いつの間にか、審神者になってから一年が経過していた。 人数も大分増え本丸もだいぶにぎやかになったが、その面子は相変わらず打刀以上の刀身を持つ者はいない。 きゃっきゃと庭で鬼ごとをする短刀達の声を聞きながら、溜め息を誤摩化すように熱いお茶に息を吹きかけた。 現在打刀12本中8本が揃い、脇差と短刀はすでに政府から支給されている刀帳を網羅している。 つい最近大倶利伽藍の回収が済み、初の太刀に沸いたもののそのすぐ後に政府から刀剣の登録ミスが発覚し、初太刀のお迎えは先延ばしとなった。 まぁ、縁がなかったということで、と土下座の勢いで頭を下げる担当にはそう言うしかない。 戦績は変わらず、一定のラインを守っている。 高過ぎず低すぎず、政府に小言を言われずむしろ社交辞令でも褒めてもらえる程度に戦績を上げ続ける。 おかげさまで戦勝数の上位に食い込む実力者として名を覚えてもらえるようになってきた。 とはいえ、政府の評価のためだけに刀剣に無理はさせるつもりは毛頭ない。 なので常時、指揮官としての脳を回し方々から情報を得て糧とする。広げた戦術書に指をそわせながらお茶を啜った。 今は先日の演習で得た結果と反省点をまとめ次回の作戦を練っている。演習は政府の査定が入ってくるので、ある程度は勝ちを上げなければいけない。 10戦中5勝以上あげるという最低ラインは越えているが油断も出来まい。 あのかわいい演練の悪魔が出てくると、流石に短剣ばかりでは分が悪い。 「あるじ様〜!」 外から呼び声に振り返ると先程まで鬼ごとをしていた今剣が、縁側から身を乗り出して部屋を覗き込んでいた。 「ん〜どうした〜?」 「政府からつかいがきていますよ。担当としらない者が、ひとり」 玄関で歌仙が対応しています、と言う今剣の言葉に小首を傾げる。 つい先日、担当は報告書を取りにここに来たばかりだ。こんな短いスパンで忙しい彼が来るのは珍しい。 「わかった。歌仙には大広間にお通しするように伝えて。 それから誰か、吉行か小夜を呼んで来て欲しいんだけど」 「わかりました! それではボクが歌仙にこえをかけてから、陸奥守をさがしてきますね!」 「ありがとう、今剣。吉行なら今日は内番で畑の方にいると思うから」 はーい!と元気な返事を残して今剣の姿はその身軽さを生かし、ぴゅーんよ風のようにあっという間に遠くに消えた。 机の上に広げていた戦術書を閉じて立ち上がる。さてはて、何の御用だろうか。 結論から申しまして、と挨拶を済ませた政府役人は早々に口火を切った。 「先日の演練での騒動は、相手側の誓約を無視した違法運営が発覚いたしましたので。 政府へと届けられた貴方様の“違法運営”の密告は、冤罪と判断され取り下げられられました」 「はぁ、そうですか」 「この度は大変ご迷惑をおかけしました」 今回担当に伴われて本丸に来た政府直属の違法本丸摘発役人はそう淡々と今回の一件の報告し、深々と頭を下げた。 “違法運営”──審神者界隈では比喩混じりに「ブラック本丸」と呼ばれるそれは、どうしても閉塞がちになってしまう本丸に置いて、ごく稀に存在した。 兵役である審神者業は、政府からの戦闘ノルマがどうしても課されている。 その際、度重なる血と死との毎日に精神のバランスを崩したり、または栄光と名声を求め強引な進軍を続ける者へとなり、それは身近な刀剣男士へと向かってしまう。 元が無機物であることもあり、契約により逆らうことができない相手への攻撃は、理性の枷が外れたように非道で悍ましい。養成所時代に見せられた摘発の映像は、今でもトラウマものだった。 そのためか、“違法運営”の通報は担当よりも同じ立場である審神者からのものが多いそうだ。閑話休題。 そして、そのあらぬ疑いがこの本丸にかけられたのはつい先日の話だ。 そのきっかけは今思い出しても、心的な疲労感を覚える出来事だった。 「例の彼女、名誉毀損で訴えられるけどどうします?」 と、ニコニコと煽ってくる担当を首を横に振って制した。 えー、と不服そうな声を上げる担当の横で、摘発役人の頭が畳にめり込みそうな勢いで下がっている。 んん?彼らは仲がよろしくないのかな?? (あー…というか、担当している審神者が疑われちゃ。 自分の仕事に横からいちゃもんつけられたようなだしなぁ) そう心中でぼやいて、隣に控える陸奥守に視線を流した。 彼も微妙な表情で苦笑している。そりゃそうなるよね、と小さくため息を吐いた。 事の起こりは、先日の演練まで遡る。