ねぇ、と緩む口の端に目を奪われていた。 「セブ?」 彼女の唇から零れる柔らかな音は、己の名を形つくり、その幸福さに瞼を伏せる。 「セブルスったら」 困ったように、それでもその声は優しく笑みに合わせて震える。 鼓膜を擽る微かなその振動に耳を傾け、あぁ、と短くそれだけを返した。 「眠いの?」 「いいや……」 「そう? だってすごく眠そう」 伸ばされた白く細い手が、瞼に触れそれからこめかみをたどり頬を包み込む。 薄く開いた瞼の隙間から、こちらを覗き込む碧眼があった。 「いや、ただ」 ゆっくりと音にしてみた言葉は、彼女のものと比べて随分と掠れて聞こえた。 存外、己は眠かったのかもしれない──しかし、その眠りを連れてきたのは、この暖かな彼女という存在だ。 「セブルス」 再び閉じた瞼は己の意思とは違う力の影響を受けているかのようだった。 「ねぇ、その言葉の続きを教えてよ」 あぁ、と盛らした声はもはや寝言のようだ。 「セブ──……」 勿体無い、傍にあった彼女の声が遠退く。 せめてこの言葉だけは、音になって彼女に届く事を願うしかない。 「──……」 見開かれた碧眼を、ついに眠りに落ちた己が知ることはなかった。 END (ただ、ただ幸せを甘受する)