純血主義の生徒が口にした、リリーへの侮蔑に塗れたその言葉に、カッと頭に血が昇ったジェームズがそいつの胸ぐらを掴むより前。 白く細い拳がその生徒の頬を打った。 がつりと、頬骨を叩いた鈍い音ともに大柄な男子生徒がよろめいて数歩後ずさった。 「マリー……!」 呆気にその間抜けな姿を見ていたジェームズは、リリーの悲鳴じみた声にその拳の主を振り返った。 お人形じみた硝子の瞳には、いつにない冷たい怒りが揺らめいて、その生徒を睨み下ろしていた。 「貴様のような、腐った血こそが穢れた血だろう」 吐き捨てられた言葉に、顔を怒りに赤く染めた男子生徒が立ち上がる前に、マリーはその鼻先に杖を突き付けた。 「貴様らに彼女の素晴らしさを語ろうが、脳無しには理解出来ないのだろうな」 細められた碧色に、男子生徒の肩が震えた。 「失せろ──次はないと思え」 蜘蛛の子蹴散らすように逃げ出したスリザリン生を見送って、マリーはゆるりとリリーを振り返った。 「たわいもないとは思わないか、リリー?」 「もう! 無茶しないで、マリー!」 無表情の瞳にはもう感情はなく、ただ愉快そうに口の端が持ちあげられていた。 「だってそうじゃないか」 くるりと指先で回した杖を、リリーとジェームズは怪訝そうにみやる。 「杖を使った魔法は苦手だよ」 ふふふ、と震わせた声は確かに彼女の笑い声だった。 「マヌケめ」 吐き捨てた侮蔑の言葉、ちらついた影はリリーを見ると優しく細められた。 「君の素晴らしさを知らないのだから」 「リリーの素晴らしさを理解してしまえば、惚れる男が増えるからね。 僕はそれに関しては悩むなぁ……」 「ジェームズまで何をいってるの!」 馬鹿、と軽くジェームズの背中を叩くリリーも、小さく吹き出した。 「でも、ほんとうにマヌケ顔だったわ、あの人」 「まったくね」 「さらにアホ面にする悪戯を思い付いたよ!」 「よしなさい、ジェームズ!」 ふふふ、と彼女の声が愉快そうに弾む。 「それからマリー──ありがとう」 細められた碧眼が、光を反射してまるでエメラルドのように輝いて見えた。 「リリー、君のためならば」 騎士のような恭しさで膝を折ったマリーに、リリーは一瞬見惚れた後。 もうからかわないでと頬を染めた。 「まったく、僕からこれ以上リリーをとらないでほしいね」 麗しい少女たちの友情に、除け者になったジェームズはやれやれと肩を落とした。 end (キレると怖い未来の助手)