カツン、カツンと反響する靴音を響かせ、圭を先頭に三人は地下へと深く続く石階段を下って行く。 外気よりもヒヤリとした空気は、本を保管するための場所に続いている為か地下でありながら思ったより乾いていた。 不意に、圭が片腕を上げ止まるように指示する。 「秋都、懐中電灯」 後ろに伸ばした圭の手に秋都は持っていた懐中電灯を渡した。 数段降りたところで階段は終わりらしい。底まで降り僅かに重心を落として警戒しながら圭は奥を懐中電灯で照らし安全を確認する。 古い遺跡という事で侵入者を拒む仕掛けなどが有るのではないか、というミートの予想に反して今のところそれらしいものは見つかっていない。 また、階段に薄く積もった土埃の様子から言って、この場が閉ざされてから何者かの侵入があったとは思えなかった。 空気が腐っていなかったのが救いだなと、ミートは心中で呟く。 もしかしたら何らかの換気システムがあるのかも知れないと思考を飛ばしかけたミートの後ろから、圭の方を首を伸ばして覗いた秋都が「けーい」と呼びかける。 「どう? なんかあった?」 「大丈夫だな。罠とかなんか作動しそうなのはない、奥の方に扉っぽいのはあるけど」 確認がすんだ圭に促され、ミートと秋都は階段の下の開けたスペースに立った。 ほらあれ、と圭の持つ懐中電灯がその奥にある石の扉を照らし出す。 「入口、ですかね?」 「図書館のならいいけどな、開いたらまた階段とか嫌だな」 「ヤな事言わないでよー」 軽口を叩きながら足下に転がる石の塊を避けながら近づくと、その扉にも同じように二つ並んだ鍵穴が彫り込まれているのが見えた。 形といいサイズといい、先程の入り口にあったものと同じだったたため、「もしかしてこれも?」と呟いた秋都と圭の視線はミート君に集まる。 「やれやれ……眼鏡がいくつあっても足りませんね」 「眼鏡の予備ってまだあります?」 「鞄を漁れば多分。秋都さん、これをお願いします」 「了解です!」 差し出された眼鏡を受け取って秋都はそれを二つのくぼみに合わせてはめ込んだ。 途端に何かの仕掛けが作動して重々しい音をたてる扉から数歩下がり距離をとる。 ゆっくりと開き始めた扉の間でパキリと小さな音を立てて眼鏡が砕けた。 あーあと圭が声を上げている横で、ミートの背中の鞄を開いて秋都が眼鏡を探す。 「ミートさん……これしか無いですよ」 「……いやなんでコレ入ってたの、ミートさん」 後ろから秋都が差し出した眼鏡に、圭が思わず口の端を引き攣らせる。 「出る時、焦っていたもので……」 すわ仮面舞踏会かと、突っ込まれそうな眼鏡をミートは恥ずかしそうに秋都から受け取った。度入りだったのがせめてもの救いである。 眼鏡を装着してミートは開かれた扉の向こうへと視線を向けた。 扉が開き切ったと同時にどういう仕掛けか、入り口の近くから照明が灯り始めていく。 照明が着く度に露になる膨大な本が詰め込まれた本棚の壁に秋都達は感嘆の声を上げた。 「すごい本棚ってか本の数!!!奥どこまで続いてるのこれ?!」 「天井まで本ぎっしりじゃんこれ……」 「“叡智の泉”と呼ばれるのも当たり前ですね……。 こんな数の本を所蔵している図書館はここ以外ないでしょう」 図書館内に足を踏み入れ辺りを見渡しながら呆然と呟く三人の元に、微かな機動音を起てて頭上から何かがゆっくりと降りて来る。 丸いフォルムのそれはふわりと三人の近くまできて、僅かに宙に浮いた状態で静止した。 「もしかして、ホバーボード?」 その呟きに反応してか前方部分に取り付けられたディスプレイに《ドウゾ、オノリクダサイ》と電子的な声と共に書籍の検索画面が開かれた。 「すごい…! 広い図書館を移動するための乗り物だ…!!」 直ぐさまそのホバーボードに乗り込みその機能を確かめるミートの後ろで秋都と圭は顔を見合わせる。 「すげー昔に作られてるのにこれかよ…オーバーテクノロジーにも程があるぜ」 「なんか警戒して来たわりに、至れり尽くせり感すごい」 思わず肩の力が抜けたが、見つけたからといってこれで終わりではない。 秋都は腕につけていたホルダーからスマホを取り出し画面を開く。 「流石に圏外か〜…。 冬子ボスと夏彦先輩達に、図書館みつけたこと連絡入れて来た方が良いよね?」 「だな。俺が上まで戻って連絡入れて来る、お前はミートさんの手伝いでもしてろよ」 「わかった」 圭は秋都と拳を合わせ合うとホバーボードに四苦八苦しているミートに声をかけた。 「ミートさん、俺一回上に戻って図書館発見で来たこと知らせてきますね」 「あ、はい。よろしくお願いします、圭さん」 軽く手を振って図書館を出て行った圭を見送ってから秋都はミートに向き直る。 「どこから手をつけましょう?」 「ケビンマスクの奇病と時間超人の因果関係について調べたいんですが。 こうまで本が多いとどこから手をつけていいのか……」 「なら、しらみ潰しですかね」 そう溜め息混じりに呟いて秋都は辺りをもう一度見渡した。 「私はその乗り物がもう一台ないか探してみますね。 正直ここを足で探すの効率悪そうなので。なかったらなかったですが」 「そうですね、なかった場合はその時考えましょう。僕は先にこれを使って本を探しています」 検索画面にキーワードを打ち込むとミートを乗せたホバーボードが再び浮かび上がっていく。 秋都はその下を通り抜け、図書館の奥へと足を進めた。