十月になれば、いつもはクィデッチ・シーズン到来に賑わい出す学生達も、中止の今年はとても静かである。 マリーは誰も飛んでいない競技場が見える窓辺に腰掛け、静かに日本の歌を歌うレイナの声に耳を傾ける。 目を伏せて窓に頭を寄り掛からせながら歌に聴き入るマリーの様子を、横目で見ながらレイナは歌う。 人気のない廊下で温かな日差しを受けながら歌うレイナと、それを聞くマリーは穏やかな土曜を過ごしていた。 日本の歌をハミングで口ずさんでいたレイナに、その歌をせがんだマリーは静かに眠るように耳を傾けている。 日本語を理解して気に入ったと言ったのかはわからないが、この穏やかなメロディに乗せる歌詞は悲しい恋の歌だ。 旋律に言葉を乗せながら、レイナが想うのは淡い恋心を抱いているスネイプだ。 では、同じく年頃の乙女である彼女は誰かを想ったりするのだろうか。 最後のフレーズを歌い終えると、レイナは唇を閉じそしてゆっくりと息を深く吐き出した。 歌の終わりを感じとりマリーも瞼を上げ、微かに笑みを浮かべながら穏やかな眼差しをレイナに向け、その瞳が感謝をあらわしているのが伝わってきたので、レイナもそれに笑顔で返した。 「ねぇ、マリー。マリーも何か歌ってよ」 「私が?」 「そう。マリーは声が綺麗だから、きっと上手でしょう」 「そうかな……」 年頃の少女にしてはマリーの声は少し低い。 ハスキーだと言うわけではないが、微かに酷使したような声帯は、アルト程の心地よい低さを持ち声を生む。 「ねぇ、お願い」 「まぁ…私も歌って貰ったしね」 そう微かに微苦笑しながら、何を歌おうかねと独り言のように呟き、マリーは窓の外に視線を移した。 「そうだな───我が家に伝わる、古い歌をお聞かせしようか」 「カウンシルの?」 不思議そうに目を瞬かせるレイナに、マリーは碧眼を細め緩く微笑んだ後、微かに息を吸ってから言葉を旋律に乗せた。 我々とドラゴンは兄弟である 血を分かち合った真の兄弟である しかし始めの兄弟が 我々とドラゴンとの姿形を違えてしまった ドラゴンはその姿を誇り ドラゴンは力と地位を持っていたが 優しさと愛を持っていない それを嫌がり“人”と成り 鋭い牙と翼を失ったが 歌う声と走る足を手に入れた 姿を違えた兄弟は それでも兄弟であり 我々はドラゴンとともに生きて死ぬだろう ドラゴンは翼を持ち 我々は言葉を持ち 我々はドラゴンとともに戦いその歴史を歩む 我々はドラゴンとともに生きて死ぬだろう 兄弟はいつもともに 決して離れぬ血の誓い だからお前に我が名をやろう それが“人”の身を縛る誓いになる ならば貴方に我が名をやろう それが“ドラゴン”を縛る誓いになる 例え世界が我々を人とドラゴンに区別しようとも 分かつ事のない繋がりと誓いを 我々は兄弟である 兄弟はともにあるべきである だからその柔き手を 我が強く鋭い手に重ね 空を切り裂く翼に委ね 我々はともにあろう だからその轟く声の代弁を 我が清らかな声に重ね 地面を蹴り走る足に委ね 我々はともにあろう 我々とドラゴンは兄弟である 血を分かち合った真の兄弟である 我々はドラゴンとともに 不思議な旋律を持って歌われる歌を聞くレイナには、話し言葉と違い所々単語がわからず歌詞の内容をはっきりと知る事は出来なかったが。 微かな悲しみを孕んだ暖かな歌である事だけはわかった。 マリーはそんなレイナの視線に気付いていないのか静かに歌い続けている。 レイナはその横顔を見つめながらその歌を聞いていたが、ふと聞こえた物音に振り返れば。 廊下の向こう側に、スネイプが立っているのが見えた。 微かに眉をひそめた目は歌うマリーの横顔を見つめていた。 レイナはズキリと軋んだ胸を押さえて、スネイプから無意識に視線をそらした。 これ以上、今のスネイプを見つめていたらその目に写る、何かを知ってしまいそうでレイナは目を伏せた。 我々は死してなお その声で言葉で世界を縛る 我々は死してなお その力でそのか弱き身を守る 我々はドラゴンとともにある カウンシルは我々の名前 ガブリエルは従える者に名誉と力を与える 我々はいつもともにある 我々は── ふと、歌うのを止めたマリーが微かに息を飲んで廊下の先を振り返った。 ──スネイプが立つ場所の反対の廊下に、ダンブルドアが立っていた。 「ダンブルドア先生」 座っていた窓辺から降りたマリーは、ゆっくりと近づいてきたダンブルドアに向き直った。 「久しぶりじゃの、君がその歌を歌うのは」 「あ、いえ、その……気まぐれです」 穏やかに笑うダンブルドアの言葉に、珍しく口ごもったマリーは視線を泳がせた。 「ダンブルドア先生は、前に聞いた事があるんですか?」 「もちろんじゃよ。 他にも彼女の一族の歴史を伝える歌がいくつかあるからの」 興味津々のレイナに、今度聞かせてもらうといいと、言ったダンブルドアにマリーは苦く笑った。 「しかしのぉ……“誓いの歌”を歌うのは珍しいの」 「気まぐれです、本当に」 苦々しく細めた目でダンブルドアを見上げたマリーに、ダンブルドアは苦笑した後、その小さな肩を優しく叩いた。 「マリー、ちょっとわしに付き合っておくれ レイナ、悪いがマリーを借りていくよ」 「あ、はい」 「ごめんね、あとで」と言って#マリーはレイナに微笑んだ後、ダンブルドアに促され歩きだす。 レイナはぼんやりとついていけない会話の内容を思い出しながら、その背中を見送る。 ──ふと伸ばした手が届かないように、マリーはどんどん遠くにいってしまうような気がする。 不様に伸ばしていた手を下ろして、一つ溜め息を吐くとレイナは背後を振り返った。 そこにはスネイプの姿はもうなかった。 何もわからない、知らないまま一人立ち尽くしているような感覚に、レイナは逃げるようにその場から離れた。 ・・・ 三大魔法学校同士の対決を前に、ホグワーツ他二校のボーバトンとダームストラングの代表団が到着するという10月30日の朝。 朝食をとりに大広間に下りていくと、そこはすでに前の晩に飾り付けが済まされていた。 壁には各寮を示す巨大な絹の垂れ幕がかけられ。 グリフィンドールは赤地に金のライオン、レイブンクローは青にブロンズの鷲、ハッフルパスは黄色に黒いアナグマ、スリザリンは緑にシルバーの蛇のモチーフが折り込まれている。 大広間の上座にある教職員テーブルの背後には1番大きな垂れ幕があり、ホグワーツ校の紋章が描かれていた。 それをぼんやりと見上げていると、誰かが隣に立つ気配に顔をそちらに向けた。 ドラコ・マルフォイがそこにいた。 「──何か?」 「以前の礼を、まだ言っていなかったと思って」 苦々しく言いながら照れがあるのか彼の頬は微かに赤い。 以前の、というのはおそらくマルフォイがムーディにケナガイタチに変えられた時の話だろう。 「気になさらなくとも、構いませんよ……」 「女性に貸しを作ったままというのが、嫌なだけさ」 そう言って向けられた視線は、その借りを返す為に何か要求してこいと促していた。 名家である彼にしたら物をねだればある程度の貸しは返せると思っているのかも知れないが、なにぶん困った事に自分は物欲というものが極端に少ない。 「考えて、おきますよ……」 そのうちと、言って逃げながら、1番良いのは彼がこの事を忘れてしまうのが最良だが、この様子だと簡単には行かなそうだ。 「そうか?なら、一緒にホグズミードに行かないか。 そこで良いのがあれば、買ってやろう」 「あー……」 相変わらず、というか彼の一族らしい高慢な言葉に思わず苦笑する。 そして、その金を作り息子に与えている男の事を思えばドロリとした憎しみが胸に滲み、そんな金で買った物など持っていたくないと心底思えたが、目の前の彼にそれを悟られる考えはマリーにはない。 ──ドラコは、ルシウスではないのだ。 「むしろ……ホグズミードの散歩に付き合って下さい。 それだけで結構ですよ、私は対した事をしたわけじゃないし」 「──ホグズミードには行ってくれるのか?」 「貴方の隣によくいる女子の先輩にヒステリーを起こさないように、貴方がきちんと説明してくれるなら、ね」 マルフォイの表情に笑みが広がった。 「もちろんだ」 そう言った表情はやはり彼に残る幼さを感じさせた。 いつもは大人ぶっていても、やはり彼も十代だなと年寄りじみた事を考える。 「なら、次のホグズミードに」 「忙しくなきゃ、構わないですよ」 特に用事はないから問題はないだろうと軽く答え、彼に挨拶をしてから寮のテーブルへとようやく足を向けた先で、足元ばかりを見ていたせいか踵を返した瞬間に人にぶつかった。 「あ」 後ろからマルフォイの間抜けな声を聞きながら、同じく片手をあげたままの体勢で誰かの懐に飛び込んだ状態で固まる。 誰かの──否、くしくもローブに埋まった鼻先が感じるのは嗅ぎなれた少し薬臭い匂い。 思わず水膜が揺らいできつく目をつぶっていると、大きな手が肩を掴んで、案外やさしい手つきで引き離された。 「よそ見をするんじゃない」 「すいません……」 掴まれたままの肩をどうする事も出来ぬまま、真っ直ぐに見下ろす黒い瞳が逃れようと視線を揺らす。 「申し訳ありません、教授」 「──なぜ、君が謝るのかね、ミスター・マルフォイ」 「僕がついていながら」 「………」 先輩としての何かだろうか、スネイプが掴む肩の反対側に手を置きながらマルフォイは弁解するように言う。 というか、何と言う状態なのだろうかこれは。 スネイプは肩を掴むマルフォイの手を見た後、こちらを見上げる少年を睨み付けるように見下ろした。 彼の唇が微かに動き言葉を発する前に、マリーの視界からスネイプが消えた。というか、転んだ。 「きゃああああ、スネイプ先生ごめんなさいぃい」 「……レイナ?」 転んだというのか倒れたというのか、そんなスネイプに駆け寄って悲鳴をあげているのはレイナで、マリーは一瞬状況が読めずに動揺した。 しかし転がるものにマリーはようやく状況を判断する。 「か、“噛みつきフリスビー”……」 「ごごごごめんなさい、フレッド達が投げて見ろって言うのを、私鵜呑みにしちって!!」 スネイプのローブにがっつりと噛み付くフリスビーを、必死で離そうとしているレイナに一つ溜め息を吐く。 タイミングよく助けになったなとレイナが来た方向を見れば、爆笑する双子の隣に親指を立てたハーマイオニーがいた──否、彼女に助けられたらしい。 「マリー!どうしよう、離れないよ〜!!」 床に膝を着いたままブルブルと肩を震わせるスネイプの背中のフリスビーを引き離そうとしているレイナには、その溢れんばかりの不機嫌なオーラに引いている生徒達は見えないぐらいに必死なのだろう。 理由など、言うまでもない。 「──……」 伸ばした指先がレイナが掴むフリスビーに触れた瞬間、唇を微かに動かす。 緩んだ歯から、直ぐさま彼のローブを引き離す動きのまま、後ろも見ずに投げ返せばユニゾンの悲鳴が響いた。 「大丈夫ですか、教授」 静かに尋ねた言葉に答える事なく、バサリとローブを翻して立ち上がったスネイプは青筋が浮いた厳しい表情のまま。フリスビーに噛み付かれ悲鳴をあげる双子の元に足音荒く向かっていってしまった。 その背中をぼんやりと見送りながら、踵を返した背後で減点を告げる声が響く。 「マリー!」 呼び止めるようなレイナの言葉に視線だけ振り返りながら、追い掛けてくる彼女を待つ。 「大丈夫かな?私、減点されなかったけど……」 「朝から怒られるよりはましだろう、気にするな」 何故、彼がレイナの減点をしなかったのかなど、自分には知る方法などない。 それに、その理由を考える権利など、今の自分にはない──否、放棄したのは自分なのだ。 「マリー?」 「………なんでもないよ」 緩く笑った口許は、微笑みと言うには自嘲的な苦みが強かった気がする。 黙り込んだマリーを怪訝そうな目で見てくるレイナの視線を受け止めながら、マリーはこの浮ついた空気のせいだと心中悪態をつく。 対抗試合など興味はない──今日が、いやこの一年が無事に終わればいい。 マリーの碧眼にはもはや、諦めの色が浮かんでいるようだった──何についての諦めかなど、おそらく知る人物は、その様子を離れた場所から見守っていたダンブルドアくらいだ。 知る人物を、減らしたのは彼女自身なのだから。 ・・・ スネイプは、“裏切り者”──カルカロフを冷たい目で見据えていた。 出迎えと言うよりは監視に近い目的で、スリザリンの生徒達の後ろからその男を睨む。 無駄なほどの派手な登場に騒ぐ生徒達の頭越しに、ダンブルドアと握手を交わしながら上っ滑りに愛想の良い男に思わず舌打ちすると、最後尾の生徒が怯えたように振り返って来たので、さらに忌ま忌ましく思いながら視線を反らす。 その先で止まった視線に、ざわめき浮足立つ生徒の中、殺気でも篭っているんではないかと思う程の冷たい目でカルカロフを睨んでいる姿を目に止める。 あの時と同じ──少女には不似合いなくらいのほの暗さを保有する碧眼は、無意識の行為か爪を立ててるのではと思う程筋の浮いた手で片目だけ隠されていた。 引き結ばれた唇が微かに動いたが、読み取るまでには至らなかった。 スネイプはもう一度舌打ちすると、視線をカルカロフに戻した。 最後尾の生徒は肩をびくりと揺らしたが振り返りはしなかった──正常な判断である。 カルカロフとダンブルドアに続き、ダームスラングの一行が城に入って行くと、寮監としての整列したまま大広間に向かうよう指示を出す。 うごめく自寮の生徒達の頭越しに、再びあの少女の姿を探したが上手く見つける事は出来なかった。 「先生」 微かに列を抜け側に来たマルフォイに、朝の事を思い出し微かに苦々しい思いが浮上したが、上手く押し隠すとなんでもないように父親似の顔を見下ろした。 「ダームストラングの生徒達は、スリザリンのテーブルに着いていただく。 失礼はないようにしたまえ」 「しかし、先生──カルカロフは……」 いい淀んだマルフォイにそれ以上は口に出さないように視線で釘を注す。 「それ以上口に出す必要はあるまい、ミスター・マルフォイ。──上手くやれ」 「わかりました」 今度は素直に頷くとマルフォイは列に戻っていった。 マルフォイの懸念は、彼の立ち位置を考えればよくわかる。 カルカロフは裏切り者だ──自分と同じように。 しかし、自分と奴との違いは背負う使命ぐらいだ。 逃げた奴と違い、自分はまだ逃げるわけにはいかず、どっちつかずのスパイへと成り果てている。 本当の立ち位置を知る者はどれくらいいるのだろうか。 スネイプは苦く口の端を歪めた。 わかりにくく、心を隠す術は昔から持っている。 今更、誰かにこの不安定な心を理由に縋る気はない。 ただ、どこか不思議に思う気持ちがあるのだ。 自分は本当に今まで、一人でこの辛さに耐えて来れたのだろうか、と。 『一人で出来る限界──』 思い出されるのは誰かが言った、ノイズかかった穏やかな言葉。 その言葉が本当なら──スネイプは最近感じる、自分の足元にある薄っぺらい氷のような地面にヒビが入っていくような不安感に体を震わせる。 「スネイプ教授?いかがいたしました」 「──いえ、何も」 後ろにいたらしいマクゴナガルの気配にも気付けなかった自分に再び忌ま忌ましさを感じながら、それを表に出さずなんでもないように気遣わしい視線から逃れる。 生徒達の後から大広間に入れば、クィディッチの選手であるビクトール・クラムの存在に完全に浮足立っていた。 スネイプは呆れたようにそれを一瞥した後、教職員テーブルに向かった。 教職員テーブルに椅子を追加しているフィルチを見ながら、グリフィンドールの席にあの少女をようやく見つけた。 先程の澱みはなりを潜めたようで、どこかぼんやりとした碧眼が揺れる寮の紋章が掛かれた幕を見つめているようだった。 スネイプを含め教授陣が席に着くと、最後にダンブルドア、カルカロフ、マダム・マクシームが入塲してきた。 ボーバトン生はマダムが入場するとパッと起立し、彼女がダンブルドアの左手に着席するまで座らなかった。 ダンブルドアのほうは立ったまま、大広間を見渡し生徒達が静かになるのを待った。 「こんばんわ、紳士淑女、そしてゴーストの皆さん。 そしてまた、今夜はとくに、客人の皆さん」 ダンブルドアは外国からの学生全員に向かって、ニッコリとした。 「ホグワーツへおいでを心から歓迎致しますぞ。 本校での滞在が、快適で楽しいものになることを、わしは希望し、また確信しておる」 ダンブルドアの言葉に、ボーバトンの女子学生が嘲笑と取れる笑い声をあげたが、それはピタリとおさまった。 何故だか怯えたように後ろを振り返っていた所を見ると何か、ホグワーツの生徒に言われたのかもしれないが、スネイプに取っては興味がない事だった。 「三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される──さぁ、それでは大いに飲み、食い、かつ寛いでくだされ」 ダンブルドアが着席すると、目の前の皿が料理で満たされていく、わっと騒ぎ出した生徒達を一瞥しながら、スネイプはワイングラスを傾けた。 料理は見た事がないほど色んな料理が並び、はっきり外国料理とわかるのもいくつかあった。 他校のいる大広間は見慣れない服ばかり見るせいか随分込み合っているように思えた。 マリーは、ハーマイオニーに進められたブイヤベースの貝をフォークで遊びながら、溜め息をなんとか飲み込んだ。 隣のレイナは、うきうきと異国の料理を皿に沢山盛っている──全部食べ切る気なら、しばらくは彼女に食事制限を言い渡すべきかと真剣に考える程だ。 「あのでーすね、ブイヤベース食べなーいのでーすか?」 ふわりとかけられた声に視線だけで振り返れば、先程ダンブルドアの挨拶の時に笑った、あのボーバトンの生徒だった。 マリーはダンブルドアを見下すような態度を許す気はなく、思わずあの時余計な事を呟いてしまったが、聞こえていなかったのか。 笑う口許からは真っ白で綺麗な歯並びが見えていた。 皿を押しやると、少女は大きな深いブルーの瞳を少しだけ大きくさせた。 彼女が動くたび、長いシルバーブロンドの髪が、さらさらと流れた──美しい人間だが、特に心が打たれる程ではない。──男達は別だが。 「もう食べ終わりまーしたかでーすか?」 「あぁ」 少女は零さないように皿を持ち上げると、すぐに視線を逸らしたマリーを困ったように見下ろした。 「気を悪ーくしたのなーら、すみませーん」 柳眉を儚げに下げた少女に、マリーは溜め息をついた──悪態は困った事に届いてしまったらしい。 「いえ、私も言い過ぎました。 貴女の滞在が良いものになりますように」 振り返ったマリーを見て、少女は皿を持ったまま微笑んだ。 「フラー・デラクール。あなーたは?」 「マリー・カウンシル」 そう名乗り返すとフラーは顔を近付けると、動かないでいたマリーの頬に挨拶程度のキスをすると、ようやくレイブンクローのテーブルに戻っていった。 ハリーが途端に笑い出したので、視線を戻せば真っ赤になったロンがはっとしたようにこちらを見た。 「いいなぁ、マリー!あの女、ヴィーラだよね絶対!」 「多分ね」 曖昧に答えながら、冷めたブイヤベースをスプーンに掬った。 「マリー、一体彼女に何を言ったんだい?」 「……ハーマイオニーと対して変わらない事、少し“混じった”のかもね」 曖昧に濁した意味に気付いたのか、ハリーが苦笑した。 「残りの席につく人達が、到着したみたいね」 ハーマイオニーの言葉に視線だけ教職員テーブルに向ければ、残された二席にルード・バクマンとクラウチ氏が着いていた。 「一体何しに来たのかな?」 「対抗試合を組織したのは、あの二人なんだろう」 ハリーの疑問に、マリーは静かに答えた。 しかし、ハリーはマリーのぼんやりとした視線が、その二人ではなくカルカロフ校長を静かに見据えている事に気付いていたが、それが何故なのかまではわからなかった。