買い出しもすべて終わり、サカズキと二人で夕暮れに染まり出した道を歩く。 何やかんやと色々買ったため、二人とも両手が塞がった状態だ。 「サカズキ、重くないか?」 「大丈夫」 「そうか、頼もしいな」 野菜の入った紙袋を両手で抱えるサカズキにそう言って笑いかけると、恥ずかしそうに顔を反らされた。手が空いていたら撫ぜてやったのだが。無念。 家に着くと、行儀が悪いが爪先で玄関ドアを叩いた。 「開けてくれ〜」と中に呼び掛ければ、ばたばたと足音が近付く。 ばっと勢いよく開いたドアにサカズキと目を見開いて驚いていると、ドアを開けてくれた張本人がにかっと笑った。 「おかえり!!」 「ちょっと〜……クザン、君ねぇ。 確認してからドアは開けようね……おかえりなさい」 ドアを開けたクザンと後から追い付いたボルサリーノに、アマリアは「おう」と頷く。 「ただいま」 そう応えて玄関ドアを潜る、続くサカズキも小さく「ただいま」と呟いて家に入った。 「いや〜寒い寒い」 ダイニングテーブルに荷物を置き、サカズキの持っていた荷物も受け取りそれも並べる。 「ごくろうさん」と言って頭を撫ぜてやると、照れたのかすぐに逃げられてしまった。 「これ何?」 ダイニングテーブルの上を覗き込む為に椅子に登り立ち上がったクザンに、ハンバーグの準備であることを告げる。 「ハンバーグ?」 「そ、肉だよ肉」 「肉!!」 やったー!と素直に喜ぶクザンの頭を撫ぜてやりながら、買って来た荷物の選別を行う。 先に小さな紙袋を3つ引っ張り出すと、それを傍にいたボルサリーノに渡した。 「これ、三人で好きなの選んでくれないか?」 「これは……?」 「簡単な日用品だよ。歯ブラシとか下着とかパジャマとか。 分かりやすいように三色で買ったから、好きな色を選んでくれ」 紙袋に貼ったシールが中身の色だと、袋の口を止める丸いシールを指差す。 「おれ、青がいい!」 「ちょっと待ちなさいよ、クザン〜」 きゃいきゃいと騒ぎながらリビングに歩いていく三人を見送って、アマリアはハンバーグの材料をカウンターに置いて、他のものは取り合えず冷蔵庫に突っ込んだ。 それから最後に残った白い箱を、そっと食器棚の一番上に置く。 「お前は、勝手に……!」 「何だよ、やんのか?!」 「君ら、いい加減にしなさいよ!」 背後で僅かに変わった空気の温度に、振り向かないままアマリアは口を開いた。 「喧嘩に“能力”は使うなよ」 途端、びくりと震えた気配に口の端を持ち上げながら、椅子の背にかけておいたエプロンを着用する。 「うちにいる間の“お約束”な。 守れないやつには、こわぁ〜いお仕置きだぞぉ」 少しだけ振り返ってにやりと恐ろしげに笑ってみせると、三人は音を立てて固まる。 顔を青ざめさせたクザンと違い、年長組は顔がひきつっているものの怯えはないようだった。 「ほら、さっさと決めちまえ」 ひらひらと手を振って、流しに買って来た玉ねぎを2個転がす。 背後ではようやく硬直の溶けた三人が、こそこそと静かに話し合い始めた。 玉ねぎをちゃっちゃと微塵切りにすると、コンロの下の棚からフライパンを出してバターを引いてそこにどっさりみじん切りされた玉ねぎを放り込み炒めていく。 火の通り出した玉ねぎの良い香りが漂いはじめる頃には、ようやく決まったのか三人がキッチンに戻って来た。 「あの、何か手伝いますよぉ」 「おう。じゃあ、この玉ねぎを炒めていてくれ」 「はい」 「狐色になってきたらいいからな」 手伝いをかって出たボルサリーノに炒め玉ねぎを任せる事にして、玄関の隅に置いてあった小さな木箱を引っ張って来て踏み台変わりに使わせる事にした。 「おれも!おれも何かする!!」 はいはい!と手を上げるクザンの後から付いてきたサカズキも、「自分もだ」と言うように頷いている。 「じゃあ、クザンはサラダ用のレタスをちぎって貰おうか」 「うん!」 袋から出したレタスの玉をクザンの手に乗せてやる。 「一口に入るサイズに手でこうやって小さくちぎってくれな?」 クザンをキッチンの椅子に立たせ、テーブルに置いたザルにレタスをちぎって見せると「わかった!」と元気な声が上がった。 「サカズキは、包丁使えるか?」 「……たぶん」 「うん。なら、ピーラーを使おう。これでな、人参の皮を剥いてくれ」 サカズキの手にピーラーと人参を渡してクザンが立つ椅子の隣の椅子でやることを勧めると、サカズキはこくんと頷き自分で椅子に上がった。 「アマリアさん、玉ねぎ炒まったよ〜」 「お、そうか」 コンロの火を止めて木箱から降りたボルサリーノの頭を「ありがとうな」と言ってぽんと撫ぜる。 驚いたように首を竦めてから、ただ撫ぜるだけの手にボルサリーノは反応に困ったように笑った。 (何ともまぁ、誉められなれてない反応だ) 子供らしからぬ反応に浮かんだ苦い感想は表に出さずに飲み込んだ。 食器棚から出していた皿にその炒め玉ねぎを移していると、ボルサリーノがちいさく首を傾げる。 「それ、どうするんです?」 「冷まさなきゃないからさ。 あんまし時間もかけたくないし、今回はずるして冷蔵庫で冷やそうかと…」 「それなら、クザンなら一発ですよぉ」 「んん?」 ボルサリーノの言葉に思わず首を傾げる。 こちらの困惑を知ってか知らずか、ボルサリーノはアマリアの手から皿を受け取ると、クザンの方にそれを差し出した。 「クザン〜」 「なに?」 「これね、冷してちょうだいよ」 目の前に差し出したほかほかの炒め玉ねぎが乗った皿を見て、クザンは「うん」と頷いた。 クザンの小さい手が皿の上に翳される。 「凍らせちゃあ、ダメだよ〜」 「え〜、わかった」 瞬間、クザンの手が氷に変わりひんやりとした白い冷気が皿にかかる。 呆然としたまま、それを見つめていると冷やされた皿を手にボルサリーノが振り返った。 「あ〜少し凍らせちゃった……でも、冷めましたよ〜」 「…………」 「どうしました?」 「いやぁ……」 そういや、あの人何も言ってなかったんだけど。 「お前らの能力、何なのか全く教えて貰ってなかったなぁ……と思って」 「え?」 驚いた顔の三人に、アマリアは曖昧に笑った。 「あとでちゃんと教えてくれな?」