「あら、まだ手を出してなかったの?」 男のくせに?と、相変わらず威力抜群の右フックを思春期のガラス・ハートにぶちこんでくる幼馴染みに、スネイプは飲んでいたバタービールが変な所に入ったのがわかった。 呼吸困難に近い気管侵入にむせんだが、鼻からバタービールという失態はなんとか免れた。 「ちょっと、大丈夫?」 差し出された紙ナプキンを受けとり口元を押さえながら、スネイプは赤毛の魔女を睨み付ける。 「誰のせいだ、誰の」 「あら、私のせいだと? 好きな女にキスも出来ない、自分の甲斐性のなさでしょ」 「……お前はどうしてそう明け透けと。 女としてのしおらしさを母親の腹にでも置いて来たのか?」 「貴方もね、スネイプ。男らしさを置いて来たのかしら」 ふふふ、と華やかに笑う魔女に嫌味は鮮やかに打ち返され、スネイプは痛むこめかみを押さえながら話題の人物に視線を流す。 カウンターに蜂蜜酒を注文しに行ったマリーは、何故かマダム・ロスメルタから色っぽく迫られて戻ってくる様子はない。 「マリーの人気は男女問わずだもの。 グズグスしてたら、盗られちゃうわよ」 「口煩い女め……」 悪態のように吐き捨てて、もう一度口に含んだバタービールの味は、もうよくわからない。 ヒヤリとするような後悔や、ほの暗い鍋底のタールのような嫉妬も、言われなくとも幾度と体験してきた。 それでも尚、気持ちを伝える事も触れる事も出来ないのは、遠くを見つめる碧眼が何を思い、何を写しているのかわからないからだ──甲斐性がないと言われても仕方がないのかもしれない。 「ほら、早速口説かれてるわよ」 ばっと勢いよく振り返った先には、口説かれている彼女の姿ではなく。 蜂蜜酒を手に目を見開いて硬直しているマリーが立っていた──謀られた。 テーブルに突っ伏したスネイプに、マリーはこてんと首を傾げた。 「どうしたの……?」 ケタケタと笑うリリーは、マリーを座らせながら可愛らしくウインクした。 「男も大変なのよ」 「……何それ」 わからなくていいのよと笑うリリーに、スネイプが突っ伏したまま「魔女め」と悪態をついた。 END (二人とも、仲いいな……) こうして助手は誤解していく。 (title:蝙蝠商店)