この、生殺しの状態をどうにかしてくれ。 スネイプは切実にそう願った。 ん、と胸元で微かに息を漏らした彼女と、距離をとるためのスペースもないのだ。 掴むところもない場所で、腰辺りのローブを掴んだ細い手の熱をやけに感じとってしまう。 狭い、と唇だけで呟いたマリーの吐息が顎先を擽るせいで、ざわつく背筋が悲鳴を上げる。 嗚呼、もういっそのこと殺してくれ。 今なら最上の死を迎えることができるはずだ──。 「もう、セブルス詰めてよ、狭いわ」 オマケまでついたこの狭い密室にいなければ、だが。 「だいたい──お前がこんなところに隠れるなんて、馬鹿なことを考えるから」 後ろから押してくるこの状態の元凶から、マリーを潰さないように庇いながら、スネイプは場所を考えつつ小言を挟む。 「何、貴方だって入ってしまったからには共犯よ?」 「共犯って、お前──……」 「仕方がないじゃない、帰ってきちゃったんだから」 扉の隙間から差し込む光が、唇を尖らせたリリーを写し出す。 この狭い空間の外からは、まだ声変わりには早い少年達の声がある。 セブルスが悪戯仕掛人に奪われた本を、取り替えそうと言い出したのはリリーだった。 馬鹿な事を言うなと呆れるスネイプと、ただその場に居合わせたマリーはあれよあれよと言う間に巻き込まれ、いつの間にか男子寮の彼らの部屋、クローゼットに身を隠す現状になっている。 強引な幼馴染みに深い溜め息を吐けば、傍にあった頭がこそばゆそうに身をよじった。 寄りかかる体制が変わっただけで、触れる体の軟らかさを無駄に感じてしまって、スネイプはただただ今この薄暗闇に感謝した。 出なければ、彼女の目を間近に見ることにもなる。 それはどうにも堪えきれない。 「ぐっ」 「どうしよう!こっちにくるわ」 クローゼットに誰かが近付いているらしい、慌てたリリーが後ろに下がるものだから、もちろん奥にいるマリーとスネイプは更に息苦しくなった。 胸元に押し付けられた#マリ#ーが、ぐぅと苦しげに呻いた。 狭い空間に緊張が走る。 強ばる体が3つ、息を殺して迫る気配を待つ。 腕に抱く形となったマリーが、短く息を吸った。 「も、無理」 耳元で囁かれた声が、耳元の産毛をざわめかせた。 バンと、音をてて開かれたクローゼットの扉。 身構えた視界の先には、誰もいない──というか、先程の部屋ではない。 「──あら? マリーの、部屋ね……」 ふはっと、腕の中で息継ぎをした。 いつの間にか場所を変えたクローゼットの出口から、リリーが這い出した。 「グリフィンドール寮内なら……いけると思って」 「使ったの?」 うん、と頷く様を腕の中で感じながら、スネイプは脱力した。 「使えるなら、早く使え」 「あんな状態じゃ、まともな声も出せないよ」 腕の中からすり抜けたマリーが乱れた服を直す。 ふと思考が他所のものと直結した瞬間、ひどく恥ずかしくなった。 「?どうしたの」 「っ、何でもない」 急に赤面したスネイプに、リリーとマリーが顔を見合わせる。 きつく抱き寄せた腕の中、掠れがちの声でささやかれた『も、無理』の声が一体、どんな映像を産み出したかは、ご想像にお任せしておく。 思春期の男子の想像力というものは、なかなか逞しいのである。 end (リクエスト作:スネイプ君が前屈み)