「ブロッケンマンに元気が無い?」 「えぇ…最近、試合でも調子が悪そうで……」 廊下の角を曲がろうとしたタイミングで、上司と彼の秘書がそんな話しているのをちょうど耳にした。 立ち聞きはまずいかな、と引き返しかけたところで気配に聡い上司に見つかってしまい、手招きで呼ばれてしまい肩を落としながら近づいて行く。 「春乃、最近ブロッケンマンに元気がないそうだが何か知っているか?」 そう問われて、少し悩んでから春乃は首を横に振った。 つい先程まで自分が警護に当たっていたブロッケンマンにそう言った様子は見受けられなかった。 「いえ…特に思いあたる節は……」 「そうか…」 残念そうな秘書の顔に申し訳なさが出て来てしまう。 「じゃあ、最近お前は何かあったか?」 「え?私ですか…?」 「そう」 なんで彼の話から自分の話になるのだろうかと、集中する2人の視線に挟まれ困惑しながら春乃は「え〜」と視線をそらす。 それをじと目で見ていた上司が、不意に思い出したように「そう言えば」と呟いた。思わずぎくりと肩が震える。 「お前、次の試合日、護衛任務休みとっていたよな?」 「あ、はい。どうしても逃げ…抜けられない用事がありまして……」 「逃げられない用事て言いかけたな、何かあったのか?」 逃れられない追求に、春乃は「うぅっ」と情けなく呻いた。 なんでこんな尋問じみたことをされているのだろうかと情けなく思いつつ、助けを求めるべく秘書へと視線を向けたが見透かすような目でガン見てくる相手が助けてくれるはずもなく。 春乃は深い溜め息を吐いて腹をくくった。 「実を言いますと、親戚筋から見合いを持って来られたんですよ」 「え」 「え」 ぽかんとした顔をする2人に、春乃は苦笑しながら「意外ですよね」とぽりぽりと頬を掻く。 「本意ではないのですが、相手が警察関係者だったせいで断りにくい状態になってまして。 ……とにかく一度顔を合わせないと相手にも、うちの課長にも顔たたないからと言われてしまって、仕方がなく」 「あー…そうか、なるほどそれか」 「なるほど……それですね」 「?」 ひどく脱力した顔をした2人の顔を見比べて首を傾げる。何が“なるほど”なんだろうか。 「お前に任務を言い渡す!」 「は、はい」 上司モードで急に言い放たれ、反射的に春乃は姿勢を正す。 「次の試合日はブロッケンマンの傍にお前が付け!」 「は?! いえ、ですからその日は…」 「課長にかけあってもらってその見合いは中止にさせる。お前が“会ってもいい”と思っているなら別だが、そのつもりはないんだろ? そんな相手にわざわざお前が時間を割く必要はなし!」 そう言い切られてしまうとなんと返していいのかわからなくなってしまった。 正直、会いたくはないのだ……祖父にも上司と同じようなことを言われていたが、課長に迷惑をかけてしまうわけにはいかないと思い、見合いの席に応じていたに過ぎない。 不謹慎ながら少しほっとしてしまった。 「ということで、この話は俺から課長に話を通しておくから、お前は当日元々の担当だった吉田に任務変更の旨伝えて来い。 後で変更した内容を伝えるから俺のところに来るように言っといてくれ。吉田が今、警護についているはずだったな?」 「はい。それでは、伝達しておきます。 ……あの、お手数をおかけしてしまって本当に申し訳ありません」 春乃が深く頭を下げると「いいからいいから」と上司は笑った。その隣で秘書官も笑っている。 もう一度頭を下げてから、踵を返して伝言を伝えに歩き出す。 親戚には自分からも連絡を入れるが、祖父から話を通してもらおう。軽くなった心に足取りが軽い気がした。 「これで安心ですな」 「えぇ、安心です」 後ろで2人がにやりと笑ってそんな言葉を交わしていたことは、残念ながら春乃の耳に入ることは無かった。 end (なんでブロッケンマンがSPの見合い話を知っていたかと言うと、バカ正直に休む理由を説明したからです)