あそこまで強い力をもつ刀は、私は今までに二度しか見た事がない。 それは──たった今と、総大将が持つ《妖刀》を初めて見た時だった。 あれは誰の作った物だったかと頭を悩ませながらも、もう一つ私の頭を悩ませるものがあった。 目の前にいる陰陽師の知り合いの女の首の痣と、化け猫である。 鍛冶師と首の痣、化け猫という単語を頭の中でぐるぐると回しながら悩んでいると、うぅと小さく唸る声が聞こえて顔をあげる。 「ちょっと気持ち悪い……ゆらちゃん、お手洗い貸して」 「え!大丈夫? 手貸すから、ほら……」 立ち上がった女を支えながら陰陽師は、若と私を振り返り「勝手にくつろいでて」と言って部屋の奥に消えた。 部屋に残ったのは、若と私とあの化け猫。 化け猫は弱い部類の妖怪であり、私一人でも若を守れるだろうと高をくくっていると突然上がった妖気に息を飲む。 ──齢を重ねているらしいこの化け猫は、以前あった化け猫組の幹部クラスより上格だ。 「あんたぁ……奴良組の若様だねぇ」 艶やかな女の声が化け猫から零れ、猫は尻尾を低く揺らしながら目を細めて若を見る。 「君は一体何者なの? あの人に害を与えているようには見えないけど」 「はっ!妾を馬鹿にしてんのかい? 害なんて与えないよ、妾は可愛いあの子を守っているのさ」 「妖怪が人間を護るなんて、おかしいわ!」 猫がくつくつと喉を震わせて笑った。 「人間だからじゃない、あの子だからさ。 あの子には恩がある、一方的なものだけどね──だから返さなきゃ」 「なら、貴女はななしさんの首の痣を付けた犯人を知ってるんだね?!」 そう尋ねた若の言葉を化け猫は忌ま忌ましそうに顔を歪めて肯定した。 「あの陰陽娘が倒すと言ってるがどだい無理な話だね。相手が悪い。 だから、私は寧ろ会わせないようにしてるのさ。そのほうがあの子の為だもの」 「相手が悪い……? 相当強いって事なんだよね?」 「わ、若っ!」 ベットににじり寄り化け猫と距離を詰めた若に化け猫が目を細める。 「誰なの?ボクの組の者なの?」 「──坊や、妾からの忠告だよ」 ざわざわと毛を逆立てながら化け猫は唸りとも笑いともつかず喉を震わせた。 「奴良組一派は、あの子には関わるな。 これが破られた時には、私は容赦しないよぉ」 「っ!」 ゆらりと白い尾が二股に割れる。 「タマさーん、鞄の中のピルケースをとってー……」 奥から聞こえた声にころりと態度を変え、甘い声で鳴いた化け猫は、女の鞄に頭を突っ込むと小さな小箱をくわえてから、若の直ぐ側を擦り抜けて奥へと消えていった。 「雪女……相手、誰だと思う?」 「わ、若!無茶しちゃ駄目ですよ! あんな陰陽師の仲間助けたってなんにもならないじゃないですか!」 深く悩み込み若を揺さぶって引き戻そうとするがあまり効いていないようで、悔しさに下唇を噛む。 あの化け猫もあの女もあの陰陽師も大っ嫌いだ!と心中叫びながら若を涙声で呼び揺らすも、全くもって相手にされなかった。