彼、ブロッケンマンの言葉は何一つ理解出来なかったが──それもそうだ、自分はドイツ語どころか英語さえもわからないのだから。 それでもこの任務につけたのは、作戦メンバーの一人が前日の任務で負傷してしまったためであり、その欠員の補充に春乃が当てられたためだ。 軽傷であったがそれが完治しないかぎりは、作戦には参加出来ない──春乃はそれまでの代理である。その代理の問いへの答えが、どうやらあの人にとって“ツボ”だったのだけは確かだ。 TVや新聞でしか見た事のない人の爆笑を見るのっていうのは、かなり稀な事ではないだろうか。 いや、でもしかし──。 「私、そんなにおかしな事言いましたかね……?」 前を走る護衛対象者の乗る車を見ながらそう呟くと、隣の運転席に座っていた武田が噴き出した。 「武田先輩?」 「いや、いや、何でもないさ」 そう言うわりに、未だ肩を震わせて笑う武田を横目で睨む。 はてさて、振り返って見ても自分にはおかしな言動はなかったはずだ。 「ブロッケンマン……笑いの沸点が、低い人なんだろうか……」 「ブっ!ちょっと、お前さぁ! 残虐超人相手になんでそこに行き着くのか、マジわかんない!」 ゲラゲラと笑う武田に、また笑うと少し拗ねる春乃の耳には、繋がった無線から話を聞いていたらしい同僚の笑い事が届いており、浚に無愛想な顔を春乃にさせていた。 『ご機嫌が宜しいようで』 秘書の嫌味の滲む言葉に、あぁと笑み混じりに返す。 空港に到着してからの憂鬱さはもうない。 それを払う程の爽快さが胸の内にあった。 『なかなか良い答えだと思ってな──』 あの後、問うた疑問の答えはなかなかに面白いものだった。 あの男の通訳を通して伝えた疑問に、彼女は何ともないように言ったのだ。 当てる気がないものを避ける必要はない、と。 そんな気配など微塵もなかったそれに、彼女は気付いたのだ。 『面白くなりそうだ』 何が、とはわからないが、素直に呟いたそれに、ほどほどにしてくださいよと、呆れたように秘書が呟いた。 end