ジーナの帰りを祝う宴は、それはもう盛大なものだった。 ナミュールの隊が大きな海獣を仕留めて来たらしく、それをメインにサッチ達コックが腕を奮った大層なご馳走に舌鼓をうちながら、エースはこの宴の主役であるジーナをちらりと見やった。 オヤジが座る場所の傍の段差に腰掛けオヤジと嬉しそうに話しつつ、ジーナは度々訪れる古い馴染みの仲間達に笑顔で応じている。 香ばしく焼かれた海獣の肉をごくりと飲み込んだエースの隣から、スペード海賊団からの付き合いの男が「ねぇ、隊長」と声をかけてきた。 「さっきからあの人に声かけてるの、みんな隊長やら幹部クラスの人等ですよね……? 一体何者なんですか、あの人」 そう耳打ちして来た男に、そうだなぁと気のない声で応えながらエースはまた肉をかじった。 「とりあえずは、さっきオヤジが説明した通りなんだろうよ」 「まぁ、そうでしょうが……」 「あと、ソフィ姉さんよりも前から船に乗っているらしい」 「まじっすか」 男はエースをぎょっと見てから、ジーナの方をまじまじと見てもう一度「まじか……」と呟いた。 恐らく、エースを初めとして初対面の船員達の反応はみんな似たり寄ったりだろうと思う。 ジーナを知らぬ者も今じゃこの船に少なくなく、宴が始まる前にオヤジとマルコからの紹介があった──前と同じく一番隊の所属になるらしい。 綺麗な顔立ちのジーナに、ぽぉっと頬を染める者やヒューと小さく口笛を吹く者もいたが、彼等は気にしていない本人の背後に立つマルコの射殺さんばかりに睨む視線に青ざめていた。可哀想に。 そんなこんなで、一部不穏な気配が立ちつつも無事紹介を終え宴が始まってしまえば、主役そっちのけで騒ぎ出す奴等が殆どだが、ジーナ本人はそれをどこか懐かしそうに見つめていたのが印象的だった──船を離れている間、一人、“家族”を恋しく思う事もあったのかも知れない。 「エース」 「っうお?!」 考え事をしていたせいか後ろからの声に盛大に驚いてしまった。 慌てて振り返れば、呆れた顔のマルコが料理が乗った皿を片手にエースを見下ろしている。 「なに変な声出してんだよい」 「あ、いや〜……肉に集中してまして」 流石にあの睨みを見た後で「ジーナさんの事を考えていました」なんて、マルコの前で言う自殺行為をするほどエースは空気が読めないわけじゃない。 エースの苦しい言い訳に片眉を器用に跳ね上げただけで、マルコは深くつっこんでは来なかった。 「で、なんか用か?」 「あぁ……この皿に、その大皿の料理を持ってくれないかい」 「え?これか?別にいいけど……」 「あ、俺がやりますよ隊長!」 マルコから皿を受け取った男が2、3つ皿に料理を取り上げると、マルコにそれを返した。 「助かったよい」 ちらりと見た皿に乗せられた料理は、今日のご馳走が乗っているがその品々に少し違和感を感じてエースは首を傾げた。 「それ、マルコが食うのか?」 「いや、ジーナに持ってくやつだ」 ケロッと何でもないように答えたマルコに、やっぱりかと思いつつもエースはいい加減、動揺が隠せない。 お前、そんなマメな男じゃなかったはずだ!! 「サッチがジーナのためにせっかくアイツの好物を作ったってのに、食べてねぇみたいだからねい」 マルコの視線は仲間達に話しかけられているジーナに向けられいる。 その優しげな眼差しに、エースはごくりと喉を鳴らした。 「──あぁ、邪魔したな。ありがとうよい」 「お、おう」 ひらりと手を振っていってしまったマルコは、真っ直ぐにジーナに向かって歩いている。 その背中を見送りながら、男は「マルコ隊長とも仲が良いのか……」と呟いていたが、ちと違うような気がエースはしていた。 この宴の騒ぎでは、エースがいる場所から距離がある為、何を話しているのかまではわからない。 マルコはジーナに絡んでいる酔っぱらいを何事か言って追っ払った後、手を振って見送っているジーナにも何か小言を言ったようだ──何でって、ジーナさんが拗ねた顔で唇を尖らせているからだ。 その後のマルコの行動に、エースは流石に飲んでいた酒を吹き出した。 マルコはジーナの後ろに回ると、ジーナが座る段の一段上に腰掛けたのだ。ただ腰掛けたのではない、完全に真後ろの位置にしかも足の間にジーナを挟み込むように座ったのだ! エースは口の回りを酒で汚したまま唖然とその様子を見つめていた。 脇から差し出された皿に不思議そうな顔をした後、ぱっと顔を輝かせたジーナは顔を反らして後ろのマルコを見上げる。 (わ、近ぇ) 好物が盛られた皿に嬉しそうにマルコに話しかけているジーナにマルコは皿を手渡した。 声は届かないものの、あの表情から見て確実に「ありがとう」と感謝を告げたジーナは、マルコから渡されたフォークを受け取り一口食べては嬉しそうに笑う。 (それを見て、幸せそうに笑うマルコだと……あんな穏やかな顔、そうそうみたことねーぞ?!) マルコはマルコで、ジーナが手にしていたグラスは貰い受け、料理を幸せそうに食べているジーナの後ろで、ごく自然にそのグラスを傾け酒を飲んでいる。 「……隊長」 「……なんだ」 「あの二人って……」 「……出来てないそうだ」 「まじっすか」 「おう」 嘘だぁと、ぼやいたとはさてどちらだったか。