作業曲:Andy Grammer/
SH
E
'D SAY (with Ladysmith Black Mambazo)
(天文学的×律動的)
a
st
r
ono
mic
×
rhy
th
mic
声の律動
――ラジオを聞いてくれ。どこでも会えるさ
いつかとはいつか。
こんなにも残像を見せるのなら、
そんな事は忘れてしまいたかった。
食べる、眠る、生きる。
当たり前の日々を勝ち取るために最前線で体を張るヒーローがいる事を、それが愛した人だと言うことを自覚するには途方もない時間を要し、飲み込むには喉通りが悪く、応援してるわねとオブラートで包んでも腹に落ちるだけで溶けたりはしない。
身体に吸い込まれてひとつになればいいのに、そばにいて欲しいと邪念が湧いてどうしても消化されない。
――いつか、今より平和の欠片でも掴めたら
――いつか、必ず戻るからよ
平和な街は毎日欠けていく。
道端の花さえ無く、子供達の声すら聞こえない。
交差点の横断歩道は盛り上がって割れ、至る所から水を溢れさせて傾いた一角の澱みへ流れていく。
「あの町はもう無いってよ」
「あんなに居て負けたんだ、もう駄目さ」
「何のためにいるんだ」
身を寄せあって潜み合う人々の目には常に不安と疑心が溢れて、いつだって情報源さえ定かでないヒーローの噂話が溢れていた。
何のためにいるのか。
その問なら、私達が今生きながらえて朝日を拝み、水が飲め、眠れている事が全ての証明であるとよく知っている。
――ユメが息してりゃ幸せなんだよ、俺は
ラジオ、散歩、うたた寝、
唐揚げの入ったおにぎり、特売日の買い物、
濡らし合ったシーツ、痴話喧嘩。
在り来りな生活を捨てて行ってしまった彼がそれと引き換えた世界がこんなにも汚れていては報われないと思う。思うのに、思っているのに。私は、知っているのに。
――眠れてねぇの?いいぜ、俺が
宥める言葉のひとつも浮かばないのは、
もう息をする事でしか彼を迎えられないと知って過ごす毎日に耐えきれなくなっているからだった。
がらんどうのラジオ局の階段を上り屋上へ出れば、吹きすさぶ風が髪を攫って頬を叩く。溢れる涙を連れて、先へ、前へ、私を置いて地平線へと通り過ぎていく。
折れたままの電波塔は随分と前からノイズだけを流し続けているが、アンテナを伸ばし、懲りずに鉄塊を抱き締めた。
――おやすみユメ
――夢ん中でも俺を見ててくれよ
ニュースも音楽も聞こえないラジオから砂嵐を掛け流し、幾つもの幻聴の奥でプレゼントマイクの声を浮かべれば、人体を絞り潰したように涙が溢れる。
近頃では瞼を閉じる度、彼が世界から消える夢を見る。夢さえ見たくない私にはもう、空耳でも妄想でも壊れた鉄塔でも、何でもよかった。
そうして
縋
(
すが
)
っていなければ、
まともな意識を保っていられない。
――俺の幸せェ?ユメが笑ってりゃそれで
難しくなっていく呼吸を、
何がなんでも止めるなと息をする。
昇っては沈む太陽を、必ず来る夜を、
あの人がくれる希望を吸って吐いて、
今は嗚咽を噛み殺せ。……笑え。
――ヒーローFMがテレビに代わって全市民に送る。これから……避難の指示に……い、速やかに……必ず……約……す……絶対に、……いつか……PresentMICがお送りするぷちゃへんざレディオ、この周波数を忘れるなよ。必ず繋ぐ。だから、必ずまた繋いでくれ。
いいか……このラジオの周波数は……このラジオの周波数は…………こ……の……数は…………数は……
私が今見ている世界は
貴方が捨てたものに、見合っていますか。
貴方が居なければ幸せを感じられない私では、
貴方は幸せになれませんか。
私はまだ、貴方の願いですか
こんな私でも、あなたの願いですか
私たちは、幸せですか。
貴方は幸せですか。
貴方は、
いつになったら、幸せになりますか
最後の声の記憶から、
彼へと繋ぐ数字の羅列がこだまする。
もう思い出す事すら困難なその記憶を、どこからともなく響いたサイレンが掻き消そうとして、これだけはと堪らず耳を塞ぐ。しかし、一度指の背を撫でた温もりに急いて顔を上げれば、確かな鼓動を紡いだ傷だらけの掌が、その手を柔らかく掴んだ。
「まだ、聞いててくれてると思ったぜ」
未だ燻る煙に混じる革の匂い、枯れた響き。
振り向く暇も与えず背を抱き竦めたのは、
絶望を拭い続けて止まない、
この身に昇る沈まぬ太陽だった。
声の律動
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