学園の休日。忘れ物を土井先生の長屋まで届けに町に出たついでに、久々に店なんぞを冷やかすように見て回る。 見渡す町並みは、ここ数年で見慣れたものの、やはり故郷とは違う景色に落ち着かない心持ちは変わらない。 歩く人並みの様相も、町並みも、生まれ育ったそことはまるで違う。 店の者と話し込む赤子を背負った母親も、カゴに品を山ほど乗せて客寄せをする棒手振りも、見慣れつつもどこか異国の景色に見えてしまう。 湧き上がるような郷愁に蓋をして、出先に頼まれたお使いを脳内から引っ張り出す。 (あぁ……そうだ、学園長のお団子は買い忘れないようにしないと) 気持ちを切り換えるのにちょうどいいかと、さっさと件の茶屋に入る事にした。 昼も過ぎてだいぶ過ぎて八つ時に近いころの茶屋は混んでいて、店の横通りからは隠れた位置にある席に案内される。 愛らしい看板娘に自分用に3本、それから学園長への土産用に10本ほど包んで貰えるように頼んだ。 出されたお茶をいただいていると、隣に座っていた行者がこちらに向かってぺこりと頭を下げてきた。 微かな違和感に目を見開いていると、顔を上げたその男は包帯の隙間から唯一覗く隻眼を細めて笑う。 「──あぁ、タソガレドキの」 「そう。ねぇ、私の名前知らないわけじゃないでしよう?」 「……雑渡」 「ふふふ、嫌そうだね」 嫌々と名を呼べば、それでも男は嬉しそうに笑う。 「うみの先生は、休み?」 「……貴方は仕事か」 「気になる?」 「タソガレドキは、学園の敵だから」 「もう少し色気のある理由だったらいいんだけど」 いくら変装しても誤魔化せない火傷痕を隠す包帯の下、男は苦く笑ったようだ。 茶屋の看板娘が注文した団子を持って来てくれて、それを置くとまたすぐにぱたぱたと店先へ戻っていく。 「可愛らしい娘さんだ」 思っていた事をそのまま音にしたのは隣にいる男で、そうだな、と頷きながら団子を口にする。 噂になるだけ、なかなか美味い団子だった。 「折角の休日なら私としては、君のああいう姿も見てみたいものだけど……」 隣でぶつぶつ小言を漏らす男を横目で睨む。 学園までの道のりとその間の安全を考え、こう言う場合は大抵、男装をとっている。 それが面白くないらしいが、ぶっちゃけどうでもいい。 「ねぇ」 「……仕事の途中じゃないのか」 「いいや、終わった帰りだよ」 「はやく帰れ」 「えー」 「……団子やるから」 文句を垂らしながらも差し出した団子を受け取るあたり、この男もこの団子を気に入っているのだろうか。 包帯の隙間から団子を、なんというか縦につっこむ食べ方は、なんとも言えない。 顔がべたべたしそうだ。 「君は? もう帰るの?」 「……使いも終わったし、そろそろ学園に戻らないと、日が暮れる」 懐の財布から代金分の小銭を取り出しながら答えれば、ふーんと曖昧な返事がきた。 「ねぇ」 くい、っと引かれた袖にこれは男の癖なのだろうかと目を細める。 「このあたりで宿でもとって、二人でしっぽりしな゙っ!」 あと、真面目な雰囲気に持っていっておいて落とすのも巧い。苛立つが。 取り合えず、たん瘤こさえてひっくり返っている男をほっといて、代金を払う為に店先に出た。