「杏……阿含の勘違いの一因、お前にもあると思うぞ……」 とりあえず、近所迷惑と修羅場を阻止するため金剛家のリビングにお邪魔させて頂き、阿含の恨み言をふんだんに混ぜられた勘違いの経緯を聞いた雲水は、深ぁあい溜め息を吐きながら苦々しくそう宣った。 「解せぬ…」 「解せる、マジ解せる」 兄の発言に鬼の首とったかのような阿含を、雲水は横目で睨み付けながら続ける。 「そんなことで勘違いする、阿含も阿含だがな」 「あ゙〜まじで言ってんの雲子ちゃ〜ん?」 「当たり前だ。杏がお前を好きなのは昔っからだろ、それを何で疑うんだ?」 「──は?」 チンピラみたいに雲水に絡んで行った阿含は、さらりと続いた雲水の言葉に固まった。 「雲水にバレてた……恥ずかしい」 「なぜバレないと思った? それにお前、幼稚園の時“あごんのおよめさんになる”って言ってただろ」 「もうやめて!!ころして!!」 熱くなった顔を両手で覆って俯くと、頭上から雲水の溜め息まじりの声が落ちる。 「は?え?……え?“俺”が好き……?雲水じゃなくて?」 未だ困惑の渦中にある阿含に、雲水は完全に呆れ果てた眼差しを向けた。 阿含は間抜けな顔のまま此方を向いて、再度「俺が、好き?」と呟くので、くっそなにこの羞恥プレイしねる、と赤い顔を覆ったまま呻いていると、ぐんと上に体が持ち上げられた。 「??!」 急に上昇した体の位置におどろいて顔を出すと、目前に良い笑顔の阿含がいた。 おい、なんだその綺麗な笑顔。こわい。 「何だ、じゃあ遠慮することなんてねぇじゃねぇか!」 「ふぁ?!」 先程とは一転、嬉しそうに声を弾ませる阿含に一瞬にして抱き上げられた、いわゆるお姫様だっこな体勢に変な声が出る。 嬉しそうに瞳を弧に細める阿含の顔の近さに目を白黒させていると、「おい、阿含」と痛むらしい頭を押さえながら雲水が、お姫様だっこで杏をさっさと連れ去ろうとしている阿含を呼び止める。 助けて貰えるかという期待は、続く発言により脆くも崩れ去った。 「避妊はしっかりしろよ」 「わかってるっての、ハゲ」 “避妊”と言う単語に、血の気が引くと同時に顔が熱くなってとめちゃくちゃだ。 どういう状況だコレ!とお姫様だっこのまま運ばれていく現状に悲鳴を上げる。 「何する気なの?!」 「ナニだよ、ナニ」 「何それ怖い!」 此方の悲鳴を聞いているのかいないのか。人一人を抱えながらも、流石アメフトマン、階段を上る足取りは軽い。地獄への扉が間も無く迫っておりますくそったれ。 「なぁ。お前さ、処女?処女だよな?」 「さっ──最低!サイテー!!!」 「処女か、そうか」 「阿含、杏。俺はコレから出掛けて来る。 お袋達居ないけど、あまり羽目を外すなよー」 「へいへい」 階段下からの雲水の声に、ジーザス!と叫ぶ。この世に神も仏もいない! 「ほんと兄ちゃんったら気が利く〜」 ご機嫌なまま阿含は行儀悪くも足で自室のドアを蹴り開け、部屋の中へと入った。 朝起きたそのままの状態であろう乱れたベッドに、案外優しく下ろされる。 階下から雲水が家を出た音がさっきした。 二人しかいない家の中には自分達だけという現状に、緊張が高まる。 「あごん」 不安と緊張と羞恥とほんの少しの期待から、彼を呼ぶ声が思わず震える。 間近にある阿含の顔がさらに距離を詰め、唇同士が触れ合った。 柔らかい感触にぎゅっと目を瞑ると、微かな笑い声が聞こえた。 「つまんねぇ勘違いのせいで、二年も無駄にしちまった」 「あごん……私」 「あぁ」 恐る恐る開いた視界に、柔らかく口の端を上げる阿含が静かに言葉の続きを待っていてくれている。 「阿含が、すき」 「──あぁ」 俺もだ、と囁くと同時に再びキスが落ちる。 想いが通じ合った事を幸せだと思う反面、思うことがあり阿含をそっと引き離した。 「……何だよ」 すんなりと距離をとってくれたものの、阿含の表情は不機嫌を振り切っている。 そういう顔は、不良相手にだけ使ってくださいお願いします。こわい。 「あ、あのこれ以上は……」 「はぁ?!ここの止めるとか、ねぇだろうが!」 「阿含が!」 「──……」 「阿含が……私以外の人と関係を切るって……約束出来ないなら、嫌」 辿々しくもどうしても譲れない主張をする──これが、いつまでたっても私が告白などしようと思わなかった理由なのだから。 「なら、続けていいな」 「へ」 「既に全部清算してきてんだよ」 安心しろ、と言いながら制服を乱す手は段々大胆になっていく。 触れるだけの優しいキスを受け止めながら疑問符を飛ばし続けていると、ご機嫌な阿含はキスの合間に答えあわせをしてくれた。 「今日、お前がどんな答えを出しても」 阿含は笑う。 「もう逃がさねぇと決めたんだ──その為に、いらねぇものは切り捨ててきたんだよ」 つまりは答えによっては強姦フラグが立っていたわけですね。 うん、聞かなきゃ良かったなぁ。 END (2015.2.27 公開作品)