「あれを」 後ろに向かって差し出されたその手に、マリーは小さく頷くと、近くにあった材料の瓶詰めを乗せる。 スネイプはそれの間違いを確認する事もなく開け、教壇に立ち授業を続けている。 生徒達は正直、唖然とその様子を凝視している。 視線の先にいるのは魔法薬学教授のスネイプと、その助手を新学期から勤めるマリーだ。 そう、新学期からだ。長年の付き合いではない、つい二週間ほど前からの話である。 確かに、今日やる授業の内容は教授と助手の間で、確認はなされているのかもしれない。 しかしだ「あれ」だけでの意思疏通を、就いたばかりの助手と出来るのだろうか──否、無理だろう。 ぽかんと、口を半開きにする生徒達を見咎め、スネイプが説明する口を閉ざし睨み付ける。 慌てて一斉に口を閉じた生徒達に、脇に控えていたマリーは小さく喉を鳴らして笑った。 マリーはスネイプの睨みがこちらにも向くと肩を竦め、降参と言うように両掌をスネイプに見せた。 それに対して、スネイプは嫌味を言うでもなく小さく溜め息をつくと、減点も言い渡さずに説明を再開する。 説明を進めるスネイプが立つ教壇には、マリーが指示される前にタイミングよく必要な資料を並べていく。 そのタイミングはスネイプも納得のいくものらしく、ちらりと視線をマリーに向けてうむと頷いて見せたりもする。 生徒達の口は再び半開きになる。 言葉どころかアイコンタクトで意思疏通をする二人は、マリーの“気配り上手”という理由では説明がつかない。 こう、説明出来ない二人の距離感に生徒達は非常に動揺していた──スネイプの説明が左から右へ流れていくくらいには。 かくして、見事に説明を聞き流した生徒達のほとんどが調合を失敗し鍋を溶かした事に、地下牢にねちっこい嫌味が響くのはその数分後。 眉間のシワを三割増しにした元学友を困り顔で見つめながら、優等生のハーマイオニーまでミスするとは、今日はどうしたのだろうとマリーは首を傾げた。 END