今日はなんだか花開院さんが、ずっとそわそわしていたので、うちの組の奴らの噂を聞き付けて退治に行く気なのではないかとボクは朝からハラハラしていた。 「ゆらちゃん、なんか今日へーん」 「そわそわしちゃって、さては彼氏とデートだなぁ」 そう明け透けに花開院さんに聞いたのは、ボクと同じで彼女のそわそわに気付いていたらしい鳥居さんと巻さんだった。 「か、彼氏?!デ、デートやないっ! ちょっと──幼馴染みがこっちに来てて」 「幼馴染み……と言う事は! 花開院さんと同じく陰陽師という事かい?!」 最後の方は恥ずかしそうに呟いた花開院さんの言葉に食いついたのは、当たり前だか清継くんだった。 「いや、あの人は違います!普通の人!」 あまり話を詳しく話そうとしない花開院さんに、さらに詰め寄ろうとした清継くんはカナちゃんに宥められてとまった。 しかし──陰陽師ではないとしても、花開院さんの幼馴染みということは妖怪にとっては危険な存在かもしれないし、用心だけはしておこうと心に止めて帰り支度を整えて教室を出た。 「若!」 追い掛けてきた雪女を振り返れば、予想通りあまりいい顔はしていなかったので、ボクと同じ事を考えているんだと思う。 「とりあえず……じぃちゃんと、組の皆に話して注意を呼びかけようか」 「はい」 その言葉に幾分安心したのかほっと息を吐いた雪女の隣で、ボクは少しだけ顔を顰めた。 なんと言うか、花開院さんの口ごもりかたが少し気になった。 清継くんの質問攻めは──確かに辟易するものがあるから、先手を打って答えたくないという意志表示をしたのかと言うのもあるかもしれないが、それ以外にも知られたくない何かがあるような気がしてならなかった。 花開院さんは、一族の頭首になるためにこの浮世絵町に来ているんだから、仲間を呼んでこの町にいる妖怪を全滅させようと企てるはずもないだろうし──なら、その幼馴染みとは一体何者なのだろうか。 「若?」 「え、あ、ごめん何?」 「あの人……」 指差した先には、今にも倒れそうにふらふらと歩いている人がいた。 気分が悪いのか時折胸を押さえている。 その足元の白い猫が心配そうに擦り寄りながら歩いていた。 「怪しいですね……あれが陰陽師の仲間でしょうか」 「ちょ、違うだろ!気分が悪いんだ、きっと……!」 「あ、若!危ないですよ!」 少しずれてる雪女の発言に呆れつつその人に駆け寄る。 「大丈夫ですか?!」 電柱に手をついて体を屈めたその人の肩を叩こうとすれば、その人の足元にいた白い猫が威嚇するように唸った。 「うわっ!」 「タマさん駄目ですよ……すいません、大丈夫です」 猫を窘めた後、俯いていた顔をあげたが、目深く帽子を被っているせいでその人の顔は口許しか見えなかった。 「いえ、でも……」 思わず口ごもり見たその人の足元のいまだ威嚇中の猫は確かに“化け”猫で、まさかこれのせいでと脳裏に嫌な予感が走る。 「ななしさん!」 「え、花開院さん……?」 駆け寄ってきた花開院さんはしゃがみ込んでいるその人の肩を抱いた。 「だから止したほうがええって言ったんよ! ななしさんは、妖気に当てられやすいんやからこの町に来たら危ないって!」 「でもね、ひきこもってばかりもいかないからさぁ」 ぼやくように呟くその人の声はやはり辛そうで、花開院さんは酷くやきもきしたような表情で口を閉じた。 「あの人が……?」 「そうみたいだ……さっき言ってた人だと思う」 雪女とひそひそと話していたら、なんとかその人に肩を貸して歩き出そうとしているふらふらしている花開院さんがいて慌てて駆け寄った。 「手伝うよ」 「──おおきに、ならうちのアパートまで運ぶの手伝ってくれる?」 それに頷くと花開院さんは少し笑ったようだった。 振り返った先で腑に落ちない顔をしている雪女と、不機嫌そうな白い猫がいたので、しかたがないじゃないかと苦笑を浮かべた。 ボクは困っている人は放っておけないんだから。