それからの二日間は、とくに事件もなく過ぎた。 木曜日の午後から、魔法薬学が始まった。 その日は新しい薬で「縮み薬」を作っていて、マリーの隣はいつも通りレイナが陣取って少し危なっかしい手つきで材料を切っている。 レイナがうんうん唸りながら雛菊の根をきっちりと同じに揃えて切っている隣で、マリーは相変わらずぼんやりした表情ながら慣れた手つきで萎び無花果の皮を向いていた。 ようやく根を切り終えたレイナは一息つくと、生徒達の作業台の間を歩きながら減点をしているスネイプをみらりと見た。 ちょうどスネイプは、根を不揃いに切ったコリンから5点減点している所だった。 「ねぇ、マリー。 マリーは減点された事ってないよね?」 こそりと話し掛けたレイナに、マリーはイモムシから視線を外さず「そうかな」と小さく呟いただけだった。 グリフィンドール生であれば、魔法薬学で減点されるのが通過儀礼であったし、その中でよくよく考えてみればマリーは減点された事がないように思えたのだ。 「薬を作るのは好きなんだよ──ただそれだけだ」 イモムシを輪切りにしながら、マリーはぼんやりとした声で答えた。 「マリー?話聞いてる?」 「あぁ……」 問い掛けてもまともに返ってこないので、レイナは溜め息をついて諦めると無花果の皮を剥き始めた。 しばらくは黙ったまま二人は作業を続けた。 最近、マリーはぼんやりどころか危ういイメージさえある。 レイナは不格好な無花果に剥き終わったものを板に置いた。 その頃にはマリーの作業は鍋に入れていく事に移っていた。 スネイプの声が後ろから近付いてきていた。 ふと、マリーの手からぼちゃんとネズミの脾臓が鍋に落ちた──そう“入れた”のではなく“落ちた”のだ。 「マリー?」とレイナが彼女の名前を呼んだ。 レイナとマリーの側で、こつりと足音が止まった。 「らしくない失敗だな。 話を聞いていたか、脾臓は一つでいい──」 スネイプがマリーの後頭部を見下ろし、失敗であろう鍋の中身を見下ろしながら冷たく言い放った。 マリーは鍋の前に手を翳したまま動かなかった。 減点を言い渡そうとしたスネイプの口は途中で止まり、怪訝そうに#マリーを見下ろした。 「ミス・カウンシル、一体どうし──」 マリーの手が下ろされると同時に体が傾き、思わず後ろに下がったスネイプの目の前で倒れた。 「マリー!!?」 床に倒れ込んだマリーにレイナが縋り付き、他の生徒達も立ち上がりそのようすを見ようと首を伸ばしている。 スネイプははっとしたように、慌ててマリーとレイナの側にしゃがみ込んだ。 名前を呼びながら揺さぶるレイナに答えず、真っ青な顔で震えるマリーは右目を押さえていた。 「一体、どうしたんだ?」 「わかりません、こんな事初めてで……」 半泣きで首を横に振るレイナを、いったん引き離しスネイプはマリーの額に触れ、逆の手で右目を押さえる手をどけようとした。 「手をどけろ」 薬がもしかしたら目に入っているかもしれないと、退けようとした手はどんなに力をいれても動かず。 力の入れすぎで青白くなった手は、やわい頬に爪をたて血を滲ませている。 「カウンシル!手をどけるんだ!!」 「───」 「何?」 微かに動いた唇に合わせて微かな声が洩れたが聞き取る事が出来ず、スネイプは舌打ちをするとその口元に耳を寄せた。 「死の呪文──ムーディが」 きつく閉じられた左目から涙が一つ零れた。 スネイプは目を細めた。 身を起こすと、震える小さな体を見下ろす。 「先生、マリーは……っ」 「──医務室に連れて行く。 お前達は作業を続けろ!すぐに戻る」 スネイプはマリーを抱え上げると黒いローブを翻して早足で歩き出した。 生徒はそれを唖然と見送っていた。 地下牢の教室を出て足早に階段を上りながら、スネイプは小さく舌打ちをした。 先程の呟きがこの原因であるならば、確かに今の時間マッド-アイ・ムーディが授業をしている。 ムーディならば授業で【許されざる呪文】を披露してみせる可能性はある。 それに──闇の魔法使いによって家族を失ったものの中には、呪いなどに過敏に反応する者もいるという──この少女もその一人なのかもしれない。 しかし、別の教室で授業をうけていながらこの反応。 浅い息を吐きながら青い顔に汗を滲ませるマリーの症状はそれにしても酷いように思えた。 「意識はあるか?」 「っ──」 走りながら問い掛けると薄く開かれた瞼から碧眼がぼんやりと虚空を見た後こちらを見上げた。 混濁しているようだが意識はあるようで安心した。 安心した? スネイプはなんとも言えない感情に舌打ちをしてから、「医務室に連れていく」と行く先を伝えた。 力無い白い手がローブを掴んだ。 その手を見下ろしてから、その真意を問おうと見た顔はきつく顰められていて答えがありそうには見えなかった。 「セブルス? どうしたんじゃ、そんなに急いで」 背後からかかった声に思わず足を止めて振り返る。 声の主であるダンブルドアは驚いた様子で息切れしているスネイプを見た後、その腕に抱えられているマリーを顔色を変えた。 「着いて来なさい」 「あの、しかし」 「今の彼女に必要な薬は、医務室にはない」 踵を返して足早に歩き出したダンブルドアの背中に躊躇い気味に踏みあぐねた後、その後ろを追い掛けた。 「授業で何があったのじゃ」 「得に何も。突然倒れたものでして」 「何か言っておったか?」 「“死の呪文”、“ムーディ”──」 道すがら矢継ぎ早に尋ねられた言葉を返すと、ダンブルドアが唸った。 「アラスターの事が……まさか、こんな事になるとは」 ぶつぶつと呟きながら、 校長室に続く螺旋階段を上っていく。 スネイプはその後ろに続いて部屋に入ると、ダンブルドアに言われマリーをソファーの上に横たえた。 薬を取りに部屋の奥に消えたダンブルドアを見送ってから、もう一度とマリーを見下ろした。 汗で張り付いた髪を払ってやりながら、押さえて隠されたままの右目に目が奪われる。 ふと、衝動にかられて伸ばされた手に気付いたのか、マリーが顔を反らしてそれを拒絶した。 「見ないで……」 「──何故?」 「見られたくない」 「何をだ?」 押し問答のようなそれに、口を一旦閉ざした後唇だけが動いたような小さな呟きで答えた後、彼女は沈黙した。 「───」 「セブルス、もう大丈夫じゃから授業に戻りなさい」 ゴブレッドを手に戻って来たダンブルドアを振り返ると、視線だけでまた促された。 スネイプは忌ま忌ましい気持ちで、マリーに薬を渡すダンブルドアの背中を睨んだ。 「それでは……よろしくお願いします」 それだけ吐き捨てるように言うと、スネイプはローブを翻し校長室を出て行った。 最後に彼女が呟いた言葉が繰り返される。 『ぜ ん ぶ』 幼い少女が浮かべるにしては深い絶望が薄く開かれた瞳に映されていた。 「落ち着いたかの?」 ダンブルドアは、薬をなんとか全て飲み干したマリーを見下ろして言った。 まだ青ざめた顔をあげて笑ったマリーの右目は白く濁り、それを跨ぐように稲妻が走っていた。 「だいぶ……マシになりました」 「授業中にまで“糸”を張っておったのか?」 ムーディの死の呪文を聞いたとなればそれ以外に方法はないのだから、知っていれはすぐに導き出せる答えだった。 マリーは困ったように笑うだけでそれに答えた。 「お叱りももちろん受けます──しかし、のんびり待っている時間も私にはないんですよ」 「マリー……」 「すいません。 しかし、自分の体は自分がよくわかっているつもりです」 歪んだ表情に合わせて、稲妻もまた歪んだ。 「予想より、終わりは早いかもしれません」 ダンブルドアは黙ったままだった。 マリーはそれにただ静かに笑った後、視線を空のゴブレッドに落とした。 ・・・ その夜は医務室で過ごすよう言われ、寮に戻ったのは翌日の早朝だった。 静まり返った城の中を抜け、マリーはふと寄り道しようと中庭に足を向けた。 寒いほどの朝方の空気に身震いした後、小さく白い息を吐き出す。 誰もいない中庭で立ち止まり、まだ薄暗い空を見上げる。 張らせた“糸”に引っ掛かるのはまだ、人々のいびきや寝息だけだ。 マリーは、ふふっと小さく声を上げて笑った。 人の寝息を側に眠る事の幸せは、未だ胸に温かなぬくもりを残してくれている。 ふと、その笑みを抑え無表情に近いそれで空を睨む。 幸せに浸っている時間はあまりない気がしている──悪い予感が、何かまた事件がおこるような気がしてならないのだ。 「呪いのせいか──いや血のかな? 私は、不幸を引き寄せやすいようだ……ナディア」 「何をしている?」 後ろからかけられた声に、はっと振り返ると中庭の入口にスネイプが立っていた。 呟きを聞かれたかもと、言葉を選びあぐねていると、スネイプはゆっくりと歩み寄って来て目の前で足を止めた。 見上げるように彼と目を合わせる──数年前に再会した時の事を思い出した──それほどまともに彼の顔を見るのは久しぶりだった。 「おはようございます、スネイプ教授」 なんとかそれだけを、震えないように抑えた声で言った。 スネイプは黙ったまま難しい表情でマリーを見下ろしていた。 「昨日はお見苦しい所を見せてしまいすみません。 あぁ、減点はどれぐらいされてしまいま──」 「大丈夫なのか?」 言い訳のようにべらべらと喋ってしまった言葉を遮って放たれた声に微かに目を見開いた。 伸ばされた手が、傷も消えた何もない右目のふちに触れた。 「何も、ないではないか」 ふん、と小さく鼻を鳴らして呟かれた言葉に思考が追い付かない。 彼の言葉通り、あの時必死で隠した稲妻型の傷もたてた爪痕も──医務室で凄い形相のマダム・ポンフリーの治療をうけ──綺麗さっぱり、なくなっているのだ。 触れたままのかさついた指先の温もりに、じわじわと頬に熱が集まり初めているように思えた。 「ダンブルドア先生の、薬がよかった、ので」 「薬が目に入ったわけではないのはわかっていたのだがな。 その場合さらに減点せねばなるまいと思いってな?」 ニヤリと笑った口元から慌てて目を、触れた手から離れるように顔ごと反らした。心音が乱れる。 「脾臓は少し入れ過ぎましたが、そんな失敗はしてませんよ。 それに──脾臓を入れすぎた場合は、根を増やして無花果を減らして薬を作れば、調合バランスは取れるわけですし……」 珍しく混乱しているせいか言葉がすらすらと、余計な言葉まで並べている。 昨日の失敗した薬をどうすれば成功まで導けるのかについて、ベラベラ喋りながらどこで逃げ出すかあまり冷静じゃない頭で算段する。 「なるほどな──」 低く呟かれた言葉に微かに肩を震わせ、言葉を区切った後恐る恐る視線をスネイプに戻した。 予想外に満足気な視線を向けられ、居心地の悪さは浚に増した気がする。 「確かにいい配合の組み合わせだ。 ──他の生徒に比べ、お前は魔法薬の知識はだいぶあるようだな」 「あ、はい、まぁ」 まさか「元、貴方の助手をしていたくらいですから」とも言えず、曖昧に言葉を濁しながら頷く。 「しかし、あまり聞いた事がない対処だな。それは独自の組み合わせなのか?」 「そう、です……はい」 魔法薬学は彼自身の趣味と実益を兼ねているようなものだ。 先程の答えが彼の興味を引くのに十分だった事に、マリーは今更気付いて内心深い溜め息を吐いた。 (あまり、関わりたくはないのにな……) 記憶に蓋をしただけの彼に、何をきっかけで蓋がズレてしまうかわからないのだ。 どうせ記憶を失えば関係は教師と生徒、しかも敵対どうしの寮監と寮生が関わる事など皆無とタカをくくっていたのが仇となったのか。 出来てしまったこの繋がりを完全に持て余しがちに、マリーはただただスネイプの言葉に頷いた。 「カウンシル──一つだけ聞いてもいいか?」 また薬の事かと一つ頷いた。 「呪いは誰から受けたものだ?」 「答え、かねます」 「言えぬ者か?」 「そう、ですね……」 そうか、とスネイプは静かに呟いた。 「変な事を聞いたな──病み上がり引き止めて悪かったが、寮まで送る必要はないくらい元気そうだ」 「はい、もちろん」 促された別れに乗っかり微かに笑って頷いた後、彼の脇を通って歩き出す。 スネイプの黒いローブが視界の隅で揺れていた。 「あぁ、それから」 呟かれた声に歩みを止め顔だけ振り返ると、こちらに向いたスネイプが気まずそうな顔をしていた。 「何か他にも、君の調合があるなら話を聞こう──授業で失敗作を減らす対策が立ちそうだ」 それに頷く事も出来ず微かに苦笑を浮かべた後、その場を後にした。 だいぶ上がってきた日差しが窓の硝子に反射して網膜に焼き付くような光をあててくる。 苦しげに顰められた顔は、きっとそのせいだと自身に言い訳をして、マリーは唇を歪めた。 朝から重い足を引きずるようにグリフィンドールの寮に戻ると、誰もいないと思っていた談話室にいる人影に入口で足を止めた。 「ハリー……?」 暖炉の前のソファーに座っていたハリーは、気配なく現れたマリーに気付いていなかったらしく驚いたように顔を上げた。 「マリー……」 「随分と早いね、何かあったのかい?」 薄暗い談話室の中でもハリーの顔色の悪さに気付き、マリーはゆっくりとハリーの座るソファーに歩み寄った。 「あ、いや、別に、何も……それより、倒れたって聞いたけど大丈夫なの?」 「──ガタが来てる体だ、仕方ないんだよ」 ハリーの座るソファーの膝置きに寄り掛かりながらマリーは緩く苦笑した。 ハリーに背を向けたまま、マリーは談話室の天井を見上げた。 「なぁ、ハリー……シリウスからの返事があったんだろう」 「──……」 ハリーは驚いたようにマリーの背中を見上げた。 猫背気味の背中は、いつもより小さく見えたのは何故だろうか。 ハリーは微かに唇を震わせた後、ズボンをきつく握りしめる自分の手を見下ろした。 「昨日、シリウスから……北に向かって発つって。 僕が、傷が痛むと言ったから」 ハリーが悔しそうに言葉を切ると、マリーはそうかと小さく呟いただけだった。 「手紙のせいで、シリウスは戻って来てしまった! 僕が危ないと思って!僕は何でもないのに──シリウスに言うべきじゃなかった!」 自分の膝を拳で強く叩きながらハリーは激しい口調で言った。 マリーはその様子を背中で感じながら、天井を見上げていた視線を足元に下ろした。 「何も、ないと言うわけはないよハリー。 この傷が痛むのには、外部からの影響があると言ったろう……」 「でも!」 「奴が生きてる間は、君も私も──奴の力の影響を受け続ける」 見上げたマリーの背中から彼女の表情は読み取る事は出来なかったが、その声はほの暗い重さを持っていた。 「全くもって不本意ながら……我々は奴の影響を受け続ける、繋がりを断ち切らない限り」 「マリー、さん」 「我々はな、尋常ではない呪いと、使命を孕んで生き続けなければならない」 「──使、命?」 微かに振り返った横顔が微かに笑っているように思えた。 「生き残った我々には、使命があるだろ? 同じものだとは限らないけどね」 「なら、マリーさんの使命って……?」 ハリーの問いにマリーは、ん?といって首を傾げてから小さく笑った。 「私はなぁ、ガブリエルとしても、君の両親の友人としても、面倒な事に背負う使命が多くてね」 「僕のは、何かな……?」 「焦って見つけるものでもないよ、ハリー」 ハリーはしばらく黙った後に、うんと小さく頷いた。 そして、下がっていた視線を上げハリーはマリーの横顔を見つめた。 「でもね、マリーさん、シリウスが僕のせいでアズカバンに戻るのは嫌だよ」 「彼は下手を踏まないとは思うけどね──心配かい?」 「もちろん、あんなものに追われているもの」 吸魂鬼の事を思い出しながら言うハリーの苦い言葉に、ふうんとマリーは相変わらず気のない風に頷いた。 「──僕、結構悩んでいるんだけど」 「知ってるよ」 「そう?」 「うん、だからおまじないをかけて上げよう」 「おまじない……?」 魔法使いがまじないと言うのは、少し子供騙しに聞こえてハリーは眉をひそめたが、マリーは愉快そうに声を低くして笑った。 『シリウスはアズカバンには戻らない』 不思議な響きをもって呟かれた言葉に含まれた魔力に、ハリーは目をしばたいた後で笑った。 おまじないなど、軽く言いながらマリーは確かに魔法を使い、ハリーの心配を払い、彼の人の命を守る。 「我々の戦況はいつも不利だ──君は子供で私は余命わずか、敵は帝王気取りときてる。 だが、戦う方法は目の前、手にある武器だけではない」 唄うようなマリーの言葉を、ハリーは不思議な心持ちで聞いていた。 「君には、両親も、友人も、名付け親もいる──1人じゃないんだ、大丈夫だよ」 「──……」 「別に、一人で意地張って頑張る必要はない」 遠回しに回りくどい慰め方に気付いた時には、ストンと胸に落ちるような心持ちにハリーは首を横に振った。 「意地張って頑張ってるのは、マリーさんのほうじゃないか」 自分の愛する人から記憶を奪い、自分を知る人間から記憶を奪い、数少なくなった自分の世界に生きる彼女は、おそらくその世界に一人で立っているはずだ。 「僕に言う前に、自分に言ってよ。お願いだからさ」 「今更、だよ。私はもういい。 看取る人間は少ないのが好みでね」 「ずるいや……」 「知ってるよ」 丸めた背中を震わせ笑っているマリーに、ハリーは深い溜め息を吐くとソファーに体を深く沈めた。 「落ち着いたかい、ハリー?」 「──そっちはどうなの」 「ん?」 「だいぶ、背中丸くなってるけど」 ぽんぽんと背中を叩いてやると、あぁと頷きながらマリーは小さく苦笑したようだった。 「案外……記憶を消すべきは私の方みたいだ。 思い出があれば、大丈夫だと思ってたんだけどね……」 「#マリーさん#」 呟かれた言葉の悲痛さに伸ばしかけた手が、ドアが開いた音に止まる。 「ふぁああ……おはよう、二人も早いねぇ」 「──おはよう、ネビル」 大きな欠伸をしながら部屋から出て来たネビルを見上げて、ハリーは挨拶を返しながら伸ばしかけたままだった手を下ろした。 「まだ朝食までも時間があるし、少し部屋に戻るよ」 立ち上がったマリーに曖昧に頷きながら、その背中を見送った。 階段下でネビルと擦れ違い様に小さく挨拶を交わして、女子寮の方へ消えていったその姿を見送ってから、ハリーは小さく溜め息を吐いた。 「倒れたって言ってたけど、マリー元気そうだね」 ネビルの言葉に、ハリーはそうだねと曖昧に返した。 彼女は、そう繕うのがいつもうまいから。 ハリーはそんな事をネビルに言えるはずもなく、その言葉を無理矢理飲み込んだ。