作業曲:Jeremy Zucker/Always I'll care
バジリスクが守る箱の中



泊まっているホテルのロビーを抜け、
ロータリーの前に立つ。

間もなくして止まった一台のハイヤーから、
運転手が降りて、後部座席のドアを開けた。


「伊藤デス。ご苦労様」


開いた黒塗りの扉から飛び出したスニーカーは、
記憶に残る素足にしては随分と大きい。

こちらを見上げていたらしい瞳がキャップのつばから覗いて、そんな目で自分を見ているのかと思うと、あまりの煌々さにその手を引いて動力のまま胸に閉じ込めくなる。
そもそも、手を差し出してしまった事さえ失態であるのにと堪え、その手を離す。

エレベーターならと思いもしたが、
邪魔者が居て上手くはいかず。
結局部屋の前に立つまで互いに口を噤んでいた。


「こちらの部屋をご用意しました」


最上階を贈る事もできず、
普段より小さな部屋のドアを開ける。

振り向いて自嘲気味に笑ってはみたが、
帽子を落とした彼女の髪が流れ、緩やかに弾む光景に目を奪われて、憂心は全て溶かされていった。


「やっと会えたね、イトウさん」


駆け寄り、この胸に飛び込むまでの全てが遅れて見えるほど、その微笑みに隠した思いは真っ直ぐに心臓を刺す。


「YoYoハニー、そいつぁ誰だ?俺はひざしだぜ」


首に手を回し、爪先が跳ねたままの彼女と回り、
もつれて沈んだベッドで、何度も唇を重ねる。

胸に擦り寄って静かに目を閉じた彼女から呼吸を感じて、堪らず頭を両腕で抱き締めた。


【バジリスクが守る箱の中】


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