「今日は特別な客もくるぞ」 とハグリッドは楽しげに小屋を訪れたハリーたちに告げた。 誰がくるの?と聞いても「来てからのお楽しみだ」とはぐらかされハリーとロンは顔を見合わせる。一体誰が来るというのだろう。 2人がハグリッドの小屋に来てから暫くして、ハリーのスボンをよだれで濡らしていたファングが顔をあげた。ハリーから離れて扉の前まで行くと、カリカリと扉をかく。 「お、来たか。開いとるぞ!」 ファングの様子に気付いたハグリッドが声をかけると外から「お邪魔するよ」という言葉と共に扉が開き、ファングが邪魔にならないように下がるとマリーが小屋に入って来た。 「マリーさん!」 驚きの声をあげたハリーを、じゃれつくファングの頭を撫ぜていたマリーが顔あげて見た。 柔らかく細められた碧眼は、授業中に見たトゲトゲしさはもうなかった。 「二人ともやっぱり先に着いていたか……。すまない、待たせたか?」 「なぁーに、そうでもねぇさ。マリー、お前さんケーキは?」 「いや、甘いのは、いい」 マリーはハグリッドから、カップだけを受け取り空いている椅子に座った。 「ハグリッドが言っていたのが、マリーさんだとは思わなかったよ」 「ん? ハグリッドから聞いてなかったのか?」 「うん、お楽しみって言って教えてくれなかったんだ」 ハリーの言葉にハグリッドは笑って「驚いただろ?」って悪戯っぽく言ってウインクした。 そんなハグリッドにマリーは相変わらずだなと言って柔らかく口元を緩めた。 「ハリーと……君は前に廊下で会った、ウィーズリー君だね?」 「! は、はい、ロナルド・ウィーズリーです」 自分に向けられた視線にぴんと姿勢を伸ばしたロンにマリーは「アーサー・ウィーズリーの何番目の息子さん?」と尋ねた。 「6番目です」 「そうか、君が末っ子かな」 「いえ、妹がいます」 そうか子沢山だなとマリーは柔らかな声で呟く。ロンは少し驚いたようにマリーを見ていたが恐る恐るという感じにマリーの名を呼んだ。 「マリーさん……その、父さんのこと……」 「あぁ、知っているよ。同じ寮の先輩だったからね、君のお母さんも同じく」 優しい素敵な先輩たちだったよ、と囁くように落とされた両親を褒める言葉にロンは恥ずかしそうに「ありがとうございます」と口にした。マリーは頬を染めたロンを見て、君はお父さんそっくりだと微笑んだ。 「ロンもハリーも、父親似だな」 そういえばとハグリッドが言うと、マリーは頷いて「目以外は」と返した。 「目以外?」 「そうだなぁ。ハリーの目はリリーの目とおんなじグリーンだ」 ハグリッドはそう言って懐かしそうに目を細める。 「リリー……僕のお母さん」 「ジェームズの目はハシバミ色だった。ハリーは彼にそっくりだってよく言われてたけど、目はリリーとそっくりで。 やっぱり二人の息子なんだと、小さい君を挟んでみんなで言っていたよ」 両親の話をどこか遠い話のように聞いていたハリーは、今の言葉をゆっくりと咀嚼してから「小さい、僕?」と驚いておうむ返しに呟いた。 マリーはハリーのそんな様子に、「あぁ」と何かに気づいたように苦く笑った。 「覚えていないとは思うが、私は赤ん坊の頃の君を抱っこしたこともあるんだよ」 「え」 「生まれたばかりの君を見に、よく友人たちと家に遊びに行っていた。 懐かしいな……君は誰よりも名付け親の彼に懐いて……」 「マリー」 不意にマリーの言葉を遮るようにハグリッドは固い声をあげた。ハグリッドは表情を強張らせ、怒っているとも取れる顔でマリーを見つめていた。 マリーは困ったような顔で「どれも、もう懐かしい昔話になってしまった」と呟いてカップを傾けた。 「学校生活はどうだい。お二人さん?」 話題を変えたマリーに、両親の話をもっと聞きたかったハリーは不満に思ったものの「勉強は大変だけど、とても楽しいよ」と答えた。 「迷子にはもうなってない?」 「……たまに」 二人の答えにマリーは「そうか」と言って足元に座るファングの頭を撫ぜてやる。 ハリーはふと、マリーが来るまでハグリッドに相談していた話を彼女に尋ねたくなった。 「マリーさん」 その声にマリーの隻眼がファングからハリーに向けられる。 「僕、スネイプに嫌われてるんじゃないかって思うんだ」 ハリーの言葉に、マリーは驚いたように目を見開いた。 「それは、どうして?」 「今日のこととか……僕を見る顔とか……色々」 マリーは難しい表情のまま、ちらりとハグリッドをみた後、小さく息をついてから「君が、というかなんと言うか…」と言い淀んだ。 「マリーさん、それはどういうこと?」 細められた瞳にちらついた何かに、ハリーは首を傾げた。 マリーは言葉を選ぶように、しばらく視線をどこか遠くに向けたまま「あのね」と重い口を開いた。 「スリザリンとグリフィンドールの寮生の仲があまりよろしくないのは2人も知っているね?」 「えぇっと……まぁ……」 ハリーはロンと視線を交わしてから曖昧に頷いた。 「その関係はね、大人になってもわりとそのままだったりするんだよ」 大人になってまでって言われそうだけどね、とマリーは力なく肩を落とした。 「ロナルドはわかるだろ? ほら、君の父とMr.マルフォイのような、ね?」 マリーの言葉にロンは思い至ることがあったのか顔を顰めて一つ重々しく頷いた。 「正直に言って、学生の頃のジェームズとスネイプの仲は良くなかったんだ。 大人であり教職でありながら、どうかとは思うけど……多分、ハリーのそれは八つ当たりだから気にしなくて良い」 「八つ当たり……」 「ハリーはジェームズと瓜二つだからなぁ…」 ハグリッドの呟きに、納得と腑に落ちない感情をハリーは紅茶と一緒に胃の腑に押し込めた。 マリーはもう一度「君は気にしなくて良い」と苦々しく唸った。ハリーはそれに「はい」と答えるに留めた。 「アーサーさん達の仲の悪さも大概だが、あの二人も中々だったからなぁ……」 「父さんたちの仲の悪さも学生時代からなんですか?」 しみじみと呟かれたマリーの言葉にロンが反応し、そこからマリーは二人の学生時代のアレソレを語り出す。 ちょっとギョッとすることから、子供の自分から見ても馬鹿馬鹿しいような昔話に耳を傾けながら、ハリーはふとテーブルの上のティーポットカバーの下から、一枚の紙切れを見つけた。 それは新聞記事の切り抜きだった。7月31日に起きたグリンゴッツ強盗事件の記事で、ハリーは汽車の中でロンと話したことを思い出した。 「ハグリッド!グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ! 僕たちがあそこにいる間に起きたかもしれないよ!」 ハリーがそう声をあげると、全員の視線がハリーに集中した。しかしハグリッドだけが、はっきりとハリーから目を反らした。 「巻き込まれなくてよかったな、ハリー」 相変わらず感情の読めないマリーはそう言いながら、ゆったりと紅茶を飲んだ。しかし、その後ろでマリーがハグリッドを軽く小突いていたことをハリー達は知らない。 ハリーは記事を読み返し、荒らされていた金庫は空だったという内容に、あの日ハグリッドが空にした713番金庫のことが脳裏に過ぎる。 さらに深く考えようとする前にハリーの手から、新聞記事が抜き取られた。 「あ」 「グリンゴッツも信用ならないな……私も大事なモノを移動させるか」 取り上げた記事を黙読しながらそう呟いたマリーに、ロンが興味津々な顔をマリーに向けた。 「大事なモノって?!」 「我が家に伝わる伝説の云々とか──ヴォルデモートが狙ったモノとかね」 「!」 マリーがなんともなしに出した名前にハリー以外が、顔を強張らせた。 「ヴォルデモートが?」 「そう、ヴォルデモートが」 「お前さん達よく……」 そう呻いたハグリッドにマリーは、困った様に指で頬を掻いた。 魔法界に慣れていないハリーはともかく、魔法使いであるマリーもまた“名前を言ってはいけない…”という暗黙の了解は関係ないらしい・ 「あぁ………ごめん、ハグリッド、ロン。──さぁ、そろそろ夕食の時間だ。 遅れないように、そろそろ帰ろう」 空になったカップを置いてマリーが立ち上がった。続くように残りを飲み干すとハリーとロンも椅子から立ち上がる。 「そ、そうだな、もうこんな時間だ。帰ったほうがええ。 あ、ちょっと待ってな二人とも!今みあげに、ロックケーキを包んでやるからよ」 にこにことあの歯が折れそうに固いケーキを包みだすハグリッドに、断る事も出来ずハリーとロンは顔を見合わせると肩を落とした。 その背後で、マリーは新聞記事の切り抜きをそっと、テーブルの上に戻した。