「ほんっ…と、相変わらずだね、お前らは」 ようやく料理作りも一段落し、仲間からの「隊長は先に行っててくださいよ」と言う言葉に甘え、サッチは甲板に出た。 間違いなく今回の主役である彼女はオヤジの隣を陣取っているだろうと読んで真っ直ぐにそこに向かえば予想通り──そして案の定。 「あ。よぉ、兄弟!ご馳走さま、好物ばっかりありがとう!」 サッチが思わず漏らした声に気付いてこちらを振り返り嬉しそうに破顔したジーナに、「よぉ」とサッチは片手を上げながら笑みを溢す。 「どーいたしまして、旨かったか?」 「サッチの飯が不味かった事あるかよ。すごい、旨かった」 ありがとう、と歯を見せて笑うジーナは相変わらず真っ直ぐに言葉をかけてくる。 そう誉められちゃコック冥利に尽きると言うものだが、照れ臭さにジーナの頭をごちゃごちゃと撫ぜた。 「──んで、一番隊の隊長まで侍らしちゃってぇ……すんごい待遇の良さだな、今回の宴の主役は」 予想通りオヤジの隣に座っていたジーナは、その真後ろを陣取るマルコの太股に腕を乗せて、胸に寄りかかるように座っている──案の定、この鳥野郎もジーナの傍をキープしていたようだ。 (久々の再会にネジ飛んでんじゃねぇーの、コイツ) 以前よりさらに近い距離感に、サッチは呆れた眼差しをマルコへと注ぐ。 本人は重たそうな瞼の下でそれを受け止め、それからそ知らぬフリで酒を飲む。 「あ、コラ、マルコ!アンタ、さっきっから私の酒勝手に飲むな!!」 マルコが傾けるグラスを奪おうと手を伸ばすジーナを、片腕で抱き込むように押さえてしまえば、抵抗出来ないジーナは忌々しげに下からマルコを睨み付けている。 「オヤジ〜!マルコがオヤジが注いでくれた酒飲むんだけど〜」 「ほんの少しだろうがよい。 さっきっからずっとオヤジに注いで貰ってるくせに、ケチケチすんじゃねぇ」 「グラララ、昔っからお前らは変わらねぇなぁ」 じゃれつく子供達のやりとりに声を上げて笑うオヤジも娘の帰りにえらく上機嫌なようだ。 「船に乗った時から、お前はジーナにべったりだったからなぁ」 「別に……ガキん時だけだっただろうがよい……」 「マルコォ、お前今の状況省みて見ような……?」 「マルコ、いいから酒!」 拗ねた顔でいるジーナにマルコは溜め息を吐いてグラスを返す。 それをニコニコと笑いながら受けとったジーナの額を、マルコはグラスを手放した事で空いた手でさらりと撫ぜた。 (あぁ、もう幸せそうな顔しちゃって……) サッチは呆れ混じりに笑うと、ジーナ達の隣に腰を下ろす。 それをちらりと見た後、マルコは黙って未使用のグラスをサッチに渡した。 「あんじゃねぇか、グラス」 「お前用だよい、どうせこっちに来るのはわかってたからな」 暗にジーナもいれば三人揃うのが当たり前だろうと言われた気がして、サッチは尻が落ち着かないようなむず痒さを感じた。 「……あーそうですか」 「サッチ」 「んー?」 ジーナは「ほら」とビンをサッチに向ける。あぁ、と気付いて酌を受ければ、ジーナはまた笑った。 (コイツもまぁ、嬉しそうな顔しちゃって) 船をこんなに離れる事など、幼い時分に船に乗ってから三人ともそうなかった。 1人オヤジの使いで船を離れ、戻って来たら知らない家族が増えている。ジーナは何も言わないが、思うことがあったのは確かだ。 だからマルコも、他の顔馴染み達もジーナの元を訪れるのだろう──だからってマルコはべったりし過ぎだが。 「ジーナ」 「ん?」 「おかえり」 グラスを掲げてそう言えばジーナはきょとりと瞬くと、不意にくしゃりと顔を歪めて笑った。 「ただいま」 二つのグラスがぶつかって音をたてた。 「サッチにも土産があるんだ、後で渡すね」 「おう、楽しみにしてるな」 「おい、ジーナ。俺にはねぇのかい」 「あるよ、ちゃんとある」 くふくふと抑えたような笑みを溢しながらジーナは始終嬉しそうだ。 マルコとサッチは顔を見合わせて笑った。全くもって、何よりである。 三人のそんな様子をじっと見守っていたオヤジも、静かな声色で笑う。 あぁ、家族が揃うとはなんて良い事だろう。