冬子は委員会に設置された対策本部で、圭からの図書館発見の報告を受けた。 携帯から一度顔を離して、傍で聞き耳を立てていたハラボテ達にその連絡の内容を告げる。 「探索隊が《アレキサンドリア超人図書館》を富士の裾野で発見したと」 ほ〜っとあからさまに安堵の息を吐いた面子達から視線を手元に戻し、冬子は携帯を耳に当て直すと「それで?」と報告の続きを促した。 《かなりの広さなんで、すぐすぐ情報見つけ出すのすごい大変そうです。 ミートさんがいるとは言え、あの量見て回るには人手が足りなすぎますよ》 「そうね…少し、待ってくれる? 相談してみるわ」 冬子は手元に置いていたノートパソコンから伸びるケーブルを携帯に繋ぎ、デスクに置くとパソコンを起動しスピーカーモードに切り替える。 「こちらの会話が聞こえるようにしたんだけど、どうかしら?」 《あ、はい。聞こえてます、大丈夫っす》 「圭からの報告で、図書館の規模が思ったより大きいようです。 情報精査のためにも追加の人員に必要機器を持たせて派遣するべきかもしれません」 そう言って冬子は対策本部のデスクを囲んだ委員会の面々の顔を見渡した。 「そうじゃな、それなら委員会から何人か派遣しよう。 事務にならそう言ったことが得意なやつがおるじゃろう。ジャクリーンは、そのメンバーを選んでくれ」 「わかりましたわ、お父様」 隣に立っていた娘にそう命じるとハラボテは冬子に向き直った。 「しかし必要機器というのは、何が必要じゃろうか?」 「得た情報をまとめて、共有する為にPC関係は持って行った方が良いでしょう。 それから地下と地上を繋いで、地下からでも連絡がとれる無線の設置とかですかね」 「なるほど。それと長期戦を考えて食料なども持っていたった方がいいじゃろうな」 「えぇ」 《冬子さん、ちょっと待って下さい。下で何か言って……》 圭のその言葉に俄に緊張が高まる。 電話口に微かに漏れ聞こえる声は、大きく声を張っているせいか音割れして何を言っているかまでは判別がつかない。 最後に圭の「わかった」という声が聞こえてから、《すみません、大丈夫です》と圭の声が電話口に戻って来た。 「圭、何があったの?」 《えぇっと、今下から秋都が「やばい本の言語読めない」って伝えて欲しいって大声で…》 「……そう言えば考慮してなかったわね」 言いにくそうな圭の言葉を聞いて、思わず額を押さえた冬子にハラボテも腕を組んで唸る。 「人員の選抜に《古代語》の知識もあるものという項目を入れねばならんようじゃな」 《最終手段は、書籍の検索方法はあるから俺らがまとめてミートさんのところに運ぶっててもあると思いますけど…》 「ちょっと非効率だけど、最悪仕方が無いわね」 冬子はそう溜め息混じりに呟くと、ハラボテもそれに頷いた。 「とにかく夕暮れまでに追加人員をそちらに送ろう。それまで君達で頑張ってくれんかね?」 「連絡は定時報告にしましょう、面倒だけど一時間ごとに連絡をちょうだい。 こちらの状況とかも報告するから」 《了解しました、ミートさんと秋都にもこのこと伝えておきます》 「何か今のところそっちて必要なものがあったら言ってね」 そう言うと圭は少し悩んだ後、《一つだけ》と答える。 「何?」 《ミートさんのスペアの眼鏡です、念のため多めに》 「……? わかった、用意しておくわね」 付け加えられた「多め」という言葉に疑問を感じつつも、二言三言交わしてから圭との通話を切った。 「待った無しの状態とはいえ、時間はかかりそうだな」 首裏をかきながら苦い表情の宗之の言葉にその場にいた全員が重々しく頷く。 「ジャクリーン嬢、そちらから何人くらい派遣出来そうですか?」 「委員会には、3人くらいしか該当する職員がいませんわね…」 「結構少ないなぁ」 難しい顔でタブレットで職員情報を確認していたジャクリーンの横から画面を覗きこんだイケメンが苦くぼやく。 「職員の採用基準にこれから《古代語》いれたほうがいいかしら」 「使う機会がこんな時しかないけどなぁ」 頭を悩ます兄妹から、冬子はハラボテに視線を移した。 「超人の方々で、そちらに精通している人は?」 「どうじゃろうな……お前はどう思う?」 「そうですね……一期生は無理ですが、二期生は真面目な者達が多いですし。 古代語への理解はともかく、彼らになら任せられるのではないでしょうか」 ハラボテに話を振られたキューピー頭の付き人の男は顎に手をあて悩んでからそう答えた。 「特にスカーフェイスの頭脳はミート君のお墨付きだったはず。 それと、幸いなことに先日のイベントに合わせて伝説超人の方々も日本に集まっています。 彼らにも強力を頼みましょう。ラーメンマンやウォーズマンならばもしかして…」 「よし、連絡を取ってみよう。頼むぞ」 「かしこまりました、すぐに」 足早に部屋を出て行った付き人を見送ってからハラボテは深く息を吐き出してイスに腰掛けた。 「事態の終息まで一体どのくらいかかってしまうのか……」 痛む頭を抱えて呻いたハラボテにジャクリーンが心配そうに駆け寄る。 そんな娘に大丈夫だと答えてハラボテは冬子達を見上げた。 「情報規制を引いているとは言え、いつかは騒動になってしまう! そしたら社会は大混乱だ…!」 いつマスコミが情報を嗅ぎ付けるとも限らない、ハラボテの言葉に冬子は目を僅かに細めた。 「……マスコミのほうは、いくらか延命処置は出来るかもしれません」 「それは本当かな?」 「手はあります、かなり“乱暴”ですが。最悪その手を使います」 冬子の言葉が何を指すのかただ一人理解している宗之がすごい顔で、すました顔の冬子を見たが彼女は知らぬフリを貫いた。 遠い目で宗之はどうなっても知らんぞと、ここにはいない人物に心中でぼやく。 「まったくどこほっつき歩いてんだよ、あのバカ……」 連絡もつかない相手に思わず恨み言をこぼした。