奴良君達を部屋に招き入れながら、日々の片付けを怠っていなかった自分にひそかにガッツポーズを決める。 一先ずななしさんをベットに横たわらせると、直ぐにあの化け猫がベットに飛び乗ってななしさんに擦り寄った。 ななしさんに悪さをしてない──むしろ虫よけまでしているからいいものの、化け猫などいい加減始末してしまえばいいものをと睨みつければ、気付いたのかこちらを振り返り哄笑の色を見せて目を細めるものだから腹ただしい。 しかし挑発に乗るのも何だか悔しいので、所在なげに立ったままの二人を振り返る。 「おおきに、二人とも。 お茶でもだすから、適当に座って」 「あ、ありがとう」 「ななしさんにはとりあえず、氷枕でも持ってこようか?」 「うん……お願いー……」 ひらひらと手を振ると、その手も力無くベットの上に落ちた。 台所に向かい冷凍庫から氷を出していると、リビングから声が聞こえた。 ななしさんが、奴良君達に礼を言っているようだった。 「ごめんね、帰り間際に迷惑をかけてしまって………遅くなったら家族の人達心配しない?」 「いいえ、構わないですよ。 でも…本当に大丈夫ですか?」 「うん…いつもは大丈夫なんだけどね…」 渇いた笑いを浮かべているであろうななしさんを思って溜め息を吐く。 お盆に、二人の為のお茶と空いたスペースに氷枕を置いてリビングに向かう。 「ななしさんがいっつもおるところは、神社並みに神聖な場やから大丈夫なんやろ? 急にこんな所に来たら体崩すのも当たり前」 「そこまで、か弱い作りじゃないんだけど……」 「神聖?」 お茶を受け取りながらそう呟いた奴良君に、彼らならば良いかとちらりとななしさんを見れば否はなかったので話を続ける。 「ななしは、鍛冶師。 うちら陰陽師の《護り刀》や《宝刀》なんかを鍛える腕のいい職人で、美しい程に浄められた刀を作ってもらってる」 「へぇー!」 「それは先代の話、私はまだまだ未熟者──そうだ、本題」 そう言って僅かに体を起こしてななしさんは鞄の中から小さいサイズの桐箱を取り出し差し出した。 「新しい君の《護り刀》。次はもう少し持つといいけど……」 「ありがとう、ななしさん」 受け取りちらりと見れば食い入るように箱を見ている二人がいて苦笑を浮かべる。 「見る?」 「え?!……いいの?」 「普段は見れんから、今日は特別。 奴良君達、助けてくれたし」 「ありがとう……!」 桐箱を膝に乗せ蓋をあけ白い絹で包まれた《護り刀》を取り出す。 それをするりと取り払えば、まだ指紋も付いていない黒い漆の鞘が現れた。 握る柄にはシンプルな銀の装飾がされていて、相変わらず自分の手によく馴染んむ。 鞘をそっと抜けば見事な直ぐ刃が夕焼けを反射した。 二人が息を飲むのがわかる。 「相変わらずいい腕や、ななしさん……」 「よせやい、褒めたってなにも出ないよ」 照れたような声をあげるななしさんにくすくすと笑いながら、鞘に刃を納め絹布に包み直して桐箱にしまい直しながら未だに《護り刀》から視線を外さない二人に声をかける。 「どやった?」 「凄い……綺麗だった。怖いくらい……」 「私も、いつもそう思う」 「花開院さん……」 「ん?」 箱を部屋の隅に寄せながら、奴良君を振り返る。 「それで、妖怪を斬るの……?」 真剣な瞳に思わず言葉を飲み込む。 そのわりに青い顔で握った拳が震えていたので、刀に飲まれたかと、口の中で呟いた。 「《護り刀》は使うものじゃあないよ。 使った時点でその力は逆の物へと変貌する──それがようするに《妖刀》とかに区分されるものさ」 私の代わりに答えたのはベットに横たわり天井を見上げたままのななしさんだった。 「そういう事、これは協力なお守りみたいなもので刀として使うものやないよ。 ──怖くなった?」 「え!あ、う、うん……なんか余りにも綺麗過ぎて」 奴良君の反応に、自分が初めてこの人の刀と会った事を思い出す。 美しさ浄さそして秘められた力といい、綺麗すぎて怖い、凄くぴったりな言葉だと思う。 先代を凌ぐ何かが確かにこの人の中にはある──本人が気付けないだけで。 相変わらず苦しそうに触れている首元に、あっと今更ながらに思い出す。 原因は浮世絵町の妖気ではない、もしかしたら彼女の首の“跡”をつけた犯人が此処におるのかもしれない。 「ななしさん、首辛いの?」 そう尋ねるとななしさんが視線だけこちらによこして苦く笑った。 「うん。こんな事は初めてなんだけど……この町に来てから引っ張られるような感じがあって、ちょっとしんどくて」 「──やっぱり、いるんやないかな。 ななしさんの首に“跡”つけた妖怪が」 「妖怪?!襲われて怪我をしたんですか?」 慌ててななしさんに詰め寄った奴良君に驚きつつも落ち着くように宥める前に、あの化け猫が猫パンチをかまし粛正が決まった。 「あ!もうタマさん駄目だって! あと私が怪我したんじゃなくて、あー…これは」 言葉が見つからなくて唸ったななしさんに助け舟を出すように言葉を続ける。 「奴良君だから言うけど……」 あの清継君だったら言わないと、暗に言えば裏に気付いたのか奴良君は頬を引き攣らせながら笑った。 「ななしさんは、先祖が妖怪に襲われた時に出来た“霊障”──痣みたいなのが残ってるの」 「そりゃもうくっきりとー。 締め上げられたみたいなのがね」 目を見開いて驚く二人から視線を外してななしさんに移す。 「私がこの町にいるんです、相手を見つけて倒せば消えるかも」 そう言えば嬉しそうにしかしどこか淋しそうにななしさんは笑った。 ──昔からどこかななしさんは、この傷を消したくないようなそぶりがあったが、私はいつも気付かないふりをしようと必死だった。 理由はいつもわからないまま。