「さて……」 見回したゆらちゃんの部屋には、自分とタマさんしかおらず。 私は幾分軽くなった体を起こして立ち上がった。 「せっかく山を降りたんだし……観光でもしてみる? ねぇ、タマさん」 厳しいお目付け役もいなくなったしねと、付け加えて言えば、タマさんはフニャーと呆れたような声をあげた。 だって、首の違和感は何故だか朝方になったら弱くなったんだよ。 まるでその引き寄せようとするものが、ここから遠いところに離れていったような感じで。 なら、それがこの町にはもういないって事になるから、ゆらちゃんが心配するような事はないという結論を自分の中で出して、外出の準備を整えればタマさんは呆れたように尻尾を一降りしてショルダーバックの中に滑り込んだ。 不本意な外出のため自分の足で歩く気はないらしいタマさんに苦く笑いつつ、タマさんごとバックを肩にかける。 「タマさん、近頃少し肥えたよね……」 ずっしりと肩にかかる重みに呟けば、尻尾でたしたし叩かれた。 ごめんなさい、もう言わないからちらつく爪は隠して下さい。 ゆらちゃんから一応渡されていた部屋の合鍵片手に部屋をでようとしかけて、あ、伝言メモでもとバックのポケットから人型に切られた紙を取り出し、ふって息をかけるとそれはふわりとテーブルの上に落ちた。 「じゃあ、よろしくね」 しばらくするとむくりと起き上がったそれは、テーブルの上に正座するような形で折れ、いってらっしゃいと言わんばかりに手を振った。 しばらく使っていなかったが、簡単な式神くらいはまだまだ使えるようだと、小さく笑って部屋を後にする。 「やっぱり、式神は便利だけど……携帯買ったほうがいいのかなぁ」 ゆらちゃんのように戦うとか封じるような式神は使えないが、手紙を飛ばしたりや言葉を残したりするぐらいの初歩的な式神は使えるので今まで困った事はないが、現代の機器というものにはちょっと興味があるし使ってみたい。 「でも、師匠の山……絶対圏外だよねぇ」 緑に覆われた深い山を思い出して、というかあそこ電気も通ってなかったと思い出す。 不便がなかったから忘れてたと、小さく溜め息を吐いて、やっぱり携帯は無理かと小さく呟くと当たり前よと言わんばかりにタマさんがニャーと鳴いた。あぁ…でも携帯持ってみたいなぁ。 「あの、ななしさん──…」 「えー…っと奴良君?」 ぶつぶつぼやきながらアパートな階段を降りていれば、下の方から名を呼ばれた。 そちらに目を向けると昨日助けてくれたゆらちゃんのお友達が立っていた。 途端、威嚇を始めるタマさんを押さえ付ける。 ──なんでタマさんはここまで奴良君を嫌うのかがさっぱりわからない。 奴良君…家で犬でも飼ってるのかな? 「どうしたの……?今日、学校じゃなかった?」 「あの、一緒に、来て欲しいところがあるんです……」 真剣というか少し危機迫る顔に、さぼり?とからかおうとした言葉を思わず飲み込んだ。 「無理、ですか?」 「いや……いいよ。大丈夫」 そう答え階段を降りきり奴良君の隣に立つ。 「首の……なんというか、酷いですか?」 「いいや、なんか朝方になったら随分良くなったよ」 「………やっぱり」 「?」 やっぱりと呟く奴良君にさっぱり理解できず首を傾げれば、とにかく来て下さいと手を引かれた。 自分の手を握る手は小さく、やっぱり子供だなぁとどこかぼんやりと考える──いや、なんかこれいつだかも、同じ事を思ったような。いつだったっけ……? 「ところで、奴良君何処に行くの?」 「ボクのうちです……合わせたい人がいるんです」 「合わせたい人?」 嫌に唸るタマさんを不思議に思いつつ、奴良が立ち止まった振り返った。 「ボクのじーちゃんです」 「──……」 ま、とりあえずは。 なんで奴良のじーちゃんにあうべきなのか、聞いたほうがいいのだろうか。