体を起こすと背中を滑ったシーツが、微かな痛みとともに引っ掛かりを感じさせ、背中に手を伸ばす。 わずかに瘡蓋が浮いた、数本の引っ掻き傷が、指先に触れた。 その正体に思い至り、枕にまた寝転びながら口許に甘い笑みを浮かべる。 寝室まで、煎れたてであろう紅茶の薫りが鼻先を擽る。 空いたベットの隣は少しばかり寂しいが、寝起きに朝食が用意されているのもいいものだなと幸せが滲む笑みを隠すように、枕に顔を埋めた。 「セブー」 きぃ、と小さく音をあげてドアが開くとともに、ひっそりとした足音がベットに近付く。 「休みだからって、ゆっくりし過ぎじゃないか?」 もう朝食が昼食になると、笑みまじりの声が頭上から降ってくる。 柔らかく肩を揺する手に、指先を絡めながらゆっくりと振り返る。 「おはよう」 細められた碧眼が優しげにこちらを見下ろしていた。 「おはよう」 こめかみを掠める柔らかなキスを受けながら、ベットに引き摺り込むようにその小さな背中に腕を回す。 「もう、起きようよ」 白いシーツで絡めとりながら、クスクスと笑いながら擽ったそうに身を捩る彼女の頬にキスを贈る。 「もう少しだけだ」 「いつもそれじゃない?」 鼻先が触れ合うほどに顔を寄せ合って微笑む。 「朝食、冷めてしまう」 「冷めても旨い」 「お世辞はそれくらいにして、ね?」 するりと抜け出たシーツの白い海の向こうから彼女が笑う。 「マリー」 「ほーら」 シーツも洗濯しなきゃと笑いながら剥ぎ取るマリーに、つれない奴だと悪態にもならない呟きを漏らして起き上がる。 「シャツをとってくれ」 素肌を擽る肌寒さに、見付からないシャツを捜しながら後ろ手に伸ばした手に、シャツが押し付けられた。 少々乱暴な動作に不思議になって振り返れば、寝室から出ていく小さな背中を見送る。 赤に染まった耳朶を黒髪の隙間から見て、ふと自分が向けていた背中に思いいたって苦笑を一つ。 「軟膏どこだっけ」 照れ隠しにか呟かれた言葉にシャツを羽織りながら喉を震わせて笑う。 「消すには勿体ない、愛しい傷だ」 馬鹿、と呟く声も愛おしい。 END (夜に何してたの、は明言しません)