屋敷に帰れば玄関先に見知った姿を見つけた。 「やぁ」と手を振れば、片一方はそっぽを向き、もう一方は振り返してくれた。 「あ、お帰りなさい若」 「ただいま、首無 馬頭丸、牛頭丸がいるって事は──牛鬼さんが来てるの?」 「えぇ、奥で総大将達と話をしておりますよ」 「そう。二人がいるなら、ちょうどよかった」 「はい?」 小さく呟いた内容は聞こえていなかったらしく首を傾げた首無の横を擦り抜ける。 「もーっ、若!なんでそこまでするんですかっ?」 「雪女どうしたんです、一体何が?」 リクオを後ろを追い掛けて怒鳴る雪女に呆れつつ首無が声をかけているが、頭に血が上っている雪女の耳には届いていないようだ。 「だって、あの人は何もしてないのに──ああやって首を隠してなきゃないなんておかしいだろ! しかも妖怪のせいでだ!」 「若、あの女は陰陽師の仲間ですよ! 祟られたっておかしくはありません」 なんだなんだ、喧嘩か?喧嘩?と、野次馬根性で集まってくるギャラリーにボクは苛々と頭を掻いた。 「第一!あの人の刀は妖怪を傷つけてはいないだろ?」 「そんなの先祖を辿ればわからないじゃないですか!」 「じゃあ、あの人の前世の罪だとでも言うの?! それと、花開院さんがその相手を滅する気なんだよ!どうすんのさ!」 「なんの騒ぎじゃい、騒々しい!」 白熱しかけた口論にストップをかけた人物を振り返り、深い息を吐いてから「じーちゃん」と呟いた。 じーちゃんの後ろから牛鬼さんも現れて、雪女もばつが悪そうに口をつぐんだ。 「ねぇ…じーちゃん、牛鬼さん。 数代先まで残るような痣を人間に付けた妖怪を知らない?」 「あぁん?そんなの数多といて、ワシが全て把握しきれるかい」 「──じゃあ、そうだな………」 考え込むように腕を組むと、じーちゃんが不思議そうに目を細めた。 「前世……前世と同じなら」 「……一体何だというんだ、リクオ」 「!なら、じーちゃん! 鍛冶師の──腕のいい鍛冶師を祟った妖怪は?!」 そう尋ねた瞬間、辺りが静まりかえったのがわかった。 「──……え、何?」 珍しくじーちゃんと牛鬼さんまで表情を固くしたので、幾分気まずさというかを感じて思わず口を閉じた。 「リクオよ、お前一体何処で──いや。誰に、それを聞いたんじゃ?」 一瞬、あの化け猫の姿がちらついたがやはりあの人の首のほうが心配だった。 付き合いが長いわけでも、仲が良くなったわけでもないけれど、あんなに美しい刀を鍛える人が苦しんで欲しくはなかった。 そう思わせるほどに先程の《護り刀》には魅力があった。 「今日……陰陽師の花開院さんのところに鍛冶師が来たんだ。 その人は、首に締め上げられたような痣があって、この町に入ってからいやに引っ張られる感じがするって言ってたから……花開院さんが、その相手を滅する気みたいで」 「──無名殿ではありませんか?!」 「そうじゃ、そうじゃ!」 「腕のいい鍛冶師といえば無名殿じゃ!」 「無名殿……? それ苗字?下の名前しかそう言えば聞いてないや……」 なんだか盛り上がり始めた妖怪達に圧倒されつつそう呟けば、「若」と低く呼ばれた。 「その者の名は?」 長い前髪の向こうから、強い感情に濁った瞳がこちらを見つめていた。 「ななしさん、だよ」 「──」 「……間違えようないな、牛鬼」 「じーちゃん?どう言うこと……?」 黙り込んでしまった牛鬼から視線を外してじーちゃんがこちらを向いた。 「その痣は確実に、この牛鬼がつけたもんだ」 「え…えぇー?!!」 驚きに目を見開いて見上げた牛鬼さんは、初めて見るほどに動揺して見えた。