」
未だ動かない男に遊戯は少し呆れたように腕を組み傍の壁に寄りかかる。ここにもむこうにもあそこにも、見渡す限り無数の扉に囲まれるこの部屋の中に、たったひとつだけ本物の“本当の部屋”に通ずる扉があるのだ。これだけの数の扉に少々引け腰にはなるが、兎にも角にもどこか一つ扉を開かなくては始まらない。まず言って正解の確立は格段に低くはあるが万に一つ、最初の扉が“本当の部屋”への入り口かもしれない。
「まずはこの扉を・・・」
一番近くにあった扉の前に立つ。重たそうな鉄の扉はこの部屋に入る時の扉とは違ってまっさらな黒い扉だった。実にシンプルである。取っ手の柄は長く、下に下ろすと開くタイプだ。男はやや緊張した面持ちでゆっくりと取っ手に手を掛けた。そして柄を下げ手前に引く。僅かな隙間からは闇しか見えない。部屋の全貌を見ようと思い切り開けた瞬間、男はハッと息を飲んだ。
ズドンッ!!
重たい音を立てて目の前に壁と同じ石造りの円柱状の巨大な重りが降ってきたのだ。鼻先をかすめるように降ってきたそれになんとか気づいた男は慌てて身体を後方に傾けたお蔭で潰されずにすんだ。代わりに床に勢いよく倒れてしまい高等部を打ち付けることとなったがターバンのお蔭でそれも大した怪我とはならなかった。
男は茫然と足元に鎮座する石の重りを見やる。これは罠(トラップ)。つまり、偽物の部屋だ。となればこのほかの部屋も何らかの罠が仕掛けられていることは明白だった。これは“闇のゲーム”。命を懸けた勝負だ。
「ククク・・・・どうした、今ので怖気づいたか!この分だと、“本当の部屋”への道のりはかなり険しそうだぜ!」
背後で遊戯が笑う。男は冷や汗をひとつたらりと流して振り返った。
「頑張れよ・・・“部屋”で待ってるぜ・・・・・」
健闘を祈る。そんな言葉を残して遊戯はまるで映像が薄れ消えゆくように溶けて消えた。ここは心の部屋。実体ではない精神だけの遊戯は“本当の部屋”に行ってしまったらしい。
男はふっと小さく息を吐いて立ち上がった。自分が遊戯を甘く見ていたことを自覚したのだ。これは慎重に扉を選ばなくては自身はこの心の部屋に閉じ込められるどころか精神崩壊をされてしまう。
男はぐるりと幾多の扉を見渡し歩き出すと、別の扉の前で立ち止まって取っ手に手を翳した。目を瞑って扉の向こうの気配を探ろうというのだ。男にはそういった直感を持っていることを自覚していた。幾多の闇のゲームを行い罪人を裁いてきた男。経験値はあった。状況と対戦相手の心情を探ることがあらゆるゲームの基本。男は先程の遊戯の様子とこの部屋の複雑な作りから直感していた。この少年の心は頑なに他人の侵入を阻んでいることを。それが自分を惑わしているということを。それでも男が命を懸けてこのゲームに挑戦する理由とはなんなのか。単純なこと、ただ彼は知りたいだけなのだ。“千年パズル”の力の謎を。
いくつかの階段を上り細い通路を歩き数個目の扉の前に立つ。目を閉じた男は全神経を扉の向こうに集中させる。
「・・・・・・ん?」
男はここで初めておや?と首を傾げた。冷たい空気が取り巻くこの迷宮の中で、ここは唯一温かみを感じた。まるで生命の息吹のような暖かさ。この部屋だけが“生きていた”。まさかこの感覚こそが“本当の部屋”なのか。男は意を決して扉を開けた。
「・・・!!!」
扉の向こうに、少年の姿はなかった。その部屋の中は雨が降っていて、まるでどこかの工場の廃墟のように古タイヤや錆びたドラム缶などが転がっていた。むっと噎せ返る湿った匂いに男の喉が引くつく。けれど男の目はある一点に集中していた。
彼から距離を置いた正面には積まれた古タイヤがあり、その上に一人の少女が座っていた。黒く長い髪が雨に濡れ、艶が増して美しい。けれどその顔は俯いているせいで髪に隠れ、見ることはできない。服装はピンク色のブレザーに青いスカート。タイヤの淵を握る手は酷く白い。なんと儚い。なんと美しい。異常な光景であるはずなのに、男はそう思った。
男はその場に縫い付けられたように動けなかった。少女から視線を逸らせない。あんなに温かみを感じていた筈の部屋からは冷たい風しか感じず、男は身震いした。一体この少女は誰なのか。遊戯とどういった関係にあるのか。自分を惑わすための幻覚。それはなんと美しい絵画のような風景。
ふいに少女が身体を震わせた。そして突然、彼女は自分の耳を両手で塞ぎ、身体を縮こまらせる。途端部屋中に複数の叫び声が反響する。低い声は男性のものか。少女はこの叫び声に怯えているのだ。ややもして叫び声はぶつりと途絶える。彼女を恐怖させる声は止んだにも関わらず、少女は未だ耳を塞いで身を縮めていた。思わず男の口から声が出かかった。あまりにも痛々しい少女の姿に心打たれてしまったのだ。けれど一歩足を踏み入れた瞬間ぴりりと体中に僅かな電流が走った。いや、これは“不安”の感情だ。けれどこれが少女のものなのか、男のものなのか、将又部屋の持ち主である遊戯のものなのか、男には分からなかった。
少女が動く気配を感じてはっとする。少女は顔を上げていた。白い肌に流れる雫は雨なのか、それとも涙なのか。少し開いた唇は震えていて、はっと小さく息を吐く。伏せた瞳が徐々に上がり、ついに男とその視線が交わった。
「・・・・・・っ」
音が、止んだ。
雨の音が聞こえない。少女の瞳が揺れた。戸惑いと恐怖の色だ。男は手を伸ばしかけた。けれどその手が自分に伸ばされたと分かった少女は一層大きく震え、目を目いっぱい開いたかと思えばぎゅっと閉じ、自分を守るように抱きしめた。拒絶だ。
ずくん、と、男の胸が痛んだ。ざわついた。この悲しみはなんだ。この焦燥はなんだ。この後悔は、なんだ。
ぶわりと風が巻き起こる。まるでこの部屋から男を追い出すように強い風が突然に吹き、意表を突かれた男は後退して扉から離れた。すると扉は音を立てて閉じられる。バタンッ!と強い音が迷宮に木霊する。男は茫然と胸を押さえていた。今のは一体何だったのか。自分を惑わす罠にしては今までの物と違って酷く感情を揺すぶられる。まるでこれは・・・・記憶だ。どこかの映像を一部くり抜いて部屋に閉じ込めたようなそれは男も何度か出くわしたことはあった。時には本の中に。時には瓶の中に。つまりこの部屋は、“闇のゲーム”の罠などではない。遊戯の“哀しい記憶”だ。まさかこのようなシーンをあの少年が持っていようとは思っても居なかった男は複雑な思いであった。とは言え、ここは“本当の部屋”ではないのは明らかだ。今男が挑戦しているゲームには関係のない場所。男はごくりと乾いた喉に潤いを流し込むとまた歩き出した。
「・・・この扉を開ける!!」
そうしてまたひとつ辿り着いた扉。スタート地点から遠く離れた逆さまのこの扉から、男は僅かな人の気配を感じていた。きっとこの中に、少年は居る。男はぐっと扉を開いた。ゆっくりと見えてきた部屋の中は明るい。そして、
「よ!」
腕と足を組んで石造りの玉座に座る遊戯の姿がそこにはあった。漸く辿り着いた、そう思った男は安堵のためかその時一瞬でも警戒心が薄れていた。遊戯の存在に導かれるように、男は部屋に足を踏み入れる。
「!!」
と、突然男の足元の床がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。これは落とし穴の罠。本当の部屋などではない!
「くっ!」
男は重力に従って落下しかけながらもなんとか片手を穴の淵に引っ掛ける。石ブロックが落ちていく穴の先は暗い底なしの闇。今にも男を食らおうと大口を開けて待っている。男は必死に淵を掴んだ。このままこの闇に落ちてしまえば、自分は遊戯の心の中から抜け出すことができなくなる。しかしだからと言って、この状況からの打開策も思いつかない。八方塞がり。男の手から額から、じわりと嫌な汗が流れた。
「!」
顔の上に陰がかかったことに気付いた男は上を見上げた。そこには穴の傍に立つ遊戯の姿。見下す彼は悪戯に笑んでいた。
「突き落としてやろうか・・・・ククク・・・・・・」
ひやりと男の背を恐怖が撫でる。今この淵を掴む片手を踏みつぶしでもされたら、抗うことなく男は闇に飲み込まれるだろう。男が覚悟した、その瞬間。伸びてきたのは、片方の若い手。
「フフ・・・大丈夫。この手は罠なんかじゃないさ!」
それは救済の手。命を懸けた“闇のゲーム”の終焉に、あろうことか遊戯は手を差し伸べたのだ。男は唖然とした。自分はこのような男を試そうとしていたのか。
がしりと白い手と黒い手が繋がる。小さな身体のどこにそのような力があるのか、遊戯は男を引き上げ手を離した。
「まさか心の中のもうひとりの少年に助けられるとは・・・借りができたな。」
膝をつき動揺と焦りと恐怖から上がった息を整えながら男は笑った。そんな男に、遊戯は流し目を寄越す。
「人の“心の部屋”を覗こうなんてあまり趣味がいいとは言えないぜ!とっとと出て行ってもらおうか!」
はっきりと拒絶の言葉を口にされ、男は漸く腰を上げた。
「このゲーム、私の負けというわけか・・・」
自分は少年の“本当の部屋”を見つけることはできず敗者となった。ゲームオーバーだ。男は潔く遊戯に背を向け出入口に向かう。
「いや・・・」
そんな男の背を見つめながら、遊戯は静かに呟いた。
「これが始まり・・・なのかも。」
それは予感だった。しかし確信でもあった。今ここに“千年アイテム”による“闇の力”を持った人間が二人並んでいる。それは物語の第一章に過ぎない。
「ああ・・・さらばだ。」
男は振り返ることなく扉を開ける。男も感じていた。今この時から、自分が生きてきた理由があるのだと。
“遊戯”の心の部屋の扉が閉まる。それと同時に男の意識は光のある方へ浮上する。そうして次に目に入ったのは。
「ねぇ、ねぇってば・・・」
跪く男の顔を心配そうに覗く、先程まで対峙していた少年とはまるきり雰囲気の違う少年・遊戯の顔であった。男は息を荒げぽたりぽたりと汗を流している。“闇のゲーム”の後遺症か、酷く体力が消耗していた。
「ねぇ大丈夫?すごく顔色悪いよ!目ぇ瞑ったまま動かなくなっちゃうしさ・・・・・」
どうやら男が遊戯の“心の部屋”に入ってからずっと声を掛けて心配してくれていたらしい。時としては然程立っていないはずだが、それでも一時反応しなくなってしまった男に不安を感じたのだろう。
「ああ、大丈夫だよ・・・君は不思議なボーヤだな・・・」
心の外ではこんなにもおっとりとしていて子供らしいのに心の中には大人も顔負けのゲームマスターの顔を潜めている。裏表の激しい人格を持っていながら根っこには人の心配をしたり助けたりする優しさがある。男にとって充分不思議な魅力を持つ少年だった。
「あ、そうだ・・・これを返すよ・・・」
「わー!千年パズルーーっ!!」
立ち上がった男は徐に懐を弄ると金色の三角錐を取り出す。それは見間違えるはずがない、遊戯の宝物であった。
「なぁんだ!エジプトの人が持ってたのか―!ありがと!」
男からパズルを受け取ると遊戯はいそいそと首に掛けた。漸く寂しかった胸元に宝物が納まりほっと安心する。
「フフ・・・礼などいらないさ!君には借りがあるのだから・・・・・」
「え?借りって・・・・なんか貸してたっけな?」
男の言葉に何のことか見当のつかない遊戯は首を傾げる。そんな遊戯に男ははっきりと言った。
「もうひとりの君にさ!」
「え〜!?もうひとりのボクぅ〜〜!?!?」
突然の在り得ない発言に遊戯はケラケラと腹を抱えて笑った。自分がもう一人居るなんてそんな非現実的なことがあるわけないと笑う遊戯の様子に今度は男が首を傾げる。遊戯のこの反応から自分の中にもうひとつの心、つまりもうひとつの人格があることを自覚していないと思われる。
男は思った。今は離れている表と裏の人格がひとつになった時こそ、“千年パズル”の真の力が目覚める時なのだと。
「ボーヤ・・・名前は・・・・・」
「ボク遊戯!ボーヤじゃなくて遊戯―っ!!」
遊戯、と男は繰り返す。この名前を深く頭に刻むように。
「これから君が成し得なければならないこと・・・・それはもうひとつの自分を発見すること!!」
「え・・・!?」
遊戯の横に立った男は視線を遊戯に寄越して突然そう述べた。
「そしていつしかその“千年パズル”に秘められた真の力を・・・3000年もの間封印された謎を解き明かさねばならない!!それがパズルを解きし者の宿命!!」
並べられた数々の言葉に遊戯は困惑する。もうひとつの自分とは、千年パズルの真の力とはなんなのか。男のはっきりとした口調からは嘘や方便には感じられず、遊戯は茫然と言葉を聞くしかなかった。
「私の名はシャーディー。他人に名を名乗るのは生まれて初めてのことだ。フフ・・・・・」
去っていく男・シャーディーを慌てて振り返る。既に遊戯からはだいぶ離れたところを彼は歩いていた。
「私にはもう一人裁かねばならぬ者がいる・・・・“王家の谷”の神の領域を冒したもうひとりの男を・・・・」
シャーディーの纏う空気が変わる。まるで異質なその雰囲気に、遊戯はごくりと唾を飲み込んだ。聞きたいことはたくさんあった。けれど男の背を追いかけるほどの心の余裕がなくなった遊戯は、黙って暗闇に溶けゆくシャーディーを見送った。
そうして漸く家に帰りついたとき、遊戯はひとつの事件を知ることとなる。