ハグリッドと別れ、図書館へ向かったハリーは「20世紀の偉大な魔法使い」という本で、ニコラス・フラメルの名前ではなくマリーの名前を見つけ、ページをめくる手を止めた。 それに気付いたロンが「見つかったの?」と言うので、ハリーは慌てて「違うよ」と否定した。 「これに、マリーさんが載っていたから」 「なぁんだ」とロンはそう言ってがっかりとした顔を見せる。 「彼女なら載っていて当たり前よ。闇の帝王に命を狙われて生き残ったのは、ハリーと彼女だけだもの」 手元の本から視線を外さないまま言うハーマイオニーの言葉に曖昧に頷く。 「うん……でもなんで、マリーさんも僕も、生き残れたんだろう」 そう呟いたハリーに、ロンは「うーん」と唸った。 「それは誰にもわからない事よハリー。相手はもう死んでるんだし」 ハーマイオニーは本のページを忙しなくめくりながら答えた。 ハリーはマリーのことが記されたページに目を通しながら、無意識に額の傷を撫ぜた。 それを眺めていたロンがふと、「もしかしたらさ」と言う。 「マリーさんの右目の眼帯って、君みたいに呪いをかけられた時に出来た傷を隠してたりして。 だって彼女も“例のあの人”に襲われていたかもしれないし」 「そんなはずないわ」 ハーマイオニーのきっぱりとした否定に、ロンがむっとした顔でなんで?と聞き返す。 「二人ともそのページを見てみなさいよ。 彼女の一族が闇の勢力に襲われたのは彼女が18歳の時、ホグワーツに在学中よ」 ハーマイオニーが指した行には確かに、カウンシル家が滅ぼされた年の所には『次期当主であり次女のマリーは、ホグワーツ在学中のために無事だった』と書かれていた。 ロンはそこに疑問を感じて、でもとハーマイオニーに言った。 「ガブリエルの名前はカウンシル家の長子に与えられる名だぜ? なんで本には“次女”って書かれてるんだよ」 「マリーさんに、姉がいたって事?」 ロンとハリーの言葉に、ハーマイオニーは呆れきった様子で深い溜息を吐いた。 「貴方達、本をきちんと読んでから質問してくれない?」 ハーマイオニーはもういいわと言って、二人に顔を寄せ声を潜めて話し始めた。 「マリーさんにはナディア・カウンシルっていう双子の姉がいたの、でも──能力的に妹のマリーさんの方が優れていたから、例外的に次女がガブリエルの名をいただいたのよ。 まぁ、例外的といっても双子だから姉か妹かなんて余り差がないからでしょうけど」 「“いた”って事は、もう亡くなったの?」 「それが……あまり大きな声では言えないんだけど。 マリーさんがガブリエルを継いだことを、姉はあまりよく思ってなかったようの。だから、彼女が“あの人”に手引きをしたった噂よ」 ロンとハリーは驚きに目を見開いた。ハーマイオニーはその反応に、ロンをじとりとした目で見遣った。 「マグルだったハリーならまだしも、貴方そこまで知らないの?」 「だ、だって、ママもパパも。マリーさんの話になると、昔から口が重かったから……」 ハーマイオニーの怪訝そうな顔に、ロンはショックを受けた顔で首を振った。 「マリーさんとは、パパ達と同じ寮の後輩で、昔は仲良かったらしいし……」 「あー…そうね、それだったらあまり話したがらないでしょうね」 ハーマイオニーは眉を下げて、困った様にそう言った。 「だから、マリーさんのお姉さんの安否は、よくわかってないの」 ハリーは黙り込んだまま、ページへと視線を落とした。 そのページには淡々とした文字で、18歳にして全てを失った彼女が家長を継ぎ、闇の勢力と少ない仲間と戦い続け、最後には行方をくらました事が書かれていた。 文章の最後にのっている魔法の写真には、中央にマリーと彼女によく似た男性──先代である父、そして一族数名が写されている。 おそらく、戦ってきた仲間なのであろう彼らは杖を片手にこちらに力強い笑顔でこちらに手を振っていた。 その真ん中でマリーは押されたり引っ張ったりされながら苦笑を浮かべていた。 色褪せた写真の中で彼女は、今では見られない鮮やかな表情で笑っていた。 「──…マリーは、だから笑わなくなったのかな」 そう呟いたハリーにロンとハーマイオニーは顔を見合わせた後、眉を下げた。 「そう、なのかもね……」 「その写真を見ると、笑顔が綺麗な人よね」 「うん……」 ハリーはそう小さく頷いて「20世紀の偉大な魔法使い」を閉じ、「魔法界における最近の進歩に関する研究」を手にとった。ハーマイオニーとロンも、続く様にページをめくり始めた。 ページをめくりながらハリーは、この笑顔を見続けてこれたであろう両親が酷く羨ましく感じていた。 ・・・ クリスマス休暇になると生徒が減るため、クリスマスに寮に残る生徒のリストを片手にフィルチは、仕事が減って残念だと言っていたが。今年は彼の天敵であるウィーズリーの双子が残ることになったらしく、まともなクリスマス休暇にはならんなと今度は愉快そうに顔を顰ていたのでマリーは苦笑を浮かべた。 マリーはフィルチに頼まれて、ピーブスを探すのを手伝っていた。 なんでも、管理していた鍵束をくすねられたらしい。 ピーブスを唯一コントロールできる“血みどろ男爵”がうまいことみつからず、彼に天敵扱いを受けているマリーに白羽の矢がたった。 ピーブスはマリーを怯えていた。それは昔、ちょっとしたマリーの油断でピーブスが《言霊》で酷い目にあったからなのだが──これは別の機会にお話しよう。 マリーは「妖精の魔法」の教室を覗き込んでピーブスの姿が見えないと、小さく溜息を吐いて扉を閉めた。 その溜息は廊下の冷たい空気に冷やされ白いもやとなって消えた。 「いたか?」 「こっちにはいませんね……」 溜息を吐いたフィルチの隣で、マリーは足元で冷たい石床に爪先立ちになっているミセス・ノリスを抱き上げた。 うす暗い廊下をランプで照らしながら、先を進むフィルチにマリーは急に思い出したように話しかけた。 「そういえばアーガスさん、クリスマスのプレゼントは何が欲しいですか?」 「……別に何もいらん、余計な事に気を回すな」 一瞬驚いて目を見開き硬直したあと、フィルチはぶっきらぼうにそう言って顔を顰た。 ママリーはそれが彼の照れ隠しだと知っていたから、小さく口元を緩めながら腕の中のミセス・ノリスの顎の下を撫ぜてやった。 「ミセス・ノリスには銀色の鈴の付いた黒い首輪をプレゼントとしょうと思うんですよ」 腕の中でミセス・ノリスはにゃーんと嬉しそうな声をあげた。 フィルチは飽きれ顔でマリーを振り返った。 「あんた、そうやって何人にプレゼントを渡す気だ?」 「そんなにあげるつもりは………」 マリーは困った様にいいながら、指折り数えてみた。 「とりあえず先生達には──今も昔もお世話になりましたし。 ダンブルドア先生には厚手のウールの靴下、マクガナガル先生はエメラルド色の耳当てで、スネイプ教授にはグレイカラーの冬物のガウンを。その他色々ですね……。 あとは、友人と友人の息子にいくつか」 「あんたのその気配りには呆れるよ……」 「アーガスさんは、何がいいかちょっと悩んでるんですよ」 アーガスさん、いらないものを貰っても困るでしょうと言って首を傾げるマリーに、フィルチはやれやれと肩を竦めた。 「最近、外の仕事が寒くてかなわん」 そう呟かれた言葉に、マリーは頭の中で防寒具のカタログを思い浮かべながら「はい」と微笑んで頷いた。 「あ」 「あ?」 マリーはじっと廊下の先を見つめた後、ミセス・ノリスを降ろしてから石像の後ろにさっと身を隠した。 フィルチは一体なんだと怪訝そうな顔をしたが、廊下に並ぶ鎧をガラガラいわせながら近づいてくる気配に納得した。 「ピーブス……」 「何かお探しのようだねぇ、フィルチ。 何をお探しだい?これかな?あれかな?それともこれかなぁ?」 ニヤニヤと笑いながら鍵束を目の前でお手玉するピーブスを睨みながら、フィルチはにやりと口の端を吊りあげた。 「なんだ?」 『動くな、ピーブス』 その言葉にピーブスはまるで固まった様に動きを止め、その手がキャッチしそこねた鍵束は見事フィルチの手の中に収まった。 「その声は、カウンシルー!!!」 「久しぶりの《言霊》は、効きがいいみたいだなピーブス」 石像の影から姿を表したマリーにピーブスは悲鳴じみた声をあげた。 「アーガスさんの仕事の邪魔してはいけないよ、ピーブス」 「黙れ!偉そうに!ガブリエルめ!姉から地位を奪った泥棒猫め!!」 ピーブスの罵声に、フィルチが眉を潜めた。 マリーはくつくつと喉を震わせると、宙でもがき苦しむピーブスを真っ直ぐに見上げた。 『君の甲高い声は聞くに耐えない。 今年は君の姿も声も消してしまおう──また来年会おう、ピーブス』 「!」 ピーブスは、宙でくるりと回ったあとぽんと軽い音を立てて消えた。 マリーは軽く咳ばらいをすると、フィルチを振り返った。 「あいつをどうしたんだ?」 「今年が終わるまでは出て来れないようにしてあげましたよ、あそこからね」 マリーが指差した先には、ガタガタと揺れている鎧が一体あり。フィルチは、あぁなら今年は安心だなと言った。 「そこまでするとはな──…ピーブスの言葉が気に触ったか?」 フィルチの言葉に、マリーは軽く目を見開いた後苦く口元を歪めた。 「気にしちゃいませんよ、事実ですからね」 そう呟いて視線を足元に落としたマリーは、フィルチに視線を戻してから「大丈夫ですよ」と言った。 「さて。戻りましよう、アーガスさん。ここは寒い」 「……どれ、手伝いの礼にココアでもいれてやろう」 そう言ったフィルチに、マリーは嬉しそうに目を細めた。 足元でミセス・ノリスが寒さを訴えるように一つ鳴いた。