作業曲:yann tiersen/ la redécouverte
三馬鹿と遊園地シリーズ:トリックアートハウス
webオンリーイベント サプライズ番外編
玩具箱の劣情
渓谷への出動要請を受けた四人のヒーローはハイキング客を巻き込むことなく無事ヴィランを捕らえたが、崩れ落ちた橋から二名が谷底へ落ち、古ぼけたお社の屋根を突き破る。
手を伸ばす事もしなかった女は真っ直ぐに下を見ていたが、命綱も無しに飛び出した男の声に初めて目をやる。
それは空へと遡る滝壺の飛沫を浴びた黒いグローブだった。
「ひざしが死ぬかと思った」
互いに仕舞いあった思いは、色恋と言うには褪せすぎていたが、今その命が終わっていたかもしれないという危機を前に再び箱を開きあう。
二人で閉じあった蓋を、
どちらともなく、どちらもが、
同じように開けた。
「死ぬときゃ死ぬから」
「うん」
「生きてるうちはよ」
「うん」
「もう一緒に居ようぜ、な」
「うん」
折れた木材に囲まれて脚の間でへたり込む彼女は、伝える前よりも力を抜き、徐々に胸へと沈んでいく。
もう遠慮なく触れる事ができると腕を回せば、僅かに動いた頭が居場所を探すように頬を擦り付けた。
「……ひざし、熱くない?」
「ンー、そりゃそんだけスリスリされればな」
「ちょっと!」
「ホラ、あんだろ?危機的本能とか」
「真面目に言ってるの!」
「オイオイ……積極的じゃねぇか」
腹の服を捲りあげられ、肌に頬と手が触れる。
起き上がった訝しげな目はすぐ肺の辺りに落ちて、
息が上がっている事を見抜いたらしかった。
「ねぇ……もしかして」
「悪ィユメ、もう少し重心こっち側で、腰に乗れるか」
「なんで?……どこ怪我してるの?!足?!」
「落ち着けって大丈夫だから」
「だって」
「痛くて動けねぇんだ、頼む」
守った重みが愛おしくて仕方が無いのに、
また涙を溢れさせ始めた彼女は言うことを聞いてくれず、壁や折れた柱で自由が効かない体を無理やり浮かせようとする。
「どうしたら、これじゃあ、ひざしが」
「動けもしねぇんだ。このまましかねぇ」
「固定するだけでも何とか」
「柱折れちまったからな、下手にやって社ごと落ちたらシャレになんね」
「ごめん、ごめんね」
小刻みに頷くたびに涙が落ち、
泣きじゃくった肩は息を取り込む度に揺れる。
こんな怪我くらいで死ぬ気もないし、応援も呼んである。それを知っていても尚、気が気じゃなくなっていく彼女に思いの丈を見て、思わず口が緩んだ。
「ほら、解ったら早くこっち寄って」
「うん。……これで……いい?」
「イテ、もっと上」
「ごめ…!……大丈夫?」
「腰の骨んとこ乗ってて」
「……これでいい?……もっと?」
静かに重たくなる口が、
開いたままの緩さで止まる。
目を潤ませて傾く顔が赤みを増して、純粋に身体を労わろうと耐える姿に、早く明日へ帰りたいと思った。
「熱上がっちゃった?大丈夫?……ひざし、熱い」
「ユメがいるからな」
「もう!!」
「真面目に言ってんぜ」
「心配してるのに」
「……おいで。……寒ィんだ、あっためてくれよ」
「……こう?……大丈夫?」
「もうちょいキツめ」
胸に戻った純真な温度を抱き締めて、
何年も閉じ込めていた願いが、
想いの他にもある事に蓋をする。
この箱は、
“ずっと一緒に”を叶える明日より後に。
どちらともなく、どちらもが、
同じように開けられれば。
【玩具箱の劣情】
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