※※あのハロウィンの夜に助手が死亡していたルートでの、二人の間に子供がいた話※※ 読み上げられたその名に、微かに息をつめる。 組分け帽子が乗せられたその小さな頭は、青みがかった輪郭を抱く黒であった。 言葉もなく、はくりと動いた唇にダンブルドアが笑った。 「ほんとうにそっくりじゃろ」 「校長、あの子は──」 母と同じくグリフィンドールに選ばれた少女はゆっくりと振り返った。 漆黒の瞳がこちらを見て、ゆるりとまたたく。 「瞳は父親譲りじゃとあの子が言っておったが。 本当にお主に似ておる、セブルス」 思わず手にしていたゴブレッドを盛大にひっくり返すことになった。 「はじめまして、お父さん」 あいつのように掴み所のない表情で、そう言った少女を見下ろす。 「いきなりで驚いていますよね……正直、私も驚いています。 母が死ぬまで、父親が生きていると知らなかったので」 聞き逃せなかった単語にはっと目を見張る。 「彼女は、死んだのか……」 「はい──入学式の一ヶ月ほど前に」 そこで僅かに表情に陰りを見せた少女は、在りし日の彼女を思い起こさせた。 酷い喪失感に背を丸める。 「死んだことも、生きていたことも……私は知らなかった」 10年前、ポッター一家が襲われたあの夜。 その場にいたという彼女の姿は、何処にもなかった。 「10年前にうけた呪いのせいで母は、校長先生の結界の中でしか生きれなかった。 随分生きれたと、死ぬ間際も母は笑っていました」 「そうか……最期に、笑っていたならそれでいい」 「……ただ、貴方に私の事を伝えらていなかったのは悔いていました。 勝手が過ぎた、とも」 らしい言葉に思わず苦笑して目を臥せる。 「私が、拒絶をすると思っていたのか」 「それは……私にはわかりません。 母ほど私は貴方を知らない」 「私も、あいつの本心はわからない。 お前と同じで、幼い頃から閉心の心得があったからな」 そうですか、薄い唇が呟く。 「でも、母の気持ちはわかります」 「──……」 「貴方を深く愛していた」 歪んだ視界を誤魔化すようにきつく瞼を閉じる。 「結局、お互い──それを口にする事はなかった」 「えぇ」 「我輩は闇に、あいつは騎士団に進み、卒業してから会うこともないまま今だ。 最後の日、一度だけ体を交わした──それだけだった」 なんの意地だったのだろう、なんの罪の意識だったのだろうか──お互い、お互いを大切な者とするには危険が多すぎた。 あれが、最後の日になることも覚悟していたくらいには。 「ずっと言いたくても、言えなかった──愛していたと──いや、今も愛しているんだ」 「──……」 少女をもう一度真っ直ぐに見た。 「そんな男だが……お前を娘と呼んでもいいだろうか」 ゆるりと自分と同じ黒い瞳が瞬いてから、はにかんだように笑った。 「嫌だったらはじめから呼んでませんよ、お父さん」 その笑顔は、彼女とそっくりだった。 君には言えなかった。 だから、この子にはしっかり伝える──大事にするから。 だから、君は見ていてくれ。 この子は、幸せにするから。 (君に、二度とは言えない言葉をかわりにあの子にたくさん伝えるよ) 2021.1.9 (初公開:2012.9.28)