西日が落ち、空が赤く染まる頃。 図書館の窓辺に寄り掛かり小さく寝息をたてる彼女に気付く。 名前を呼んでも反応はなく、伏せられた瞼が震える事もない。 そして、容易く触れられるこの距離に気付いてしまい、ごくりと無意識に喉を鳴らした。 誰に言うでもない自分への言い訳は、この手を伸ばせる程度には充分な数が用意出来た。 起こす為、顔にかかる髪を払う為──伸ばされた指先が微かに震えるのが情けない。 夕日に赤い輪郭を帯びる白い頬に指先が触れ、乱れた自分の心音に悪態をつく。 人差し指から薬指まで、頬をなぞる指先は増えていき、指の腹から掌で包むように彼女の頬に触れた。 じんわりと伝わってくる彼女の熱を辿るように、こめかみに触れていた指先を柔らかな髪に差し込む。 ん、と漏れた彼女の吐息に体を震わせる。 硬直したまま彼女の動きを凝視したが、結局彼女は瞼を震わせただけで目覚めはしなかった──そういえば、ここ何日か読書で徹夜続きだったとぼやく彼女の言葉を思い出して、深い安堵の息を吐く。 知ってしまった柔らかさに、今更この手を退く事は出来なかった。 差し込まれた指先はそのまま頭皮を擽り、さらりとした自分とは違う青みを帯びた黒髪をすく。 離れた手は再び彼女の俯きがちの顔に添えて、少しだけ持ち上げる──こちらを見上げるように傾いた彼女の顔をじっと見つめた。 そのまま反対の手で、儀式のように微かに乱れた髪をゆっくりと手櫛で梳いていく。 指の間を擽る、芯のしなやかな髪の感触に、擽られたのは胸のもっと深い部分。 撫ぜられる感覚にか、ほぅ、と安堵の息を漏らした彼女の唇に視線が吸い寄せられた。 そのまま、頬に添えた手を支えに自分の顔を少し傾け、重ね合わせるように──。 「マリー?」 不意に、離れた場所から聞こえた声がスネイプを現実に引き戻した。 どこにいるの、と続く聞き覚えのありすぎる声に、慌てて体を離す。 「マリー。 あら、セブルスと一緒だったのね」 「あ、あぁ……」 ドキドキと胸を乱すのは、先程までの甘いものではなく、怖い彼女の“保護者”に今の行為を見られていないか、という事への緊張と恐怖である。 彼女のぬくもりが名残惜しい指先で、胸をおさえながら深呼吸を一つ。 「ちょうど良かった。僕はもう寮に戻る。 あとは、そいつを起こすなりなんなり好きにしろ」 「もー、勝手ね。私は別にいいけど」 苦笑ながらも華やかに笑うリリーを一瞥して、スネイプは踵を返した。 「顔、少し赤いわよ? 風邪かしら、しっかり休んでね」 何も知らないリリーの優しい言葉に、スネイプの足は早くなった。 図星かしら、と少し違う図星を指したと知らずに、首を傾げたリリーのそばでマリーがもぞりと動いた。 「おはよう、マリー」 「んー……」 「セブルスなら先に戻ってしまったわよ。 私達ももう寮に戻りましょう」 うん、とほわほわと幼さ染みた反応をするマリーはまだ夢の中に片足を突っ込んでいるのだろう。 細められた碧眼がやわらかい事に、リリーは笑みを深めた。 「どうしたの、いい夢でも見れた?」 「──ん、よく覚えていないけど」 リリーの言葉に少し考えるようなそぶりをしたあと、マリーははにかむように笑った。 「幸せ、だったんだ」 その幸せにとろけた笑みを見ながら、リリーは先にせかせかと帰ってしまった同期生にもったいないなと思ったが、逆にその表情を独占出来た事に上機嫌になりながら、マリーの手をとった。 立ち上がりながらも、「ふぁ」とマリーは欠伸をもらす。 まだ寝惚けた可愛い子を、誰かに盗られる前に早く寮につれていかなくては。 リリーの保護者魂に火がついた。 END