「セブルスって」 唐突にそう口火を切ったのは、自分の幼馴染みだ。 放課後に、本を広げているとわざわざ隣までやって来たリリーを、そのまま相手にしなかったせいか暇になってきたのだろう。 「魔法薬とマリーの事となると、人が変わるわね。 好きだからって、わかりやすすぎるわ」 さらりとそう宣った幼馴染みの言葉に、スネイプの手から本が落ちた。 「ちょっと、マリーが起きちゃうじゃない」 静かにしてよね、と母親のようにたしなめてくるリリーの膝には、眠るマリーの頭が乗っている。 相手が違うのではないか──と、余所へ遊びに行っている思考を連れ戻しながら、落ちた本を拾い上げ、幾分緩慢な動きで汚れを払う。 「わけのわからない事を、言うからだろう」 どうしても声を潜めてしまいつつ、横目で涼しげな少女を睨み付ける。 断じて、マリーに膝枕している事が羨ましいとかではない。断じて。 「あら、本当の事を言ったまでよ、私は」 「……馬鹿げた事の間違いだろ」 細められたリリーのグリーンは、彼女と同じようで全然違う。 「昔はもう少し表情豊かだったのに……いつからそんな厳しい顔になったのかしら 貴方のその仏頂面を変えられるのは、今じゃ怪しげな薬品とマリーだけでしょ?」 ニヤニヤと怪しいったらありゃしないと、笑うリリーに眉間にシワを寄せる。 「ニヤニヤなんかしてない」 「似たようなものよ、あんなに表情筋が緩んでいたら」 「……」 思わず口許を覆うフリをしながら、緩んでいるらしい頬に触れるが自分ではよくわからない。 「無意識な方が、よっぽどタチが悪いわね」 ねぇ、と囁きながら微かな寝息をたてるマリーの柔らかな髪をリリーは撫ぜた。 「ま、反面、いい兆候だと思うのよ」 「…………」 「貴方が笑うと、マリーも笑うから」 その事が嬉しくてたまらないと言うように笑うリリーは美しい。 それを一番見たいのはポッターだろうが。 残念ながら、リリーから毛嫌いされているポッターがこの笑顔を真っ向から見ることは今のところないだろう。 それが、八つ当たり半分でスネイプが迷惑を被るわけだから最悪だ。 「リリー!!」 遠くから聞こえた大きな声に、スネイプは額に手を当てた。 完全なる八つ当たりを寄越してくるだとうポッターに嫌味の一つも言いたいところだが、今回のタイミングは悪すぎて同情さえする。 うー、と微かに唸ったマリーを見つめていたリリーの瞳が鋭くポッターを睨み付けた。 「ジェームズ、静かにして。マリーが起きちゃうわ」 「それよりねぇ、リリー」 相手が相手なら頬を染めそうな爽やかな笑顔を浮かべたポッターは、リリーの後ろにあるサタン降臨が見えないらしい。 白く形きれいな額に青筋が浮いた。 スネイプはそっと立ち上がるとリリーの後ろを回って、未だ微睡むマリーを避難させた。 リリーは気付いていなかったが、それを見送ったポッターはようやく自分の危機を理解した。 情けない悲鳴を背に、スネイプは再び本を開く。 先程と違うのは、その膝にマリーの頭が乗せられていること。 本を持つ手と逆の手で髪をすいてやると、猫のようにすりよってくるマリーの仕草に、誰も見ていないところでスネイプの表情が柔らかく緩んだ。 END (ジェリリ未満。中学年頃のこと)