作業曲:Sam Ock/ Work Out
12時を過ぎたクロノス




ドアの前の階段に座り、
立てた長い足をばってんに組む彼は、面白くなさそうに開いた膝の内側に無理やり肘をたてて頬杖を着いている。
これが初めは体育座りだったかもしれないと思うと、勝手に顔が綻んだ。


「HeyHeyユメ。今、なーんじ」

「ごめんね、10分過ぎちゃった」

「ったく悪ぃ子だな」

「ただいま」


立ち上がった彼は、
とりあえず中にとドアを開けて止まる。

やや不機嫌でいるくせに、冷えた事を気にかける手は、通り抜ける瞬間の背を温めるために温度をまさぐっている。
すると扉が締まる音と同時に、それと同じ熱が覆い被さるように身体を包んだ。


「ねぇ、……ただいま……ただいまったら」


拘束が緩むように少しずつ腕をずらし、
振り向いた正面から見上げれば、
ムスッとした唇が山になり、
顎に幾つかシワを作っていた。


「ひーざしくん。たあ、だあ、いい、まあって」


薄開きの不服そうな目はこちらを見ているようで見ていない。だから許しを乞うために、目一杯彼の胸に頭を押し付ける。おかえりをくれるまでぐりぐりをしてやろうと思ったけど、直ぐにその目を見たくなった。


「ごめんね?……たぁだぁいまあって。……ねえ」


閉じられていた唇の線が、
内側の動きを映して、はむはむと波打っている。

糸のように細かった目は大きく開かれていて潤んだように見えたけれど、抗う眉が眉間に皺を寄せて、見てくれだけでも凛々しさを保とうとしていた。


「はぁぁぁ……本っ当にしゃあねぇな」


溜息のロングトーンは何かを諦めたようだった。
意識された表情から力が抜けて、
反対に腕の力が強めの抱擁へと変わっていく。


「ン、甘……ココア??」

「うん。飲みたくなって途中で飲んじゃった」

「ハーン……?どこまでマイペースだハニー?ダーリンとの約束はどうしたァ?」

「間に合う予定だったの、ごめんね。ちゃんとひざしのおいしいおいしいも買ってきたのよ」

「あのね。俺のおいしいおいしいはハニーだろ?」

「嬉しい、ふふふ」

「ココアなら俺が淹れてやっから、次から寄り道はナシだ、OK?」

「うん、そんな事よりねえ……早く、ね。言って?」

「そんな事ォ?!」

「ねぇお願い。早くちょうだい?」

「はぁぁぁ……。おかえり、My sweet」

「だいすき。」

「……他のも貰ってけよ。ン?……」

「ごめんね。明日も早いから週末にたくさん頂戴ね」


見上げれば、彼はまた唇を波打たせていた。
大きな瞳を潤ませて、
この苦悶も悪くは無いといった様子でいる。

腕からすり抜けて先に靴を脱いだ私は、調子を崩した門番に会うための新しい10分を考えていた。


【12時を過ぎたクロノス】


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