作業曲:Amy Winehouse/You Know I’m No Good
anato
mic
(解剖学的)
ほねぬきネオンテトラ
「魚の、外してるみてぇ」
胸元の筋を、銀の骨という。
その長い指先はスライダーを摘み、
務歯
(
むし
)
と呼ばれる目と目の線を下りていく。
かちりかちりと大口を開けるファスナーが、噛みつきあったエレメントの一つ一つを解く度に音を立てて、既に釘付けの私へ、解剖的ストリップで
日常下の非日常を見せつけた。
白いプールサイドベッドに片膝を乗せ、
要の終始点を抜けてしまった革ジャケットが、
二つに折られて落ちる。
骨が取り除かれたのなら、腹を割るこの縦と横の膨らみと線は、水中抵抗で鍛え抜かれた賜物であろう。
この男性らしさに心奪われる女がいる事さえ知っているだろうに、目を細め、今それは私に向けられている。
「何もしねぇよ。ほら」
彼は先行して肌を晒し、
俺にならって着いて来いという。
腰で留まるのをやめたベルトが垂れ、角度を変えた腰つきから革のパンツが滑り落ちる。
躊躇って逃げた視線は高層階からの下界を眺めた。
何度も聞いた「何もしない」の前には必ず付いてきた、ユメを見たいという台詞。そこにはどんなという言葉も添えられていて、それは見せ場の無いこの水着の事をさしていた。
夜景を映して揺れるプライベートスパの水面に、ネオンの縁取りと床に埋め込まれた白光柱が交錯した眩しさ。それでも闇を落とす夜の怪しさに、まだ、落ちたくはないと悪足掻いているというのに。
「見せて」
彼は見ている。
見ている、だけなのだ。
深みを覗きたくは無いのに、
抉
(
えぐ
)
り返すような熱視線がそうはさせてくれず、触れ合えばどうなってしまうのか欲が湧く。
既にサーフパンツへ着替えてしまった彼の、
傾いていく顔の甘い熱にあてられて、遂に観念した指先がプラスチックのスライダーを引き下ろした。
ずるずると留まりなく、白い骨が落ちていく。
身だけを晒し、力なく羽織を落とせば、彼からはくぐもった吐息が反響した。
「おいで」
その目をこちらへ寄越したままの歩調が、ナイトプールへと吸い込まれていく。片足ずつ消えていく彼の姿が暗がりに溶けそうで、慌てて追い掛ける。
見下ろした水面に
揺蕩
(
たゆた
)
う金色と、上目がちに見つめる瞳に誘われて、私は、差し伸べられたその手を掴んでしまった。
水の抵抗を掻き分けて歩む先、小島の如くせり上がったガラス張りのステージへ乗り上げた彼は腕を引き、胸に近い胴を両側から抱え上げて、触れられた熱に驚く間に透明の床へ私を寝かせた。
「何もしないって」
「あァ。見るだけだよ」
開かれた膝立ちから見下ろされ、
挟まれた脚に、髪から滴る水がぽたぽたと伝う。
「濡れてこそ、だろ」
陸にありながら溺れていた事には気付けず、落ちて沈んでも生きていられず、シャーレに上げられた魚では酸素も足りず。
「もっとよく見せてくれよ」
繊細な指先は、
ピンセットのように心臓の結び目を摘む。
行き場をなくした私はただ口をぱくぱくと、
うっとり傾く細目と同じ速度で、息を止めた。
ほねぬきネオンテトラ
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