作業曲::Take That/ Shine
#ぼいそに #hrakプラス 🎤

26のKiss お尻……「愛おしい」







好きじゃない。好きじゃない。
大体、自覚するとろくな事が起きやしないんだ。

そう言い聞かせながら悶々とする帰り道、何店めかのコンビニを迷った末に素通りする。数日感だけルームシェアをする事になった男が誕生日を迎えるせいだった。


明日には出ていくだろうし、寂しい訳では無いけれど、「またね祝い」というか、なんというか。

なんでもなくついでのように、ケーキ屋ではなくコンビニくらいならと考えていた。そして入口に近付く度に「あぁでもやっぱり」を繰り返してしまい、結局、普段は通りもしない道をぐるぐると回っている。

そのやっぱりが「やめた」に傾いた頃、コンビニから出ていった人とすれ違い、冷房の風と共に店内で笹飾りが揺れているのを見てしまい、七夕ゼリーを探しに入店しまったのだった。



「Yoおかえり」

「うん。ただいま」

「いつもより遅いじゃん。寄り道ィ?」

「あー……まあ……うん」


渡しにくくなるような事を言わないで欲しいと思うが多分、本人に悪気はなくて、本当になんでもなく話してるつもりだったんだろうけれど、歯切りの悪さから勘づかれてしまい、その視線がコンビニ袋に集中する。

これは早めに渡してしまった方が、
面倒臭くならずに済むかもしれない。



「はいこれマイクの」

「ウッソ……だろ……」

「嘘じゃないよ、別に、……ほら七夕だし……誕生日でしょ、居るのも明日までだし」

「あー。クソー……嬉し……すぎるぜェェェ!!俺のォォ!ためにィィ!」

「ためにじゃない」

「何件もォォ!探してェェェ!!」

「探してない」

「ありがとな」

「うん」

「……で?その大っきいポスターはプレゼントかなァ?」

「や!!イヤイヤ!これは違う違うただの私!」



小脇に抱えたロールの紙を引き抜こうとするから慌てて抱きしめる。大して大事でもなくて潰してしまったから、逆にその慌てぶりを覗き込まれる。

口元がニヤついていて、変な汗をかきそうだ。



「アーヤシー?えっろいグラビア?」

「んな!!そんなに!エロくないから!」

「っはー……?……え、……マジ?」



とんでもない自爆で墓穴を掘ってしまい、顔が青ざめていく。これは帰り際、ギリギリになって職場に届けられた、とある服屋さんからのポスターだった。


ヒーローコスチュームに使う繊維を織り込んだジーンズを買ったお店で、アンケートとお店のSNSの写真に協力してくれた方は半額という誘い文句に釣られて撮影した数ショットの写真。

私になんて似合わないからと否定ばかりする私に、沢山の暖かい褒め言葉をくれた女性店員に乗せられるがまま、試着室で撮影した手ブラにジーンズだけの自分の写真を大きく引き伸ばしたもので、添えられた手紙にはご丁寧に「お似合いですよ」とかかれていて、ほんの少し、グッときてしまった。

まだ一枚目や二枚目であれば良かったのに、このショットは手ブラである。こんな上半身を大きく前屈させて腰を突き上げた自分の姿なんてポスターにしてどうするのか、貰ってどうするのか、捨てるに捨てられず持ち帰るしか無かったのだ。


「くれよ俺の引越し祝いに」

「なっんで!?バカ言わないでよどういうつもりなの?!」

「あのユメがっつって拡散する」

「サイテー!部屋に入ったら殺すからね」

「冗談だろ、これ食おうぜ。……織姫ちゃんがユメのでぇ?彦星くんが俺のかァ……フゥン?へェェ……カーワイー」



袋の中をゴソゴソするマイクをおいて部屋に上がり、ドアを閉める。ベッドに全てを放り出して、自分の身も投げる。
別に寂しくなんてないしと思うには感情が明確で、好きじゃないと思うには苦しい。



「コンコンコンコンコン」

「うるさい!」

「早く食おうぜ」

「あー」



ドアの前で連呼するだけのエアノックもこれが最後なのかと思ってしまった自分を蹴飛ばすイメージで足を宙に振り上げ、もう一度ドアを開ける。騒がしくしておいて本人はもう居ないなんてのにも、慣れなければいけない。



「なぁ、ちょっと座って」

「なに……どうしたのこれ」



リビングへ降りれば、いつものシーリングライトが白光から橙色に変わっている。
テーブルの中央には買った覚えのない小さなケーキが二つ、マイクの手には、化粧品ブランドのリップ品番が入った箱が、ひとつ。



「世話んなったからよ。これプレゼント」

「うっそ……」

「嘘な訳あるかよ」

「私……こんな……口紅似合う気がしないよ。そんなにお洒落な方じゃないし」

「塗ってりゃ似合うようになんだよ」

「そんな」

「いや、……きっとお似合いデスヨ。……って思って選んだ……つーか。ネ」



ヒゲの端っこを掻きながらそんな事を言うから、あの店員さんが重なってしまって、涙が滲む。

受け取るために触れた指がやっぱり、
少しだけ、寂しい。



「よかったら塗りま」

「結構です」

「早っシヴィィィ」

「……ありがとう」

「おう。あと明日……朝飯要らねぇからさ。起きる頃には出てく」

「うん」

「ありがとな」

「いいよ。……誕生日おめでと」

「センキュ」



最後の晩餐になったゼリーとケーキの味は、正直なところ覚えていない。

透明に埋まった彦星を救い出して私のカップへ乗せてきた、今ばかりは沈黙の彼がどんな思いだったのか、なぜ口紅なのか、どうして照明がムーディな気がするのか、この穴が空いたような虚しさはなんなのか。

譲り合った風呂が、どちらもイレギュラーに長くて睡魔を逃し、とにかく頭も胸もいっぱいで、眠りにつく頃には弱々しく口紅の箱を握りしめて寝てしまった。



翌朝、見送りさえ逃してしまった私は最悪の気分で飛び起きて、持っていた筈の箱が無いことに取り乱す。

そして寝ぼけ眼で見たドレッサー鏡に映るボサボサ頭の自分の唇が赤い事にやっと目を覚まし、ドアの裏のポスター、臀を突き出した姿のジーンズの山にキスマークとプレゼントマイクのサインが描かれているのを見つけて崩れ落ちた。


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