作業曲:Jamillions / Sky Is Falling
黙示録と晩餐会





「何か困ってんな」

「うん。とっても」

「俺、何かできそ?」


全ての問いかけに返ってくるのは正解。

口を噤む時があればそれは、
その正解が、
一人では喉元を通らないからだと知っている。


「ンー……“今ここでは……言えないからァ”」


黙ってしまった彼女の顔を伺いながら推測。
この目に戻ってきた視線を、
遠慮がちに曲がる指先を、開きかけた唇を見る。


「飯でも食いながら、ゆっくり話を聞いて欲しい。……どう?」

「どうして当たっちゃうんだろう」


晴れない顔を濁らせて笑う彼女の頭を撫ぜて、
任せとけと言えば、
余韻を残したまま小さくなっていく背。

少なからず、言わせてしまっているのではないかという罪悪感の中で、それでも憶測を甘やかし続けている。

画面の景色を上に上に見送って辿り着いた夜景のカウンターに笑ってくれた場合の彼女を重ねて、本当に全てが当たっていればいいのにと、予約のボタンを押した。


「浮かねぇ顔してんな」

それは彼女へ向けたものではなく、
ブラックアウトした液晶に映る自分自身へ向けた嘲笑だった。



仕事終わりに連れ出した店は、
小型のビルでありながら立派に街の灯りを魅せている。向かい合うことを得意としない者への言い訳には、有難いほど、立派に。


「私、話したいことがあって。貴方に」

「あぁ……解るぜ、多分」


揃ってしまった料理に手を付けずにいる理由が、
互いに、きっとそれに当たる。


「なんで当ててしまうんですか」

「俺も聞かせてくれよ、なんで当たっちまうのか」

「狡いんですよ……いつも…自分の手の内は明かさずに」

「内なら明かすさ。……なあユメ、当たってんじゃなくてよ、……ホントは俺に誘導されてるだけなんじゃねぇの」


彼女の手がグラスのすぐ側で震えている。
隣合った肩が、髪が揺れる。


「私は、……騙されてるんですか」


髪の隙間から僅かに見える輪郭に一筋が流れて。
だからやっと、
夜景を捨てた脚で椅子を回し、
彼女へと向きを変えた。


「今、こっち向こうとした?」


ひくりと跳ね、
言われた通りに振り返る静かな泣き顔が、
胸を鷲掴みにする。

邪魔する横髪を耳へかけて顔を寄せれば、
横目でちらりとガラス越しに店内を見た。


「誰もいねぇよ。貸切」

「だから……なんで、当てちゃうのってば」

「聞きたくて仕方ねぇって思ってくれてんだな」


両頬を掌で包めば、
溢れる涙が道を変えて、手の甲を伝っていく。


「息、忘れてんなって…思ったろ」


短く息を吐き、
潤む瞳をいっぱいに見開いたせいで、
溺れた睫毛が雫から跳ねる。


「……それから…すこし唇が開いて」


既に開きかけた隙間に吸い込まれるように、
震えた甘い呼吸へ向かって、口を寄せる。

きつく閉じられた瞳からは、
捕まえきれないほどの涙があふれ溢れていた。


「……食べられちまうなって」


彼女の椅子は回り、脚はもうこちらを向いている。
無理やり向かせたのか、彼女がこちらを向いたのか、
その始まりには少しも意識が向かなかった。

こんな風になるまでと思うと、唇を食む緩さに熱が篭もっていく。引きずった罪悪感は小さくなれど、胸の内を明かすまではきっと、綺麗に拭われることはないんだろう。


「好きだったら…いいのに…ナ」


もう潮時だと口にしてしまえば、
目の前の切なさにつられて胸が痛む。

俺は彼女に、これと同じ痛みを与えたのかと後悔した癖に、夜景を見たがる衝動をひた隠し、謝罪を口にできない情けなさをただ自嘲に変えた。

――今は、君だけを。


「それも当てたんですか……それとも」

「今のが俺の本音」


夜景に浮かべた、イメージの笑顔には程遠く。

歪んでいく泣き顔は、
唇が離れた後の寂しさではなさそうだった。


「……お腹いっぱいって顔」

「誰のせいですか」

「早く食って次行こうぜ」


もう一度、まだ。

重ねたりない足りない唇を諦めて、
押し付けたグラスと、触れた指を握る。


「今日が記念日、乾杯」



【黙示録と晩餐会】


うやむやにした二人のこれまでに、
最後の晩餐を。



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