初日は陸奥守の手入れと結界の張り直しでほぼ終わり。 夕飯は炊いたご飯を握って塩をまぶしただけのいわゆる塩むすびと即席のみそ汁で済ました。 いろいろあって作る気力も体力もなく質素なものとなってしまったが「文句は聞かん」スタイルでどーんと出すと、初めて口にする食物に興味津々な陸奥守は、はむりと大口でかぶりついた後でぱっと花を散らせた。いや比喩ではなく。 「うまい!」と繰り返しがつがつと塩むすびを食べる陸奥守に驚いたが、よくよく考えれば彼らの時代、今のような銀シャリなど食べる事はなかっただろう。 嬉しそうな陸奥守に質素ではあるが、はじめて体にいれる食事はある意味でこれで正解だったのかもしれないと、思いつつ自分の握り飯にかぶりつく。 それから新入りがはじめて食べる物は、審神者が握った塩むすびという本丸ルールが出来たは、後の話である。 翌日、ノルマにもある鍛刀を行う事となった。 鍛刀は鍛冶場にて刀匠の式がおこない、それに〈神〉を降ろすのが審神者の役目である。 「よろしく」 こくりと頷いたのは刀匠の装いをした小人のような式達。 彼らに依頼札という式へ鍛刀を命じるお札を刀の資材と一緒に渡し、鍛冶場の神へと祝詞を捧げる。 ちなみに元来、鍛冶場の神は女人を嫌う。 なので女が審神者になるには霊力等の適正以外に、“処女”かどうかも問題になってくるそうだ。 とはいえ、非処女な場合でも審査に弾かれるわけではなく。 その場合は、本丸に入る前に身を清める儀式をおこなったり、日々食事やらなんやらに気を使わねばならないらしいので、どっちが得とは言わずもがな。 刀匠の式と話をしていたこんのすけが振り返りこちらを見上げた。 「刀が仕上がるまで20分ほどかかるそうです。おそらく短刀かと」 「まぁ、資材もそんなに使ってないしね」 「新入りは、どがな奴じゃろうな」 わくわくとした様子の陸奥守に、そうだねと自身の期待を隠さず言う。 「待ち時間もありますし、先に日課の刀装を作りませんか?」 「うん、そうだね。ここは本職に任せようか」 こんのすけの言葉に頷き、式達にひと声かけてから陸奥守をともない鍛冶場を後にする。 日課というのは、簡単に言えばルーキーが経験を積む為にこなす小テストみたいなものだ。 刀などの戦力補強のためもあるが、就任してからきちんと本丸を経営出来るかという判断を本部がするためだという。 もちろん、きちんと完遂すれば報酬もでるので、資材や資金が乏しいルーキーには経験もつめて報酬もでるありがたい制度である。 中堅になってくれば戦場で資材や資金を拾ってくることが出来、また鍛刀も種類が揃えばやる必要もなくなってくるため、「ほんとルーキーだけよね、ちゃんと日課こなすの」とカラカラと笑って言っていたのは特別講師として来ていた養成所卒業生の談だ。 「どうじゃ、ワシの斬新な作品は?」 出来立ての刀装を手にドヤ顔を見せた陸奥守に拍手で返す。しょっぱなから金色を出すとは流石うちの初期刀である。 よっ!初期刀とおだてると照れ隠しに小突かれて体がぐらりと揺れた。 人の体に馴染み出した彼は、徐々に刀剣男子らしさというか人よりも丈夫で力強い事がわかってきた。 「普通の人は箸を折らんのか…?」としょんもりとまっ二つになった自分の箸を見下ろして呟いた陸奥守に、ステンレスの箸とか必要かな?と思ったのは今日の朝ご飯の最中のこと。 日課の刀装3個を作り終え、歩兵2つ、騎馬兵1つという結果。初回にしてはまずまずだと思う。出来た二つは陸奥守に持たせてみた。 本人はわくわくすると言いつつ、「大砲とか、装備できんかのぉ」とこっそりこんのすけに聞いて「ない」と断言されてがっかりしていた。 とはいえ、大砲があれば戦況が一気に返られるだろうなと思う。どうにか出来ないか調べてみようと頭の隅で考えつつ、残りの一個は新入りに持たせるべく丁寧に布に包んで懐へとしまった。 そうしているうちに時間になったので陸奥守と共に鍛冶場に戻ると、すでに完成していた一振りに出迎えられた。 刀掛けに置かれた短刀の前に座し、そのななめ後ろに陸奥守が座った。 そうして神降ろしの祝詞を唱え出す。 最後に「恐み恐みも申す」と言葉を締め頭を深く下げた。 するとぱっとはじけるように頭上から淡い色のサクラの花びらが降ってくる。 「僕は小夜左文字。あなたは……誰かに復讐を望むのか……?」 ゆっくりと顔を上げ、目の前の神様に微笑みかけた。 「ようこそ、小夜左文字。復讐はいらないが、敵に最強の武力で挑みたい。 力をお貸し頂けるだろうか」 コクリと少年は一つ頷いてくれた。 その日、小夜を迎えてのはじめての昼食は陸奥守の要望もあって塩むすびとなった。 今回はちゃんとみそ汁も作っておかずに卵焼きをつけた。 ぱっと、顕現時のように花をちらして喜ぶ二人を横目にみそ汁をすする。 出だしは好調、さてはてこれからどうなることか。