月曜日になって、レイナは医務室から寮に戻る事が出来た。 その間に、今度はマリーが体調を崩してしまったようで、青白い顔で「おかえり」と言うので、レイナは酷く心配になった。 そんなレイナを宥めるように背を叩いた手も力ない。 ハリーがクィディッチで箒から落ちた事は、医務室に来たハーマイオニー達から聞いていた。 むしろハリーにつきっきりだった二人とともに、レイナもハリーの隣のベットで彼を慰めようとした。 マリーがハリーの見舞いに来たのは、一回だけだった──それも夜、ハーマイオニーとロンが寝てから、自分もまた眠りかけていたが。 その時も、悪夢のせいでまた眠れなかったハリーは、マリーと何か話している様子だった。 夢の中に片足つっこんだ状態だったので、何を話していたかまでは頭に入ってはいない。 ただ一言、ハリーの「母さんの声が聞こえるんだ、マリーさん……」という言葉だけは耳に残っていた。 年下であるマリーを「さん」付けで呼んだことへの違和感からかもしれない。 ハリーは相変わらず落ち込んだままだったし、マリーもまた暗く虚ろな表情をしていた。 二人にその夜のことを、聞いてみようとは思わなかった。 ハリーもマリーも、踏み入れてはいけない何かがあるのを、レイナはわかっていた。 自分もまた秘密を抱える人間だからこそ、気付いたとも言えるのだが。 「マリー、一人では溜め込まないでね」 それだけしか言えない自分を恥ながらも、レイナは言った。 マリーは「ありがとう」と言って少し泣きそうな顔で笑った。 それが嬉しい泣きではない事も、レイナにはすぐにわかったが、それを指摘する事など出来るわけがないのだ。 レイナは、飲むべき薬を飲まず部屋を滅茶苦茶にしたことで、スネイプから罰則を受けていた。 医務室から出た後からの、一週間に渡る狼人についてのワンツーマンでの特別授業である。 ──自分の認識の甘さからマリーに怪我を負わせる可能性があったことを、深く反省しているためレイナはそれを真面目に受けようと決意していたが。 一週間の個人授業の事を話したら、ロンが「あの×××め!」とスネイプ教授の事を呼んだ。 まだそれほど英語に詳しくないため、理解出来ずにレイナが小首を傾げると、ロンの頭をハーマイオニーが分厚い本で叩いた。 本当に痛そうだった。 「あれ?ハリーは?」 「ルーピン先生が話があるからって、私達は先に帰って来たの」 「ふーん……」 ハーマイオニーも内容はよく知らないらしい、レイナは曖昧に頷きながら、特別授業の時間が迫っている事に慌てて談話室のソファーから立ち上がった。 「私、もう行かなきゃ」 「頑張ってね」 「──道は大丈夫が?」 「うん、大丈夫」 薬を貰う為に通っているせいか、もう地下牢への道順は覚えている。 その答えにマリーは少し安心したように小さく頷いた。 マリーとハーマイオニー達に見送られて、レイナは遅刻だけはしないようにと急いで地下牢へと向かった。 談話室からレイナが出ていくと、三人だけがそこ残された。 少しだけ間の悪い沈黙落ちる。 「レイナ……意外に嬉しそうだよな」 ロンが恐る恐ると言うように言った。 「だろうな、彼女はスネイプ教授に気がある」 「はぁ?!」 膝に抱えた本のページをめくりながら、マリーから何気なく答えられた言葉に、ロンは驚愕の声を上げた。 「はぁ!?あの×××に、レイナが?!」 「ロン……レイナはスラングには理解はない。覚えさせる気もないが。 あまり変な言葉を教えないように」 「いや、でも、まさか」 信じられないと顔を顰めたロンの横で、ハーマイオニーは真剣な顔でマリーを見つめていた。 「ねぇ、マリー」 「何?」 本から顔を上げずに答えたマリーを見つめるハーマイオニーの真剣さに、ロンはぶつぶつ呟いていたスネイプへの悪口を止めた。 「マリーは、それでいいの?」 「なら──『彼は私の婚約者だから諦めて』と、この姿でレイナに言えばいいのか?」 「そうじゃないでしょ、誤魔化さないでちょうだい」 未だ本から顔を上げないマリーだったが、ハーマイオニーはその目が文章を追っていない事に気付いていた。 「貴女が本心から思うのであれば、私はレイナに釘を刺してもいいわ。 『あの人は大事な人がいるから無理よ』って。 でも、貴女は──寧ろ、自ら彼から離れようとしている」 「──……」 ロンは女二人の話に気圧されて、居心地悪そうにソファーに座り直した。 マリーがようやく本から顔を上げた。 「言ってる意味がわからないよ、ハーマイオニー……」 困ったような苦笑まじりのその表情に、ロンはハーマイオニーが変な勘くぐりをしているのだとホッとしたが、ハーマイオニーは違かった。 「言いたくないならいいわ。 でも馬鹿な真似はしないで、マリー」 「ハーマイオニー……」 「お願い、私……貴女に幸せになって欲しいの」 伸ばされたハーマイオニーの手が本を持つマリーの手に重なった。 「幸せになる事を、怖がっちゃ駄目よ」 真っ直ぐなハーマイオニーの瞳に、旧友のそれが重なってマリーは自然に微笑む事が出来た。 「心配しないでくれ、ハーマイオニー。 私は、皆が幸せであれば幸せなんだ……だからその為に動いている。 それが君を心配させたのであれば、誤解だから心配しないで」 「、でも……」 ハーマイオニーは悲しげに眉を下げて、握る手に少しだけ力を入れた。 「そこに、貴女はそこにいるの……?」 核心を突くようなハーマイオニーの言葉に、マリーは笑みを苦いものに変えた。 本から手を離し、ハーマイオニーの手をしっかり握り、マリーは笑った。 「この命がある限りは、きっと………」 笑う君達を見れれば、私は幸せでいられる。 ハーマイオニーは少しだけまた眉を下げると、「なら、安心したわ」と笑った。 ギシリと軋んだ胸の痛みまでは、ハーマイオニーにはばれていないようだ。