翌日の朝には、一晩中空を騒がせていた嵐は治まっていたが、大広間の天井に映る空は未だにどんよりとしている。 マリーは朝食の席で時間割持ったまま、鉛色の重苦しい雲が渦巻く様子を見上げていると、両頬を掴まれて下を向かされた。 「マリー、話聞いてた?」 鉛色から一転して、桃色の頬をまるく膨らませるレイナ表情に視界が切り替わる。 「──質問の答えなら、私は三校対抗試合には興味ないよ」 「もう、聞いてるんなら返事してよね〜」 ごめんと、軽く笑って返しながら、いつもの癖で《言霊》の糸を手繰り寄せていたらしい失態にマリーは溜め息をつきいた。 「でも、マリーなら年齢制限さえも突破出来そうなのに」 マリーは頭が良いからと笑うレイナに、そりゃ中身は30代だからねと心中で溢しつつ「まさか」と笑って返した。 「マリー達も、『占い学』が始まるのか……僕たちも午後に二時限続きだ」 マリーの隣に座っていたハリーが、マリーと自分の時間割を見比べて呻いた。 「あなたも辞めればよかったのよ、私みたいに」 威勢よく言うハーマイオニーは『占い学』に嫌気がさして『数占い』に切り替えた口だ。 突然、頭上で羽音がした。 開け放した窓から、朝の郵便を運ぶフクロウが入って来たのだ。 それに反射的に顔を上げたハリーに、釣られて上を見上げるも彼の白いフクロウの姿はない。 「彼に、手紙を──?」 レイナに聞こえぬよう小さく囁くと、ハリーが暗い表情で頷いた。 そういえば、ハリーに我が隠れ家にシリウスが隠れている事を教えていないのを思い出す。 それなら、あの家の守りのせいで時間がかかるだろうなと、思いつつも秘密事項であるためマリーは口を噤んだ。 ハリーが不思議そうにこちらを見て来たが、レイナの呼ぶ声に振り返った。 「あぁ、もう行こうか……『占い学』は北塔のてっぺんでやるから、時間がかかる」 時間割の紙を畳み立ち上がりながら言うと、レイナはマリーとテーブルの中身が殆ど手付かずの皿を見比べて眉を下げた。 「また食べてない」 マリーは微かに目を伏せて笑っただけで、レイナの手を取って立たせる。 行こうと言葉なく伝えるマリーに、レイナは力無く笑ってその背中を追って足を踏み出す。 目の前を歩く背中が遠く感じて、レイナは足早に追い掛けてマリーのローブを掴んだ。 振り返ったマリーが微かに目を見開いてから、小さく笑った。 自分にも秘密があるように、マリーにも大きな秘密があるのだろう──それを問い詰める資格はないのだと、心がそれに気付くたび悲鳴を上げる。 レイナはそれを無視してマリーに微笑み返した。 「北塔ってまだ行ったことないから、道案内よろしくね」 「仰せのままに、プリンセス」 なかなか似合うその様に、レイナはお姫様扱いに照れ臭く思いながら首を竦める。 「まぁ、素敵な騎士様ね」 「あぁ、そりゃあ本職だからね」 なんなら膝まずいて見せようか?と笑って見せたマリーに、からかわないでとレイナも笑って返す。 「マリーの一族は有名な騎士の家系だったんだものね」 「──私とは遠縁になるけどね」 「でも、たった一人の後継者だわ」 マリーのぼんやりとした表情が微かに歪んだ。 「そうだね──という事は、今年は私が《予言》を受けるのか」 「え、何それ?」 「『占い学』の洗礼さ、去年はハリーが受けてた」 「?」 その“洗礼”がなんなのかはよくわからないが、秘密にしたいのかマリーはそれ以上レイナに語ろうとしなかった。 それに目の前の長い階段を登り始めれば、レイナは息が切れて会話どころで無くなってしまったのもあった。 マリーの言葉通り、マリーがシビル・トレローニーから死の予言を受けたのは、その数10分後の事だった。 その事を伝えたレイナは、ハリー達三人が悲痛な顔をしたのを見た。 マリーは昼はいらないと言って、午後の始業まで図書館に行くといって大広間にはいない。 ハリーとロンが難しい顔で顔を見合わせ、ハーマイオニーはさらに芽キャベツを口に突っ込むと難しい顔で立ち上がった。 「図書館に行ってくるわ」 何時もなら、「宿題の『し』の字も出てないのに何しに行くんだ」と信じられない、と言わんばかりのロンが見られるだろうが、珍しくハリーと二人重々しく頷いた。 「じゃ、夕食の時ね」 と言うなり、ハーマイオニーは猛スピードで大広間を出て行ってしまった。 ぽかんとしているレイナに、ロンとハリーは取り繕うように話を戻した。 「じゃあ、マリーも僕の仲間だ。 大丈夫だよ、僕も会う度に死の予言をされているけどちゃんと生きてるしね」 そう言いながら、自分に言い聞かせているようでハリーは苦々しい思いになった。 しかし、ハリーだってトレローニーの占いは信じていない──だか彼女にも例外はある事をハリーは知っていた。 それに、マリーの告白もある──否定しきれない不安が胸の奥にあった。 パサリと窓から吹き込んだ風に膝に抱えていた本のページが踊る。 マリーは伏せていた瞼を開け、開け放たれた窓から見晴らしの良い景色を見渡した。 窓辺に、マリーは静かに座っている。 「教えて、マリー。 貴女は一体何を、何を求めているの?」 乱れた息で放たれた言葉は、人気のない昼休みの図書館に響いた。 振り返ったマリーの青みがかった髪がふわりと揺れる。 「どうしてそんな事を聞んだい、ハーマイオニー?」 「わからなくなるの、貴女の事が、いつも」 窓辺に座るマリーに歩み寄りながら、ハーマイオニーは難しい顔で言った。 マリーが微かに苦笑すると、ハーマイオニーは自分達を囲むように薄い膜が貼られるのを感じて顔を上げた。 「誰が聞いているかわからないからね、少し気をつけてくれないと……」 「ごめんなさい。でも、もういいのでしょ?」 《言霊》で張られた膜はおそらく声を漏らさない仕様になっているのだろう。 ハーマイオニーの問いに答えるように、マリーは本を閉じた。 「時々、思うの、貴女は本当は死を望んでいるんじゃないかって……」 「……」 「だから、スネイプ教授のことのように、この世と繋ぐ鎖を断ち切ってるんじゃないかって」 マリーは、ハーマイオニーを何時ものぼんやりとした表情で見つめた後、惜しいなと呟いた。 「半分当たりで半分ハズレだよ」 ハーマイオニーは、くしゃりと顔を歪めた。 マリーは微かに柔らかく微笑むと、ハーマイオニーの頭を優しく撫ぜた。 「大丈夫、私は生きてる──呪いに対抗出来る限りはするつもりだ」 「でも、いつかは──」 「それ以上は行っては駄目だ、ハーマイオニー」 唇に当てられた白く細い指に、ハーマイオニーは声が詰まった。 「今は、今だ──後の話はしなくてもいい」 微かに顔を歪めたマリーが泣きだしそうだったのは、決して気のせいではないだろう。 午後の予鈴が鳴った。 顔を上げたマリーが、行かなくてはと窓辺から降りた。 二人を守っていた膜が、まるでシャボン玉が割れるように一瞬に消え去った。 ハーマイオニーは去っていくマリーの背中を見送った。 いやに遠く感じる背中に伸ばした手は、彼女に触れる事なく宙をかく。 「ハーマイオニー」 背を向けたまま、マリーが彼女の名前を呟いた。 「君が、気に病む必要はない」 微かに苦笑まじりの言葉に、ハーマイオニーは目を伏せた。 彼女は優しい。それは、残酷なほどに。 ハーマイオニーは一人、窓辺で額に手を当てた。 ・・・ 夕食時になると、夕食を待つ生徒で溢れ行列が出来ているのは常ではあるが。 『魔法生物飼育学』の授業を終えて城に戻って来たレイナは、そこがいつも以上に騒がしい事に気付いた。 斜め後ろに立っていたマリーがあからさまに深い溜め息をついた。 「また、か──あの声はマルフォイとロンだな」 人垣の向こうはここからでは見えないものの、騒ぎに耳を済ませたマリーはそう断言した。 「相変わらず、耳がいいよね」 「おかげさまで」 仲裁に入る気なのか、人垣を割って歩き始めた#マリ#ーに、レイナは関心したように言いながらその後ろを追い掛ける。 人垣の中心にいるのはマリーの言葉通りマルフォイとロン、それからロンを押さえ付けるハリーとハーマイオニーだ。 「僕の母上を侮辱するな、ポッター」 「それなら、その減らず口を閉じとけ」 決裂した会話にハリーが背を向けた。 その瞬間レイナはマルフォイが杖を抜いたのを見て「あ」っと小さく息を飲んだ。 マルフォイの杖から飛んだ光線がハリーの背中に向かうが、間に入った何かにそれは弾かれて反れたもののハリーの頬を掠めた。 掠めた熱に目を見開いたハリーが杖を抜き去る前に、二つ目の大きな音がし吠え声が玄関ホールに響き渡った。 「若造、そんな事をするな!」 ハリーが振り返った先をレイナも慌てて見れば、マッド-アイ・ムーディが大理石の階段を下りてくるところだった。 杖を上げ、真っ直ぐに純白のケナガイタチに突き付けている。 石畳を敷き詰めた床で、ちょうどマルフォイが立っていたあたりに白イタチが震えていた。 瞬時に何が起こったのか理解した生徒達は恐怖に沈黙を守った。 ハリーをムーディのまともな目の方が見た──反対の目はひっくり返って頭の後ろを見ているようだった。 「当たったかね?」 ムーディが押し殺したような声でハリーに尋ねた。 「いいえ、外れました」 「だろうな、上手く外させたようだ」 ムーディーの目がハリーからマリーに移った。 レイナがちらりと見ると、マリーの袖口にちらりと杖の先が見えていた──あの光線に当たった何かは、マリーが出したものだったのだろう。 虚とも言える表情で、マリーはムーディの顔を見返していた。 「触るな!」 「触るなって──何に?」 突然叫んだムーディに、1番驚いたのハリーだった。 面食らった表情でムーディに尋ねたハリーに、ムーディはお前じゃないと言って、親指で背後にいたクラッブを指し唸った。 白イタチを拾い上げようとしていたクラッブは、その場で凍り着いた。 ムーディはハリーに背を向けると、クラッブ達とイタチの方に向かって、足を引きずりながら歩き出した。 レイナはその隙にハリー達に駆け寄った。 逆に、マリーはムーディの背中を見送り、そちらに足先を向けた。 イタチがキーキーと怯えたように悲鳴をあげると、地下牢のほうにさっと逃げ出した。 「そうはさせんぞ!」 ムーディが吠え、杖を再び白いケナガイタチに向けた──イタチは空中に二、三メートル飛び上がり、バシッと床に落ち反動でまた跳ね上がった。 「敵が後ろを見せた時に襲う奴は気に食わん」 ムーディは低く唸り、ケナガイタチは何度も床にぶつかっては跳ね上がり、苦痛にキーキー泣きながら、だんだん高く跳ねた。 「鼻持ちならない、臆病で、下劣な行為だ……」 ケナガイタチは足や尻尾をばたつかせながら、なす術もなく跳ね上がり続けた。 「二度と──こんな──ことは──」 ムーディはイタチが石畳にぶつかって跳ね上がる度に一語一語を打ち込み、最後に1番高く跳ね上げた。 「するな!」 最後に恐ろしく低い声で唸ったムーディの言葉と共にイタチが落ちた。 しかし、落ちた先は石畳の上ではなく、小さな白い手の上だった。 「おや……今度はこちらを助けるのか、カウンシル」 ムーディの両目が、イタチを腕に抱き抱えるマリーを見た。 「子供の喧嘩に、貴方がここまでなさる必要はないと思われます。 ミスター・マッド-アイ・ムーディ」 単調なマリーの言葉ではあったが、微かにその碧眼に怒りがちらついているようにレイナたちは感じた。 ムーディの目にもそう映ったのだろう。 「さっきといい、今といい…良い腕だ──わしはお前の叔母を知っている、ガブリエル・カウンシルをだ。 お前と本当にそっくりだった──その目も似ている。 だが、お前がガブリエルであったなら、マルフォイ家の人間など助けなかっただろう」 ムーディはマリーの腕に縋るイタチを見下ろしながらそう吐き捨てた。 マリーはそれを一笑すると、すぐに表情を掻き消した。 「私は、叔母ではありませんので」 突き付けられたままの杖にイタチは怯えマリーの腕に爪を立てている。 マリーはそれでも臆すことなく、ムーディを見据えていた。 嫌な緊張が走る。 「ミスター・ムーディ──ダンブルドア先生から、このような“過度”な懲罰は許されないとお話を頂いていませんでしたか?」 「そんな話をしたかもしれん、フム」 ムーディはそんな事どうでもよいという風に顎を掻いていた。 「しかし、わしの考えでは──」 「この学校の校則は、ダンブルドア先生が決めるものだと、私は思っております」 ムーディの言葉を遮るように言ったマリーの言葉は滑らかだ──不機嫌な誰かさんの厭味ぐらいに。 「──流石は、ダンブルドアの秘蔵っ子だな」 「褒め言葉として頂きましょう」 さも嬉しくなさそうに言いながらマリーは、イタチの背を宥めるように撫ぜた。 フン、と鼻を鳴らすとムーディは杖を下げた。 次の瞬間、また大きな音をあてて、ドラコ・マルフォイが再び姿を現した。 マリーの腕に縋り、いまや燃えるように紅潮した顔には、滑らかなブロンドの髪がバラバラとその顔にかかっている。 「大丈夫……?」 微かに唇を動かして囁かれたマリーの声に、マルフォイははっと顔をあげると引き攣った顔で頷いた。 「では、カウンシル。 ダンブルドアが示す、罰則とはなんだ?」 「まだ、罰則を加えるおつもりですか……」 痛みと屈辱で薄青い目を潤ませてムーディを睨んでいるマルフォイの体を支えながら、マリーは憂いた溜め息をついた。 「居残り罰が主流ですが──この場合、寮監とお話をした方がいいのではないかと」 「なるほど……さて、お前の寮監は確か、スネイプだったな?」 「そうです」 「奴も知り合いだ」 マルフォイを見据えながらムーディが唸るように言った。 「懐かしのスネイプ殿と口をきくチャンスをずっと待っていた……来い」 マリーに寄り掛かるマルフォイの上腕をむんずとつかみ引き離す。 そして地下牢へと引き立てるムーディを横目で見送るマリーに、振り返ったムーディが目を細める。 「わしが過度な罰則をするか心配なら着いてくるか、カウンシル?」 「──結構です、ミスター。 私は他寮の問題事にこれ以上首を突っ込みたくない」 苦々しい表情で吐き捨てるとマリーは踵を返した。 ムーディもまた歩き出す。 「マリー!」 駆け寄って来たレイナは、マリーの固い表情を心配そうに見上げた。 「気分が悪くなった、夕食はいらない……」 青白い顔でそれだけ言うと階段を登り始めたマリーの背中を見送るレイナの後ろで、ロンが溜め息をついた。 「最高にすっきりする事なのに、何が駄目だったのかなぁ」 ハーマイオニーが馬鹿と呟いた。 夕食の後、レイナは地下牢へ向かっていた──自分に1番必要な薬をスネイプ教授から頂く為だ。 他の人なら憂鬱になるだろうこの暗い廊下も、彼に淡い恋心を抱くレイナの足取りは軽やかだった。 それに、もしかしたらマルフォイがどうなったのかも聞けるかもしれない。 そしたら心配そうだったマリーにも教えて上げられる、レイナの足はさらに早くなった。 スネイプの研究室のドアをノックし名前を名乗ると、少し間があってから入室の許可がおりる低い声が聞こえた。 「おや、レイナ、薬の時間かな」 「ダ、ダンブルドア先生!」 にっこりと笑顔で迎えてくれたのはもちろんスネイプではなく、ソファに座るダンブルドアだった。 「タチバナ、そこに座って待っていたまえ。 今、薬を持ってくる。校長も少しお待ち下さい──」 「あ、よろしくお願いします」 立ち上がったスネイプに頭を下げながら、ちょこんとダンブルドアの隣に座らせてもらった。 「ダンブルドア先生も、何かお薬を……?」 体調が悪いのだろうかと、怖ず怖ずと尋ねれば、いやいやと首を横に振った。 否定されてレイナはほっとする。 「わしが作る薬に、ちと必要な材料があってのお。 スネイプ教授にわけてもらおうと思ってな」 長い白髭を撫ぜながらダンブルドアは困ったように言った。 「切らす事はないようにしていたつもりじゃったが……最近、減りが早い」 「え──……?」 「ミス・タチバナ、薬だ」 言葉に微か滲んだ悲しみを問おうと振り返ったが、その言葉を遮るようにタイミングよくスネイプが戻って来た。 差し出されたゴブレッドを慌てて受け取り頭を下げると、スネイプは興味なさ気に一瞥した後、持って来た小さな包みをダンブルドアに差し出した。 「おぉ、すまんな」 「いえ……構いませんが。 こんなモノ、一体何にお使いで……?」 レイナには、包みの中身を知る程の知識はなかったが、スネイプの反応からみてダンブルドアが求めた材料は変わったものである事だけはなんとなく予想出来た。 スネイプの探るような目を見つめ返したダンブルドアの視線は、それだけで彼を黙らせる程の力はあったらしい。 「申し訳ありません、出過ぎた事を……」 頭を下げたスネイプに、ダンブルドアは困った顔で笑った。 「たいした問題がある話じゃない……今は、まだのぉ」 意味深に呟かれた言葉とともに、ダンブルドアの瞳が帯びた濁りに、レイナは話を逸らすように口を開いた。 「あ、あの……! マルフォイ先輩は、どうなりましたか?!」 「──…?」 「い、いやあの、夕食前の騒ぎで…ムーディ先生が、スネイプ先生のところに行くって……」 怪訝そうにスネイプに睨まれ、レイナの声は思わず尻窄みになってしまった。 「どう……とは?」 「あ、いや、あの、追加で罰則があったのかなって。 珍しく、マリーが怒ってたから……」 「マリーが?」 問い返したダンブルドアの目が不思議に輝いた。 「“ダンブルドア先生から、このような“過度”な懲罰は許されない”はずだとか、 “校則は、ダンブルドア先生が決めるものだと私は思って”いるとか、低い声で言うから怖かったんですよ」 「そうじゃったか……」 「マリーは、ダンブルドア先生をとても尊敬しているんですね」 私もですけど、とレイナはそう言って声をたてて笑った。 「しかし……校長はポッターといい、カウンシルに甘すぎやしませんか?」 「セブルス、君は逆に二人に厳しくはないかね?」 噛み合った視線に、微かにまた部屋の空気が重くなった。 レイナは二人の間に視線を走らせた後、慌てたように口を開いた。 「あ、あの!ダンブルドア先生!? マリーって、その…叔母さんと似てるんですか?」 「何……?」 「ムーディ先生が、叔母のガブリエル・カウンシルにマリーが似ているって……」 「……ムーディが?」 ダンブルドアの表情が微かな険しさを持ってレイナに問い返した。 「ムーディは他に、マリーに何か言っていたかね?」 「え?あ……叔母さんならマルフォイ家の人間を助けなかったって……」 「マルフォイを?」と、怪訝そうな顔をしたスネイプが反芻した名前に、レイナは頷いた。 逆にダンブルドアは難しい表情で手にした包みを見下ろしていた。 「ダンブルドア先生?」 はっとしたように顔を上げたダンブルドアは、いつも通りに笑って見せた。 「いやなに、彼女の叔母──ガブリエルの事を思い出していただけじゃ」 「ダンブルドア先生も知り合いなんですね」 「あぁ……」 それっきりダンブルドアは黙り込んでしまったので、レイナは諦めてゴブレッドの中身を飲み干した。 うっと顔を顰め差し出したゴブレッドをスネイプは受け取った。 「それじゃあ、私は失礼しますね……」 どうにも体が拒否する味を、なんとか胃に流し込んだ後はテンションが下がってしまい。 レイナは青い顔のままフラフラと立ち上がると、スネイプに頭を下げ部屋から出て行こうとした。 「ミス・タチバナ」 スネイプに呼び止められのろのろと振り返った。 「ミスター・マルフォイにはあれ以上の罰則は与えていない」 「──わかりました、マリーに教えておきますね。 おやすみなさい、ダンブルドア先生、スネイプ先生」 にっこりと笑ってみせたレイナは部屋を出ていった。 パタンと静かにしまった扉に、部屋は静かになった。 ダンブルドアは深い溜め息を一つついた。 「先程の意味をお聞きしたい」 「──」 「ガブリエル・カウンシルとマルフォイ家の間に何があったというのですか? そんな話確執は聞いた事はない」 「知らないだけじゃ。誰も、誰しもがそれを知ろうともしない」 「一体それは……」 ダンブルドアはスネイプを静かに見据えた。 その青い瞳は悲しみが映し出されていた。 「ついに、思い出す事もなくなってしまったんじゃのぉ」 悲しい呟きだったがスネイプには理解出来ず、怪訝そうな目でダンブルドアを見据えるだけだった。 「何、知らんでも問題ない話だ」 ダンブルドアは力無く笑い、包みを懐に入れると立ち上がった。 「校長」 「おやすみ、セブルス」 「……えぇ」 セブルスは去っていくダンブルドアの背中を見送ると、空になったゴブレッドを見下ろした。 底に残った薬がトロリと鈍く光りを反射しているだけで、当たり前ではあるがこの胸のしこりを取る答えなどあるはずはなかった。 仕方がなしに、スネイプは何年ぶりかに再会する目にあった、あの闇払いのせいだと納得せざるおえなかった。